露光の夜を綴じ




Twitterでお世話になってるたまさんへ、捧げた夢主コラボ小説です!




珍しい子がいるな、と思った。ふわふわとした所謂ロリータを好み、どこにいたって目立つ容姿。それはこのボーダー内でも勿論適応されて。

ーー迅のお気に入りのあの子の名前は御花、御花うたちゃん。私服を見るのは初めてで、迅から話だけは聞いていたけれど本当によく目立つ子だなあなんて。きょろきょろと本部の中を見渡しながら迷子になっている様子で、俺は声をかけてみる。

「どうしたの?迷子?」
「わ、…って誰かと思ったら神原さん!えっと、久しぶりです…?」
「ふふ、久しぶり」

横から顔を覗き込みつつ声をかければ小動物のように飛び跳ねる彼女。それが面白くってくすくすと笑っていればにっこりと綺麗に作られた笑みのまま「神原さんもですか?」と聞かれる。

「んー、それは迷子ということ?」
「もう、わたしは迷子になっていたわけではないです!」
「ごめんごめん、冗談だよ。そんなに怒らないで」

城戸さんたちから呼び出されたんでしょ?俺も一緒だよ

そう言えば御花ちゃんは納得したようにはい、とひとつ頷いた。近々大掛かりな任務があるそうで特殊なSE持ちの俺は呼び出された。それは俺だけじゃなく彼女も同様。だって御花ちゃんも俺と同様、上層部から必要とされるSE持ちのひとりだから。

千里眼、なんてもの。俺とはまた違うけれど目を主体とした能力で、使いすぎると貧血なんてデメリットも似ている。いや俺の場合は失明なんだけれど、いつこの目が使い物にならなくなるのか、迅あたりならもう見えてそうだ。

シュンと軽い音を立てて開いた扉の奥には上層部の人間と、それから迅がいて。他にもA級のメンバーがちらほらと。俺と彼女を見て迅が挨拶がてら手を上げた。

「珍しいね、御花ちゃんが砂月と一緒なんて」
「なーに、迅。どうせ見えてたんでしょ?さっきそこで出会ってね。ついでだし一緒に来たんだ」

ていうか、迅こそ一緒に来たらよかったのに。と思ったけれど訳ありなのだろうか?よくはわからないけれど、迅たちの関係性に俺が口を挟むわけにはいかないのでにっこり笑顔で黙り込んだ。

彼女は迅と同じく玉狛の子だ。昔、俺がまだ戦闘員だった時代に彼女はボーダーにやってきた。もしかしたらオペレーターになってから会うのは初かもしれない。こちらに来た時から黒トリガー持ちの彼女は迅に引き取られすぐに玉狛所属となったんだっけ、その辺の経緯は俺自身もあまり知らなくって。俺はボーダー本部が出来てすぐそちらに移動したから。玉狛については詳しくないのだ。


本来なら俺も玉狛に残るべき人間だっただろう。でも、残らなかった。…残るなんて、考えられなかったんだ。


俺は怖かったんだ、迅が。

なにより玉狛に残って、最上さんを思い出してしまうことが。


小南ちゃんにはボロクソに言われたっけ、あは、懐かしい。迅は一切否定なんてしなかったから俺は今本部に身を置いてるわけだけれど。

たまに本部で見かける彼の隣にはいつもこの小さな女の子がちょこんと佇んでいて。柔らかく笑う迅と彼女の姿を見かけるたびに良かったとは思ったけれど。でも少しだけ、ほんの少しだけ、嫉妬に近い感情もあったのも事実で。

俺では、彼を救うことができなかった。
俺では、俺たちではダメだったのに。

こーんな小さな女の子ひとりのために奮闘している、そのことが、その事実が

なんだかすこし悔しいような気もするんだ。


「御花ちゃんこっちにおいで」
「迅くん、先に来てたですか」

小さな背中は嬉しそうにぱあっと輝く。俺といた時とはまた違った笑顔で、ふふ、かわいい。

彼が彼女にどうして執着するのかはわからない。それが恋なのか、彼のサイドエフェクトに関わることなのか、まあなんとなく想像はつくけれど口にするのはやめておこう。

まあ、ひとつだけ。君に言葉を投げかけるのならば。


「…俺の分もよろしく頼むよ」


ぽろりと零した台詞は彼女に届いていたのかはわからない。わからないけれど、ようやく彼女を認めることができたような気がして心がすっきりしたのは確かだ。

「神原!ちょっとこっち来てくれんか!」
「はいはい、なんですか鬼怒田さん」

俺は、俺はね?迅がもう一度涙を流すようなことが起こらなければもうなんだっていいんだ。幸せそうならそれで。うん、それでいい。




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