荒船先輩の彼女偵察隊




相互の青さんより!こちらのイラストに加えお話まで頂いてしまいました!荒船大好きな晶ちゃんが穂刈とともに偵察しにくるお話





「悪いが今日は勉強見れねぇ」

ぽん、と頭の上に手を置いてそう言った荒船に晶は課題を抱えていた手から力が抜けた。

「落ちたぞ」
「………はい」
「………穂刈頼んだ」

床に落ちた課題を拾った荒船が作戦室から出て行くのを晶が呆然と見送っていると、「やるか、課題」と肩を叩かれる。あの、ちょっと、待って下さいほかり先輩!晶は心の中で焦ったように声を上げた。

「捨てられた?」
「誤解を招く言い方だな」

なんだかんだ言いながらいつも勉強を見てくれていた荒船に断られて、思っている以上に動揺しているようだ。

ハッ……これはまさか……噂の……。

「彼女だ」

きっと彼女に会いに行くんだ。うんうん、それならしょうがないよね。そう納得してデスクに座った晶に勉強を教えるために穂刈も向かい側へと座る。いつも荒船が教えるため、こうして穂刈が教えるのは珍しかった。荒船が世話焼きなのもあるが、穂刈も聞かれても荒船に丸投げしていたからだ。

「早く終わらせたいです!」
「お?珍しくやる気だな」
「終わらせて荒船先輩の彼女を偵察しに行きます!」
「偵察」

彼女いることを内緒にしてるのがいけないんです!ふんふんと頬を膨らませながら課題に向き合う晶に穂刈は思わず吹き出す。自分たちに懐く後輩は可愛いものだ。

「ほかり先輩も行くんですからね!」

大好きな先輩を見知らぬ誰かに取られて、晶は拗ねていた。

*********

「ほかり先輩……荒船先輩どこにいるんですか…」

ゆらゆらと揺れる背中の上で黒い髪を眺める。……うーん、どうやって髪セットしてるんだろ。

「ラウンジ見てみるか」
「はい!」

背の高い穂刈に背負われている晶は、すれ違う人が驚いた表情で視線を向けてくることに気付くことはなかった。目立つことが嫌いな割には詰めが甘い。穂刈はそのことに気付いてはいるが、面白いので教えるつもりはなかった。

「荒船の彼女に会ったらどうするんだ?」

荒船が会っているのは十中八九自身の友人でもある中津みのりだろうが、何も知らない後輩の勘違いを正すつもりは穂刈にはなかった。そっちの方が中津に会ったとき面白いだろう。表情からは分かりづらいが、穂刈はふざけていた。作戦室を出るとき、何かを察した半崎の呆れたような目線を気にせず自ら晶を背負うくらいには。
目的地へ着くと、穂刈の予想通りラウンジの一角で荒船は中津に勉強を教えていた。教科書を前に頭を抱える姿は、さっきまでの晶に被った。

「………あの人が荒船先輩の彼女」

穂刈は荒船に彼女がいるとは一言も肯定していないのに、晶は荒船が彼女と会っているのだと決め付けていた。二人はまだ友人だ。そろそろネタバレしようと一息ついた二人に近づく穂刈に背中にいる晶は焦ったように襟を引っ張った。

「話し掛けるんですか!?」
「何しに来たんだ?」
「偵察ですって!」

デートの邪魔したら怒られる!頻繁に怒られているため、晶は荒船が怖かった。よく顔色を伺っているわりに、怒られることを平気でするのだが。好奇心には勝てないのだ。
止める声に聞く耳を持たずに、穂刈は二人の元へとスタスタと近付いていく。晶は出来るだけ大きな背中に顔を隠すが、ばればれである。

二人に声を掛ければ、ぎょっとした丸い目はいつまで経っても穂刈から視線を離さない。正確には、穂刈の背中にいる晶をガン見していた。男友達が女の子をおんぶしていたら、当然見るだろう。
しばらくして背中から顔を覗かせた目と目が会ったみのりは、この状況がよく分からないままへらりと晶に笑い掛けた。


(何やってんだこいつら)




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