(橙ちゃん家の妖パロのお話をお借りしました。)
*芥|川双子が不思議な力を持った人の子設定です。








ふ「りゅう…の…すけ?」


少女は、自身に何が起きたのかが分からなかった。







少女の名前は、芥川ふみ。
芥川龍之介の双子の妹で銀の姉であった。
幼き頃より龍之介とふみには、不思議な力があった。




所謂、“霊感”と言うものであった。


その力は強く、その為か霊か人か妖かを区別出来ずに話しかけたりしてしまい他の力の無い人間達から気持ち悪がられ幼少期から二人には友達と呼べる存在が出来ることが無く、そのまま高校生へと成長した。


そんな二人は、林芙美子と言う女性と出会った。
芙美子は、二人を自身の妹や弟の様に大層可愛がっており、そんな芙美子に二人は直ぐに慕い始めたのだった。


妖や霊に対して察知能力と結界能力が格別に強くなったふみは、芙美子の醸し出される気配から妖との混血児である事には気づいていた。
だが、妖の血が混じっていると言っても何世代も前の事なのでその血は薄れてはおり、ただの人間として生まれてきた芙美子が誰も妖だとは、ふみでなければ気づけない程だった。


人間だろうが妖だろうが、ふみには如何でも良かった。
家族以外で仲良く出来る存在が嬉しかったのだ。


片割れである龍之介も同じ思いだろうとその時、ふみは思っていた。



この時迄は…。





いつからおかしくなったのかふみには分からなかった。

ただ、龍之介は独走癖と執着心が人一倍強かった。
片割れであるふみも独走癖と執着心が強かったが、龍之介は其れを上回る程のものだった。


いつからだったのか。


龍之介の芙美子に対する執着心が強くなった。
片割れである、ふみが芙美子と話していると芙美子の見えない位置から殺気を向けながら睨んでいるのをふみは気づいていた。
だが、芙美子が龍之介に話しかけると何時も通りに戻るのでふみは、自身の気の所為だと言い聞かせていた。


家に帰ると龍之介が「あまり彼女と話すな。」と言われた事もあった。
ふみを見つめながら言う龍之介の瞳は、光が無いのは何時もの事なのにその瞳にふみは、背筋が凍るのが分かった。

酷く恐ろしく感じたふみは、震える体を何とか抑えながらコクリと頷く事しか出来なかった。


そんなやり取りが数回あった数日後…



“芙美子が急遽、転校した”と言う衝撃的な話しがふみの耳に入った。

その話に驚いたふみは、嫌な予感が頭を過ぎったが自身の中で“そんな事は無い筈だ”と誤魔化し、芙美子の担任へと転校の話を直接聞きに向かった。

芙美子の担任に尋ねると芙美子に直接言われた訳では無く、芙美子の家族だと名乗る男から転校の電話が掛かって来たと言う芙美子の担任の言葉にふみの不安は、ますます大きくなった。


違う。


ふ「そんな訳ない。」




自分に言い聞かせるように、ポツリと呟いた。








慕っていた芙美子が転校してからと言うもの、何故か片割れである龍之介の帰りが遅くなる様になった。


自室にも龍之介の力で結界が張られており、ふみと銀は龍之介の部屋に近づく事すら出来ず、日に日に龍之介の纏う雰囲気も暗く恐ろしいものになって行く姿にふみは、震えそうになる身体を抑える事しか出来なかった。




