甘味と笑顔をおすそわけ




相互の青さん宅の五月晶ちゃんと、Dandelion夢主とのコラボ小説です。






倫ちゃんの従姉妹がボーダーにいるらしい。名前は五月晶ちゃん。あきら、と聞いて最初は男の子かと思ったんだけれど会ってみたら大人しそうな可愛い女の子だった。

ボーダー内をパタパタと歩きながら向かっている先は荒船隊の隊室で、インターホンも押さず我が物顔中に入れば「きゃあ!」とした小さな悲鳴が飛んできた。

『うえ!?えっ!ごめんなさい…?』
「びっくりした…中津先輩」
『驚かせるつもりはなかったの!』

中にいたのは晶ちゃんだけで、この悲鳴も彼女によるものだった。晶ちゃんは入室直後は驚いたように目を丸くしていたもののわたしの姿を確認すればぺこりと頭を下げて。おお…かわいい。なんだか先輩になった気分である。いや先輩には違わないんだけれど!最近の後輩って、こう…良い意味でも悪い意味でも生意気な子が多いから!ほら、緑川くんみたいな!だからかな、なんだか新鮮でついつい甘やかしたくなってしまうのだ。

「いいにおい…」
『お、気づきましたか!さっすが晶ちゃん!』

甘い匂いが漂うそれは両手に抱える紙袋から。まだほかほかと温かいその中にはたい焼きが6個ほど。珍しく諏訪さんが太っ腹に買ってきてくれたのだ。それも大量に。一体どうしたんだって感じだけどきっと麻雀に勝ち機嫌がよかったからだろう。流石に諏訪隊だけでは食べきれない量だったのでこうして荒船隊におすそ分けをしにきたのだ。

『たい焼き!諏訪さんがいっぱい買ってきてくれたからおすそ分けにきたの!』
「たい焼き…!」
『うん、ほら晶ちゃんが好きなチョコ味もあるよ』

きらんと目を輝かした晶ちゃんはどうやら甘いものが好きな様子で、中でもチョコが好きだと前に穂刈から聞いたことがあった。女の子らしくてとても良いと思う。ちなみにわたしは甘いものよりも塩辛いものの方が好きだ、もちろん甘いのも好きだけどね!

さて、お茶の準備でもしますか、とまたしても我がもの顔で荒船隊室の食器棚に手を伸ばす。そうしたら背後から「あ!」と声が上がったので振り返ったところ、晶ちゃんがお皿とカップを二個ずつ手に持っていた。

「お皿…!お茶も、準備できてます…!」
『おお、いつのまに!さすがチョコハンター、チョコのこととなるとお仕事が早いですなあ』
「チョコハンター…」

満更でもない表情をしながらえへへ、と座った晶ちゃんは心底可愛かった。妹にしたい感じだ。もしかしたら荒船の好みは晶ちゃんみたいな子なのかもしれない、黒髪で大人しいけれど根性があって、そして可愛い。…私と真逆じゃないか。

荒船から好みを直接聞いたことはない、けれど長く付き合いがあったら好みくらいは大体わかるものだ。長いといっても2年ちょっとくらいだけれど。それでも、学校やボーダーで彼と一緒にいる機会が多いわたしは彼のことをある程度は理解しているつもりだ。あくまでつもりだけれど!

お皿にまだ温かいたい焼きを2個乗っけて、はい!と晶ちゃんに渡した。チョコ味とりんご味だ。甘く煮たリンゴの餡が中に入っていて、甘酸っぱくてトロトロしてて、とてもおいしい。わたしは好きだ。もしかしたら諏訪さんがたい焼きを買ってくるたびにわたしはこれを食べてる気がする。

「二個…」
『うん!荒船にどうかなって思ってたけどいないみたいだし晶ちゃんにあげよう!りんご味だよ!』
「りんご味、変わってますね…!」
『はじけるようなフレッシュな甘さだよ、アップルパイみたいで美味しいからあったかいうちに是非に!』

あっ、チョコも食べてね?と付け足せば晶ちゃんは嬉しそうにたい焼きを頬張った。両手で支えて食べるその様はまるで小動物のようだ。一つ目はチョコではなくりんご味だった様子でたい焼きらしくないサクサクとした音が荒船隊室に広がった。

『どうー?それわたしのお気に入りなの!』
「美味しいです!」
『そりゃよかった!』
「えへへ、それになんだかこのたい焼き…中津先輩みたいだなって」

甘酸っぱくて、シャキシャキしてて。チョコとはまた違った魅力があります。

と笑った晶ちゃん、きょとんと一瞬目を丸めてしまったけれどわたしは美味しい女だってことなんだろうか、ちょって国語が苦手なのでよくわからなかった。けれど、まあ、めちゃめちゃ可愛いです。

そのあとチョコのたい焼きも食べて辺りにお花を散らす晶ちゃんを見て、自分が買ってきたものじゃないけど女の子に貢ぐ男の人の気持ちが少しだけわかったような気がしました。





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