あなたの照れるかわいい顔が見たくて、ついつい、いじわるしちゃうんだよね。 「幸村ぁー入るよー?」 カチャリと浴室のドアを開ければ、それど同時にバシャーンと威勢よく跳るお湯の音。どうやら予想外の出来事に早くも幸村の頭はキャパオーバーになってしまったらしい。その証拠に浴槽から覗かせた顔はわたしの予想以上に赤く染まっている。まだわたしはタオルだって巻いてるし、身体だって肩から下はまだドアの向こうに隠れている。それなのにそこまでのリアクションを素でやってのけるなんて、リアクション芸人だってびっくりだろう。 「ななな…何事でござるか…」 「え、何事も何も、たまには幸村と一緒にお風呂入りたいと思っ──」 「なっ、ならぬっ!」 そんなに全力で否定しなくても、と思ってしまうくらいの勢いで幸村はその赤い顔をぶるぶると横に振る。しかしその恥ずかしがっている幸村がかわいくて、それが余計にわたしのいたずら心をくすぐる。 「えーいいじゃない。たまには幸村と一緒に入りたいよー」 「一緒に風呂など…は、破廉恥でごさるっ!」 「いつもそれより破廉恥なことしてるじゃない」 そう言うとますます顔を赤くさせた幸村は口をパクパクさせつつも黙ってしまった。わたしの発言が事実なだけに、言い返すに言い返せないのだろう。そんな幸村をよそに、わたしはいそいそと浴室に入り込むことに成功した。 「別に何かしようって訳じゃないのよ。ただ幸村と一緒にいたいだけなの」 「しっ、しかし…」 「ね、お願い」 「……仕方がないな…」 「えへへ、やったぁー」 真っ赤な顔で伏目がちに渋々承諾する幸村を見てついウキウキしてしまう。照れて恥ずかしがる幸村を見るのは何とも言えない充実を感じる。しかし、もとはと言えばだいすきな幸村の照れ顔がみたいというのが事の発端なのだ。そのため、大人のお兄さんお姉さんが想像するようなことをしたい訳ではないし、特段変わった何かをしようとも思わない。幸村と一緒にいれて、そのおまけとして照れ顔が見られればそれだけで満足なのだから。 「はぁ〜お風呂きもちいいねぇ〜」 「う、うむ…」 「あ、幸村逆上せそうだったらあがっていいからね」 「大丈夫でござる……」 と言うわけで、だいすきな幸村と一緒に湯船に浸かっているのはいいのだが。何せん、まだ照れているようで幸村はわたしに背中を向けているばかりいる。一応幸村の照れ顔は拝ませてもらったのだし初めは一緒に湯船に浸かっているだけでよかったのだが、所詮はわたしもひとりの人間。一つの欲求が満たされれば新たに別の欲求が生まれてくる。 幸村が背を向けていることがおもしろくなくて、わたしは幸村の背にぴったりと抱きついた。 「なっ、何を…!」 「だって幸村向こうばっか向いててさみしいんだもん」 「だからと言って…」 「えへへ。幸村とくっついてると落ち着く〜」 幸村と肌を重ねるのは別にこれが初めてな訳ではないが、それとはまた違う感触が肌を介して伝わってくる。頬から伝わる皮膚があつい。お湯と言うものを介して触れる幸村の身体は思った以上に心地よかった。 元々人の祖先は海で生まれたのだから、もしかしたら陸よりも水の中の方が安心するように遺伝子に組み込まれているのではないかと思ってしまうくらいだ。そう言えば、出産の際に水中で行うと幾分か楽に生むことがでいると訊いたことがあるが、もしかしたらそれも関係があるのかもしれない。 「っつ…」 幸村の肌のあまりの気持ちよさにゆっくりとその肩を撫でる。男の子なのにすべすべして気持ちがいい。しかし武道を嗜んでいるだけあって筋肉は程よく締まっていて、自分の彼氏ながらいい身体してるなあとしみじみ思う。すると浴槽独特のエコーも相俟って、幸村の小さな吐息が洩れたのが聞こえた。 それがわたしのいたずら心に響かないわけがない。 「幸村、逆上せちゃった?」 「い、いや…」 「あたし、幸村の顔、見たいな〜」 「………」 「…幸村?」 その瞬間、先程と同じザパンと跳ねるお湯の音。お湯の動きで幸村が振り向いたのだと分かる。しかしそのにいたのは照れで真っ赤になった幸村ではなく、少しだけ口角を上げて笑う幸村だった。 幸村の手が触れている肌があつい。そこから溶けてしまいそうだ。幸村もこんな気持ちだったのだろうか。 「え、ちょっ、幸村?」 「どうやらお前はどうしても俺を煽りたいようだな」 「……はい?」 「ならば望み通りにしてやろう」 言うやいなや、噛みつくように吸われる唇。逆上せてしまったのだろうか、唇に感じるがそれはあつい。 そして一度、唇を離した幸村は意地の悪そうな顔で笑うのだ。 「無論、覚悟は出来ているのであろうな?」 どうやら逆上せてしまうのはわたしの方らしい。 淡いシュガーの おかしな誘惑 20120806 |