大丈夫。


大丈夫だ。


そんな事は、ない。


私の気の所為だ。









でも、不安が拭えなかったふみは、満月が夜空を照らす深夜…


家を出ようとしていた片割れを月光が差し込むリビングで待ち構えて居たふみは、龍之介を引き止めた。



ふ「龍之介…こんな時間に何処へ行くつもりだ?」



そう龍之介の背中にふみが問いかけると龍之介の黒い瞳がふみに向けられた。
その瞳は、ふみと同じく光がないのにふみよりも深く暗い闇が渦巻いている様に感じられた。

ふみは、その瞳を向けられただけで無意識に身体が震えそうになった。

だが、バレない様に立て直すと再度、龍之介へ問いかけた。




ふ「何処へ行くつもりだ。」




ふみの二度の問いかけに龍之介は、黒い瞳を少し細めると「ふみには関係ない」と答えた。


ふ「こんな夜中に出かけるとなると不思議に感じるのも仕方がないだろう…?」



ふみの言葉に龍之介は、眉を寄せた。






龍「僕の邪魔をするな」





そう言って出て行こうとふみに背を向け、リビングの扉の取手に手を掛けた時、バチンと龍之介の手と扉の間に電気が流れた。




龍「結界か……




貴様…






ふみ、どう言うつもりだ…」




結界を張ったのは、ふみだった。

察知能力と結界能力が格別に強いふみは、リビングを抜けなければ玄関に行けない家の作りを利用し龍之介がリビングに来るのを見計らい、リビングに足を踏み入れた瞬間に部屋全体に結界を張ったのだ。



その事に怒る自身の片割れにふみは、泣きそうになるのを耐えながら、出来れば何も言わないでと願いながら問いかけた。


ふ「龍之介…








芙美子さんは、何処っ…{emj_ip_0793}」






ふみが“芙美子”と名を出した瞬間、



ふみの頬に痛みが走り、黒い髪がひらひらと舞った。


ポタポタと何かがふみの頬を伝い床に落ち、鉄の様な匂いから血である事がふみには分かった。
軽くなった左肩にふみは、恐る恐る下を向くとふみの美しい黒髮が床に散らばっていた。



ふ「りゅう…の…すけ?」


少女は、自身に何が起きたのかが分からなかった。





再び、前に立つ龍之介に目線を戻すと龍之介の手にはリビングの扉の横にある棚のペン立てに置いてあった文房具の鋏が握られており、ここで初めて片割れである龍之介に刃を向けられたと言う事を理解出来たのだ。

その鋏の刃の部分は、微かに血が付着しており、ふみの頬を切り裂き髪を切り落としたのは此の鋏を使って行ったと言う事が分かった。


唖然と龍之介を見つめるふみに龍之介は、黒い目を見開きながら言った言葉にふみは、自身の中で何かが壊れる音がした。




龍「彼女は、僕の物だ。







次にその名を呼んでみろ。







貴様を殺すからな。」




そう言うとふみの結界が緩んだ事に気付いた龍之介は、そのまま結界を破るとふみを置いてその場を後にしたのだった。



龍之介の背中を見つめる事しか出来なかったふみは、そのまま力が抜けてしまったかの様にずるずると座り込むと美しい瞳からポロポロと涙が溢れ出した。



ふ「りゅう…っ…の、すけぇ…」



泣きながら片割れの名を呼ぶが、片割れには届かない。


溢れる涙を止める事が出来なかった。









「ふみさん、泣いてるんですか?」



ふみしか居ない筈の月光が差し込むリビングにふみでは無い声が響き、
ふみは、声が聞こえた自身の背後にあるリビングからベランダに繋がる窓へと目線を向けた。



するとそこには、満月を背景に立つ一人の歪な髪型をした少年が立っていた。


少年の頬には虎の様な模様が浮かんでおり、人間では無い事が分かる程、歪な存在感があった。


少年の名は、敦。白虎の妖である。
人間であるふみに一目惚れしたなどと言い、ふみに猛烈なアタックをし始めた変わった妖であった。
ふみは、その猛烈なアタックに苛立ちを覚え、いつも追い払われている妖としては弱い類の筈だった。


なのに、何故
今ここにいるのか、ふみには分からなかった。
“家ではゆっくり過ごしたい”と言う理由から何重にも龍之介とふみで結界を張っており、ちょっと強い妖ですら侵入出来ない程なのに……



