「こっちに来てくだせェ」
「え?ちょ、総悟?…手、離し…」

 俺は副長補佐の彼女の手を引っ張って、自分の方に寄せようとする。それに抵抗を見せる彼女にちょっとムカついた。なんで直ぐ来てくれないんだ。

「なんでィ、あいつの側にはいつもいるくせに」

 俺が少し拗ねるように言うと、訳が分からないといったように首を傾げた。大抵そこらにいる女でこんな事をしていたら、まずわざとだと俺は思う。かわいく見せようっつたって元が残念な奴がやったってイタいだけだ。だがこの人の場合、これが完璧に素なもんだから可愛くて仕方がない。幕府のお上側の人間からは彼女のその剣術や頭脳の有能さ故に「女の身分で大したもんだ」と一目置かれている。そんな彼女がこんなに可愛い動作をするなんて、奴らは思ってもみないのだろう。因みに、真選組の奴らからは「副長の女房役」と呼ばれ慕われている(それが俺はものすごく気にくわない)。

「だって、それは仕事柄仕方ないでしょ?あたしは副長補佐なんだから」
「そんなの、関係ねェや」
「いやいや、関係あるから」

 すかさずツッコミを入れる彼女に俺はガラにもなく嬉しいなんて思ったりする。すきな人に構って貰えるのはこんなにも気持ちをそわそわとさせるものだったか。自他共に認めるドSな自分。それをこんな風にしてしまうのは彼女以外あり得ないと思う。

「俺はあんたが欲しいんでさァ」
「え、えぇっ、あのっ…」

 あ。いきなりの愛の告白に顔真っ赤にして困ってる。可愛すぎだと思う。今どきの20過ぎの女の反応としては実に初々しくて可愛すぎると思う。世の中の20過ぎの女共は、その大半が男慣れしていてそれが例え気になる男からすきだと言われたとしても赤面なんてしないできっと冷静に対処するのだろう。

「その事知ってるくせに、あんたはいーっつも土方さんばっかり付き合ってんじゃないですかィ。ちったぁ俺の気持ちにも気づいて下せェ」

 そう言って、俺は彼女に詰め寄る。目と目が合わさって鼻と鼻が触れ合うような至近距離。ちょっとでも動けば唇だって重なり合うくらいに。

「ちょっ、と、総悟…」

 困ってる彼女を見るともっと困らしてみたい気分になる。こんな事をして楽しんでいる自分はやっぱりやっぱりサディスティックだなァなんて思ったり。でも悪いのは俺じゃない。悪いのは可愛すぎる彼女だ。

「すきでさァ」

 そう言って俺は彼女の頭と腰に腕を回して思いっ抱き締める。そうすると自然に彼女は俺の腕の中にすっぽり入ってしまう。ふわりと一瞬、彼女の髪の毛が香って俺の鼻孔をくすぐる。おんなじ人間だってのに、どうして女ってやつはこんなにも柔らかくて小さいんだろう。そしてそれが彼女ならよけいに愛おしさが増す。

「俺は、あんたの近くに居てェ。あいつの所になんかにゃ行かせたくねェ」
「……そう、ご…」
「俺の傍にいて下せェ…」

 抱きしめた彼女の耳元で囁いて。ぴくりと震えた彼女の肩を盗み見て含み笑いをする。今この瞬間だけは俺だけの彼女。あいつのせいじゃないのだ。彼女の瞳は俺をだけ映し、彼女の心臓は俺のために速めな鼓動を刻んでいる。

「あいつばっかりズリィやい……」

 語尾がだんだんと小さくなったのは、どんなに望んでも彼女は手に入らないという事を、悔しいがきっと心のどこかで甘受しているからなのだ。


愛してるって言ってみて


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永遠の18歳の王子さま、お誕生日おめでとう

20090708