転生パロ(あつふみ)
ふみちゃんのみ転生パロ





何が起きたのか理解出来なかった。







それは、一瞬の出来事だった。






自身の体を貫く複数の刃に痛みで声をあげる暇も無いぐらいの一瞬で思考も感覚もついていかなかった。

思考がこの状況を理解した時には自身を貫いていた刃は体から抜かれ大量の血液が体から滴り落ちた。




ふ「……あっ……っ」




全身を襲う激痛に私は立ってられなくなり膝から崩れ落ち、地面へと倒れた。
体から流れ出た大量の血液は地面に広がり大きな血溜まりが出来ていく様を見る事しか出来なかった。


敵の異能力者は私が動かない様を見てその場を後にし己の血で染まる倒れたままの私一人だけとなった。


元より私はポートマフィアに身を寄せる身であった為、暗殺などで人を殺す事もあった。

人を殺すと言う事は自身が死ぬかもしれないと言う事も付き纏う仕事だ。



だから、いつも“死ぬ”覚悟は出来ていた。



後に人間は遅かれ早かれ皆死ぬのだ。


私は、死ぬのが早くなっただけだと思っていた。


敵にやられ一人死んで行った私を見て、片割れの龍之介はどう思うのだろうか?


「馬鹿者…」と泣きそうな顔を隠す為にいつもの顰めっ面でそう言うだろうな。
銀に至っては、あの子は優しい子だから泣いてくれるだろうな。
樋口もボロボロ泣きだしてしまうかもしれないから広津さんと立原は大変だろう。


そして、みんなは強いから少し悲しんだら私を忘れて前へ歩き出すだろう。


そんな事を薄れていく意識の中で考えていた時だった。





「ふみさん{emj_ip_0793}」






私の名を呼ぶ声が横たわる私の背後から聞こえた。
振り向きたくても自身の体の感覚も力も無かった為に振り向けなかった。



だが、聞き覚えのある声ではあった。



バタバタと名を呼んだ人物が走る音が響いたかと思うと血溜まりに横たわり動かない私の体を誰かが抱きかかえた。
ふわりと香るその匂いには嗅ぎ覚えがあった。




「ふみさん{emj_ip_0792}ふみさん{emj_ip_0792}大丈夫ですか{emj_ip_0793}」




名前を呼び私を抱きしめる人物に私はぼやけて見えない目の焦点を必死に合わせると其処には、今にも泣きだしそうな悲痛な顔をした歪な髪型の少年がいた。


私に何度も告白を繰り返しては殴られていた、人虎・武装探偵社 中島敦だった。




ふ「じ……んこ…?」



人虎を呼ぶが自身の口からは掠れ途切れ途切れの声しか出なかった。




敦「喋らなくていいですから…{emj_ip_0792}




早く…


早く与謝野先生に見せないと…っ血がっ{emj_ip_0792}」




いつも私と一緒に居る時はニコニコとゆるんだ顔の人虎が今、私を抱えながら狼狽える姿に少し笑いそうになってしまった。



あぁ、こんな顔も出来るんだな…と自身は重傷な筈なのにそんな事を何処か他人事のように思えた。
必死に人虎が私の名を呼び、傷口を止血しようとするが私は力の入らない手を無理矢理動かし人虎の手を止めた。