ふ「何故……人虎がここに…」



訳が分からないと目を見開きながら言うふみに敦は、



敦「ふみさんが泣いていると思ったからですよ」



と微笑みながら言うだけだった。



ふみは、何故か敦の微笑みが恐ろしく感じられた。


敦は、座り込んでいたふみに近づき、目の前で立膝になると涙で濡れたふみの頬を両手で包み込む様に触れた。



ふ「触る「可哀想な、ふみさん」{emj_ip_0793}」



敦の言葉にふみは、体が固まったのが分かった。
そんなふみに敦は気にする事なく、微笑みながら言葉を続けた。



敦「可哀想な、ふみさん。髪も芥川の所為でこんなに歪に切られてしまって」



ふ「止めろ」



ふみが目を見開いた。





敦「可哀想な、ふみさん。大切な片割れに刃を向けられて」



ふ「やめ…ろ」




ふみの体がカタカタと震え出した。





敦「可哀想な、ふみさん。片割れに見捨てられて」




ふ「やめ…」



ふみの瞳からポロポロと再び涙が溢れる。







敦「可哀想な、ふみさん。




全て分かっていながら、気づかないふりをして偽りの幸せを求めていたのに自分で壊し片割れも慕っていた人も失くした可哀想なふみさん。」






ふ「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ{emj_ip_0792}」




ふみは、狂った様に叫ぶと頬に触れる敦の手を振り払い頭を抱えた。
涙は、止まる事を知らぬかの様に次々に溢れては床を濡らしていった。



ふ「なら、私はどうすればよかったのだ{emj_ip_0792}



芙美子さんを助けて、闇に堕ちた龍之介を殺せばよかったのかっ{emj_ip_0793}


それとも龍之介が闇に堕ちた原因の芙美子さんを、殺せばよかったのか{emj_ip_0793}」




問いかけるふみに敦は何も答えなかった。




ふ「私は唯……





二人を失いたく無いだけなのに…」



“どうして…”と譫言の様に呟くふみを敦は、楽しそうに見つめていた。



敦「“二兎を追うものは一兎も得ず”」



”賢いふみさんなら意味がわかりますよね?”と微笑む敦にふみは、何も言えなかった。


正しく、其れなのだとふみは思った。


片割れである龍之介が芙美子に何かをしたのは最初から分かっていた。
其れをふみは片割れとの関係が壊れるのを恐れ、一歩を踏み出せなかった。


このまま知らないふりをしておこう。
全て気の所為だと言う事にしておこう。

だが、それなら芙美子さんは如何なる?
苦しめられたままなのか?


龍之介を失いたく無い。
でも、芙美子さんも失いたく無い。


如何すれば…



と二人を追い求めた結果…



ふみには、何も残らなかった。







ふ「もう…二人は私の元には、戻らない…」




絶望。


その言葉がふみの頭を駆け巡った時だった。






敦「僕ならふみさんの願いを叶えられますよ。」


敦の声が響いた。


ふ「えっ……?」


突然の敦の言葉に思考が追いついていないふみは、再度敦に問いかけると敦は、ニッコリと笑いながらふみに言った。






「僕ならふみさんの願いを叶えられますよ。」








ふみは、敦の言葉に目を見開いた。



震える唇で「嘘だ…信じ、ない」と呟くと敦は、笑みを崩さず「可能です」と言い放った。




敦「僕は、妖です。ふみさん達人間とは違って力があるんですよ。



なので、願望を叶えるなんて容易いですよ。」







ふみは、目の前の敦が輝いて見えた。
暗い闇に落とされて迷子になったふみに敦と言う光が差し込んだ気がした。



ふ「ほんとうに…?」



本当な、目の前にいる人虎が本当の事を言っているなら縋りたかった。
大切な片割れと芙美子を取り戻したかったのだ。



敦は、ふみの問いかけにニッコリと微笑むと頷いた。





敦「ただし、ふみさんの願いを叶えるのに条件があります。」




ふ「条件…だ、と?」





敦は、「えぇ」と答えるとふみを見つめる目を細めた。






敦「願いを叶えるのには、等価交換が必要です。





その願いに見合った…ね。」





ふみは、心臓がばくばくと音を立て出したのが分かった。



それは、そうだ。願いを叶える為には対価が必要だ。
何もなしで手に入るなどと言うと旨い話は、この世には存在感しないのだから。




ふ「その対価とは……」




敦「簡単ですよ。









ふみさんが僕の物になってくれれば良いだけですよ。」






と微笑む敦にふみは、戸惑いが隠せなかった。






僕の物にって如何言う事?




