「大変ですね。お酒を呑む人は。お金絡みのストレスをお金をかけて発散しなくちゃいけないなんて」
「いやいや、それほどでも」
「褒めてねぇよ白髪」

 テーブルに散乱した酒瓶を見つめて溜め息をつく。幸いまだ出来上がっていないのが救いだが、口の空けられた数本の瓶とまるでダメな男が目の前にいる光景を見て呆れてしまう。敬語で話すのはささやかな蔑みのつもりだったのだが、残念ながらこの男には全く効果が感じられないようだった。

「男はなー酒呑まねーとやってらんない時があんだよー。わかるー?」
「判るわけないじゃないですか。年がら年中金無い金無い喚いてるくせに。言ってる事とやってる事が矛盾してますよ」
「あれ?なんか今日冷たくない?つかなんで敬語?激しく距離を感じちゃうんですけどー」
「今頃気付いたんですか。このくるくる天パ」
「ちょっ真面目な顔して辛辣な言葉吐かないでくんない!?本気っぽからやめてくんない!?」
「今頃気付いたんですかこのくるくる天パの能無しが」
「あれ、なんかさっきより酷くなってない?あれ気のせい?」

 いじけモードに入りそうなくるくる天パの能無し白髪は面倒くさいので構うのをやめた。それより白髪を構うよりもテーブルに広げられた酒瓶を片付けなくては。ああ、もう。呑みすぎだばか。

「お金をかけなくてもストレス発散できるしゃないですか。睡眠とか読書とか」

 あたしのストレスの解消法はたくさんの睡眠をとったり借りてきた本を一日中読むことだ。これらならお金は全くかからないし悪酔だってしない。こんなすてきなストレスの解消法があるのに、なぜこの人はそれを実行しないのだろうか。甚だ疑問である。これだから低脳は困るのだ。

「だってよォ〜。一日中なんか寝てらんねェしよ。俺はバイブルのジャンプしか読まねぇって決めてるし?しかもあれ、週間だから金かかるし今週号買ったら来週まで待たねェといけねぇじゃん?俺そんなん無理だしまじで。だから酒に頼るしかないってわけですよ〜」
「…このプー太郎が。もう勝手にして下さい」

 呆れの感情も消え去ってしまい、仕方なくあたしは酒瓶を数本手に持って台所へ行こうとする。するとその後ろで白髪があ、っと何かを思いついたらしい声を上げる。しかし生憎あたしはそんな小さな思いつきにリアクションしてあげる優しい女じゃないのでそのまま無視して台所へ足を進める。すると後ろからいきなり抱きすくめられた。あまりにも突然だったために、酒瓶があたしの手から滑り落ちるところだった。

「ちょっ、と、何するのよ」
「ん〜、金かけないストレス発散思いついたわ」
「は、?…」
「今からさ、」

 そういって白髪はあたしの耳元に唇を寄せてわざと息が耳にかかるように囁く。それに不覚にもびくりとした自分の肩が憎い。

「銀さんと、一つにならねェ?」

 体がぐんといきなり熱くなったのは、酒に酔って熱を孕んだ銀時の手に触れられたからだと思いたかった。




20090720