敦「ふみ…さん?」


ふ「じんこ…もう、い…いから」


敦「何を言ってるんですか{emj_ip_0793}止血して与謝野先生に見せれば必ず助かりますから{emj_ip_0792}」


再び動かそうとする人虎の手をぎゅっと私は握った。
私の手は振り払われる事無く人虎の手はピタリと止まったかと思うと私の頬に暖かい滴が落ち伝った。


掠れている自身の視界で人虎が泣いているのが分かった。


ふ「じんこ…私は…もう、むりだ…」



敦「そんな事無いです{emj_ip_0792}今なら…っ」


途切れた人虎の言葉に人虎自身も私が助からない事が分かっているのだろう。
だが、其れを認めたくないと言う人虎の気持ちが私には痛いほど伝わってきた。




何故、此処にいるのかとか気安く触れるなとか普段なら言いたい事があった。
だか、今の状況と人虎の涙に何も言えなかった。


お願い、人虎。


泣かないで。


一人で死ぬ覚悟は出来ていた。


なのに最後に貴様が来るから…


ずっと隠してた想いが出て来てしまうでは、ないか…


ふ「じんこ…なく…なっ、きさま、に…なかれ、ると、どうしたらいいか…わからない」


敦「{emj_ip_0793}そんな事今は…{emj_ip_0792}」


ぎゅっと私を抱きしめる人虎の腕に力が入ったのが分かった。
それが死にゆく私には酷く安心した。



いつも素直になれずにすまない。


本当は、人虎が私に会いに来てくれたり、一緒にご飯を食べたりするのが楽しく、そして嬉しかった。
だけど、私は貧民街にいた時に様々な人間を見て来た。
過酷から脱出したいが為に優しいふりをして平気で人を騙し、利用し裏切り…そして用済みになれば殺す者など何人も見て来た。


だから、人虎が私に寄せる好意を素直に信じる事が出来なかった。


でも、人虎はそんな私に諦める事無くずっと自身の思いを私にぶつけて来てくれた。


本当は信じたかったけど、信じられなかった。


素直になりたかった。


一人で死ぬ覚悟は出来ていたのに最後に人虎が現れるから、私が作り上げた“強い私”が壊れ、“生きたい”と思ってしまったではないか。



やっぱり人虎は好かぬ。




貴様がやっぱり嫌いだ。



最後の最後で私にこんな想いをさせるなんて。




ふ「じんこ……」


敦「ふみさんっ」



お願い。


私を忘れないで。


名前を呼んで。


最後まで私でいられる様に。



強く抱きしめて。



ふみ「じ……んこ……わ、たし…ほん、…とは…」



私の言葉は、最後まで人虎に伝える事が出来なかった。

真っ暗になった意識の中、最後まで私の名を叫ぶ人虎の声だけが私の耳に響いた。

















朝日が差し込む部屋で私は目を覚ました。


「また、あの夢か…」



私は一人呟いた。




私の名前は、塚本ふみ。
前世では芥川ふみと呼ばれて居た人間だった。
横浜の街を狙う巨大な異能力組織から街を守る為に探偵社・ポートマフィア、そして何故か組合と共に敵と戦っていた時だった。
敵の異能力により重傷を負い、駆けつけた人虎に自身の気持ちを伝えられぬまま死んだ私が再び目を覚ました時には、赤子になっていた。
芥川ふみの記憶を持ったまま生まれ変わった私は当初、自身か赤ん坊になったのが敵の異能力者の仕業では無いかと思ったが名前は偶然にも一緒だが名字が違う事と前には使えた異能力が使えない事と芥川ふみの時には居た自身の片割れと可愛い妹が“塚本ふみ”には存在しないと言う事から“芥川ふみ”は死に新しく“塚本ふみ”へと生まれ変わったのだと赤子の私は理解したのだった。


現在、16歳。高校1年生な私の見た目は前世とあまり変わっていない。
ただ、芥川ふみの時に伸ばしていた髪は肩までの長さをキープし続けている。
何故短くしているのか特に理由などなかった。


幼き頃から何十回、何百回と見る夢なのにいつも夢から覚めた時には涙が止まらない。


あれから、25年も経っている。
みんな、私の事など忘れて新しい人生を歩んでいる筈だ。


人虎だって…
私を忘れて素敵な人を見つけて幸せになっているのであろう。


こんな事になるなんて誰も想像していなかっただろう。
だが、此れは罰なのかもしれない素直になれずに意地を張り続けた私に対する神様からの罰なのだ。


人虎を想うだけで自然に涙が溢れて止まらない。


また、私が私じゃ無くなっていく。


人虎の側に居たかった。


きちんと想いを口に出したかった。



ふ「ごめんなさい…ごめんなさい…」



素直になれなくてごめんなさい。









何時迄もこのまま止まったままでは駄目だと思った私は、この想いを断ち切る為に嘗て、前世の私が暮らしていた横浜の街を訪れる事を決めた。

一通り横浜の街を見て歩き、そして、この想いに終止符を打ちたいと…



生まれ変わる前も生まれ変わっても私は、両親に恵まれていなかった。
赤子の時には居たのだが両親が複雑な事情により離婚。
父も母も私を引き取る事をせず、私は母方の優しい祖父母に引き取られ育てられた。
祖父母に引き取られてから一度も両親には会っていないため二人がどの様に過ごしているのかも知らない。
毎月二人から振り込まれる大金で生きている事は分かるぐらいだった。
私を育ててくれた祖父母が亡くなりその時でさえも葬儀に来ない様な人達だから会いたいとも思わない私がいた。