分からない。




私は、死ぬの?




目の前の此奴に食い殺されるのか?




と言う思いが駆け巡った。




そんな、ふみに敦は気付いたのか微笑みを崩す事なく、「殺しはしませんよ」と言うとふみの前に手を差し出した。





敦「さぁ、ふみさん。




一つだけ、選んでください。




彼女を助け、片割れに一生恨まれながら生きるか。




それとも、闇に堕ちた片割れを助ける為に元凶である彼女を消すか…。





そして、僕に身を委ねて自身の願いを叶えるか…」





-ふみさん、貴女が決めてくださいね-







ふ「私は……」













白虎は、ゆるりと口を歪ませた。











「此処にその人物がいるんですか?」



金色の髪色の麗しい女の妖が隣にいた淡麗な顔をした男へと問いかけた。

男は、金髪の美女の言葉に頷くと目の前にある家を見つめた。



「そう。彼をを止めれそうな人物。



彼の片割れの女の子がいる筈だよ。」




男は、そう言うと目の前の家をじっと観察するように見つめていたが何かに気がついたように目を見開いた。



「まさかっ…{emj_ip_0793}」



男の焦る声に金髪の美女も気づき、「どうしたんですか?」と問いかけた。
男は、顔を歪ますと“やられたよ”と呟いた。




「別のモノに存在を隠されたみたいだ…!」




“来るのが一足、遅かったようだね…”




と悔しそうに呟いた。












満月が見える何処かの森の中。



白虎の妖である敦は、嬉しそうに自身の腕の中で眠っているふみを愛しそうに見つめていた。




敦「あ、はははっ…



ふみさんが僕の腕の中にいるっ…




僕の物になった{emj_ip_0792}」




狂った様に歓喜し出した敦の腕の中、目覚める事なくふみは静かに眠っているだけだった。



敦「ふみさん。

僕は、貴女に出会った時から貴女に嘘をついてました。」



初めて、貴女に出会った時に一目惚れしたなんて嘘です。
本当は、貴女が小さい頃から貴女を知っていました。
人には無い力から他の人間に気持ち悪がられていた小さい貴女を見つけ、興味本意で観察していただけでした。
でも、貴女の事を知れば知るほど四六時中、貴女の事しか考えられなくなり、いつの間にか貴女を欲しいと思うようになりました。
だけど、僕は妖で貴女は人間。
交わっては、いけない事に僕は絶望しかありませんでした。
様々な事を考えている内に思いついたんです。


貴女を闇に堕としてしまえばいいと。


まさか、こんなに上手く行くとは思いませんでした。

貴方の兄が執着心が強くて助かりました。

僕は、その元々強い執着心の種に肥料をあげるだけでこんなにも大きく成長し貴女が深く堕ちてくれるとは思いませんでしたよ。

あと、もう一つ。
僕は、ふみさんが祓える程弱くないんです。
寧ろ逆です。
僕の妖力は、神獣クラスなんですよ。
なので、本当はいつでもふみさんを喰い殺せる程の強さを持っているんです。
でも、そんな姿を見せたら益々ふみさんは、警戒してしまうでしょう?
だから、弱い妖を演じていたんですよ。


ほら、“能ある鷹は爪を隠す”って言うでしょう?



たくさん嘘をついた僕ですが、願いを叶えれると言う事とふみさんへの思いは“本当”ですよ。




敦「ね?ふみさんの願い。









夢の世界の中なら叶えれたでしょう?」





此れで、ふみさんは永遠に僕の物です。




ふみさん、愛してますよ。








白虎は、光の無い瞳で微笑んだ。




おわり。





橙ちゃん家の芙美子さんとネタをこまちちゃん家の白秋さんと太宰さん(名前とお姿だけ)をお借りしました!
イメージと違ってたらごめんなさい。


楽しかったです!

ありがとうございました!