・妖怪パロ


誰しもが足を踏み入れない暗い暗い森の奥に古びた井戸が一つありました。


其処は、遥か昔に村の風習により贄の儀式と言う人を生贄とした儀式が行われ、そしてその儀式を終えた贄を葬る為の古い古い井戸でした。


明らかに何かが出そうなその井戸に近づく人など居ないのです。



そう……“人”はね……。






「ふーみーさーん{emj_ip_0792}」





薄暗い森の中。

寂れた井戸を覗き込み、底に向かって誰かの名を呼ぶ白髪の歪な髪型をした少年がいた。
人の気配も無い、昼間なのに木々が生い茂り陽の光が差し込まない森の中に白髪の少年と言う歪な光景が広がっていた。



少年は、先程の様に「ふみ」という名を呼ぶが井戸からも森の木々達の影からも「ふみ」と呼ばれた者は出てこなかった。

白髪の少年は、むぅっと頬を膨らませると大きく息を吸い込み先程の名を再び叫んだ。


「ふぅぅぅぅぅみぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁ{emj_ip_0793}痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ{emj_ip_0792}」


少年が再度、井戸の底に向かって叫んだ時、絶対に井戸から飛んでくる筈のない風呂桶が白髪の少年の顔面へと飛来した。

白髪の少年は、あまりの痛さに顔を押さえながら井戸の前にしゃがみ込んでいるとその古びた井戸の中から白く透き通った人間の手がにゅっと伸びていた。




その手は、井戸の淵に手を掛けると井戸の中から胸までの黒髪を揺らし白い着物を纏った美少女が姿を現したのだった。

井戸の底から現れた白い肌の美少女の瞳は黒真珠の様に美しいのだがその瞳に光は無く、何処と無く不気味さを醸し出していた。

そんな浮世絵離れした存在の少女は、風呂桶が顔面にクリーンヒットした少年に目を向けると眉間に皺を寄せ、その艶やかな唇を開いた。


「人虎、煩い。」


「だって、ふみさんが出てきてくれないからですよ!」


“折角、会いに来たんですから!”とにこにこと笑う目の前の少年に少女は、溜息をついた。


少女の名前は、ふみ。
先程から白髪の少年が叫んでいた名前の人物であった。
少女は、井戸に住み着く妖である。
井戸に住み着いてはいるが井戸から全く出れないと言う訳では無く、本人にその気があればいつでも何処へでも行けるのだが、本人は井戸の中での暮らしが落ち着くと感じており、あまり井戸の外に出ようとしないのであった。

そして、そんなふみの名を叫ぶ事で井戸から引きずり出した少年の名は、敦。
白虎の半妖である彼は、森の古井戸に住み着くふみに一目惚れした等と言い無理矢理に森に住み着き出したのだ。

そんな彼は、半妖故に妖力をあまりコントロール出来ておらず、感情が高ぶった時や驚いた時などに普段は隠している尻尾や耳が飛び出たり満月の日には体が完全な白虎になってしまったりすると体質を持った妖だった。


風呂桶が顔面にクリーンヒットした衝撃で出てしまったのか敦の頭には、白虎の耳が尾*骨辺りには白黒の尻尾がゆらゆらと揺れていた。



ふ「貴様は毎日毎日、井戸の底に向かって大声で叫ぶのを止めろ。」


敦「嫌です。
大好きなふみさんに会うための日課なので{emj_ip_0792}」


ふ「貴様のその面の皮を剥いで売ってやろうか?」


敦「ふみさんが買ってくれるなら幾らでも売りますよ!」


ふ「要らぬ。」


敦のめげない対応に疲れたふみは、溜息を吐くと井戸の淵に腰をかけた。
敦も立ち上がり、ふみの隣に腰掛けるとにこにこと話をし始めた。


敦「爾汝仔さん達が心配してましたよ!ふみさんが最近姿を見せないって」


ふ「爾汝仔様が…?」


敦「はい。
つい昨日、ふみさんと会った帰りに偶然に爾汝仔さんに会ったんですよ。
それで色々話してて爾汝仔さんが「最近ふみを見かけていないが元気かい?」と言ってました。」


敦がふみに昨日の出来事を伝えるとふみは、「そうか…また、会いに行こう」と呟いた。


敦「その時は僕も行きますね!」


ふ「何だと?」


敦「結婚の挨拶に行かないと!」


ふ「死ね、この淫獣が」


敦「ふみさんにだけですよ!」


ふ「有り難迷惑、死ね人虎」


敦「照れてるふみさんも素敵です!」


ふ「貴様…かぐやが世話になっているドストエフスキー殿に頼んで貴様の寝床を燃やして貰うぞ」


敦「そしたら、ふみさんと一緒に住めますね!」


ふ「貴様自身を放火して貰う様に頼むからな」


ふみは、再び溜息を吐くと隣に座り嬉しそうに自身の妄想を話す敦にバレない様に小さく微笑んだのだった。



敦「僕の心は、ふみさんに放火されて燃え上がるばかりですよ{emj_ip_0792}」


ふ「今すぐ鎮火しろ」