「あんた、あんまり調子乗ってるとそのうち痛い目みるわよ」
「へぇ?それは是非見てみたいもんだよ」

 情事後の気だるさを振り切って呑気に隣で向かい合わせに寝転がっている男を睨みつけた。それと同時に素肌に直接感じるシーツがシワだらけで、それが一層私を不快にする。昨夜の神威はいつもよりも激しくて、私は大変ひどい目に遭った。歯をたてて首筋に噛みつくは力いっぱい胸を鷲掴みにするは無理やり突っ込むはでもう散々だった。一応彼としては人間の私に対して力を加減したつもりなのだろうが、痛いものは痛い。いくら抗議を申し立てても行為を止めることをしなかった彼にはいい加減嫌気がさす。当の本人はと言えば私と違い、とても清々しい朝を迎えたようである。いつも三つ編みにしている桃色の髪をほどき胸から下をシーツで覆って隣で相変わらず憎たらしい笑顔でにこにこと笑っているのだ。なんて不愉快な。

「地球の昔話ではね、兎はいつも調子に乗って失敗するのよ。兎と亀然り、稲葉の白兎然り」
「ふーん?その地球の昔話の兎達はどうなるのさ」
「確実に手に入れられるものを油断して手に入れられなかったり、おふざけが過ぎて皮を剥がれたりね。要するに調子に乗りすぎたの」
「ははっ地球の兎ってのはバカだなぁ」
「あんたも少しは弁えるって言葉を知りなさい」
「ははっ。随分と大きなお世話だよ」
「明日は我が身かもしれないわよ。もしかしたら明日にも大切なものが無くなってるかもしれないじゃない」
「…、……」
「………神威?」

 会話の延長戦上でイラつき半分おふざけ半分の言葉を口にした途端、今まで軽口を叩いていた神威が突然黙ってしまった。気になってその顔を覗き込めば何時になく真剣な顔をした神威がいて少なからず驚いてしまう。

「…それって…、お前が消えるってこと?」
「…え?」
「お前が俺の前からいなくなるってこと?」
「……神威…?」
「お前がいなくなるのは、嫌だなぁ…」

 言葉が切れるか切れないかという瀬戸際に隣から2本の腕が伸びてきてあたしを思い切り抱き締める。神威の呼吸が首筋に直に当たって少しくすぐったい。

「決めた」
「え…?」
「地球の兎は調子に乗って失敗したみたいだけど、俺はそうはならない」

 今でも強い力で抱き締められていたのにも関わらず、更に強い力で抱き締められる。肩と腰に回された腕に力が入り神威の胸の辺りに引き寄せられたため心臓の鼓動を直に感じた。

「俺はすきなように生きるけど、大切なものを手放したりなんかしない」
「…」
「失敗なんかしないよ」
「…神威」
「お前を手放したりなんかしない」

 そう言って神威はあたしに滅多に見せない優しい笑顔で笑いかけた。くそぅ。こんな笑顔でそんな事を言われたら腰の痛みもまぁいいかな、なんて思ってしまうじゃないか。









20090911