私は、一人だ。


だから、誰も未成年である私が遠い土地に行く事を心配する者などいないので心置き無く懐かしい地を踏む事が出来る。


この想いを横浜の地に捨て、そして新たなる気持ちでこの土地で生きよう。


私は、そう決めたのだった。



それからの私の行動は、早かった。

あまり横浜に長居するのも良くないと思い、1泊2日だけにする事にした。
新幹線のチケット・ホテルの予約をした私は、その当日、キャリーバッグを片手に家を出た時だった。




「何処か出かけるのか?」



1つ隣の家の庭から一人の男が顔を出していた。
此方を向いている事から私に話しかけた事が分かった。


ふ「朝から掃除か?織田作」


彼の名前は、織田作之助。
私の家の隣に住み幼少期から私の面倒を良く見てくれたお兄さんだ。
織田作は、こう見えても小説家である、本名を使わずにペンネームで小説を執筆している為、この事実を知っているのは限られた人間しかいない。
しかも、織田作は結婚もしておりまた、生まれた子供は五つ子と言う素晴らしい家族の多さだった。


そんな織田作が箒と塵取りを持っている姿が見えたので多分、お嫁さんに言われたのだろうと言う事が分かった。


織「昨日は風が強かったからな。落ち葉が凄い事になっていた。」


ふ「そうか。
昨日、ジイドさんと久しぶりにテレビ電話したぞ」


ジイドさんと名を出すと織田作は、「彼奴は元気だったか?」と聞いてきた。


ジイドさんと呼ばれた人物は、織田作の友人だった。
良く織田作の家に出入りしていた私は、何故かジイドさんに気に入られ良く可愛がってもらった。
ジイドさんは大学卒業と共に慈善活動団体を設立し現在異国に渡っていた。

何故か一週間に一度、ジイドさんからテレビ電話が来る様になっていた。

話の内容は、大体、体調の話や最近の近状や織田作は元気かと言う話だが一人で暮らす私には少し楽しみでもあった。


ふ「元気だった。ジイドさんから織田作の新刊が出たら送ってくれと頼まれた。」


織田作にそう言うと織田作は、「そうか」と言うと再び私に「何処かに出かけるのか」と問いかけてきた。




ふ「長年持ち続けていた気持ちと……





決別してくる。」




そう言うと織田作は、「そうか」と呟くと私の頭をポンと撫でると「行ってらっしゃい」と声をかけてくれた。




ふ「行ってきます。」



私は、背を向け歩き出した。












長時間の新幹線移動に少し疲れたが私は、死んでから25年ぶりに横浜の地に降り立った。

横浜の地は、やはり25年も経つと変わっていた。


まず、私が足を運んだのはポートマフィアの拠点のビルだった。
私の記憶と同じく、その場所に拠点のビルはあった。
だが、近くまでしか行けなかった。
今、訪ねた所で私を知っている奴など多分、ポートマフィアの中には居らず、一般人が首領の名を知っているのは普通に考えたらおかしい筈だ。
下手すれば敵と見なされ殺されるかもしれない。


それに、運良く自身の片割れであった龍之介や妹の銀。
中原さんや樋口や黒蜥蜴などに会えるとは思えなかった。


私は遠くで嘗ていた場所を見つめると、次の目的地へと足を向けた。


次に向かったのは、武装探偵社だった。

武装探偵社も私の記憶の通りにその場所にあった。
遠くから見つめることが出来てもやはり、尋ねる勇気は無かった。
近くにあった喫茶店に入り、探偵社について尋ねると社長が福沢諭吉から国木田独歩に変わったと言う事が分かった。

あぁ、やはり25年と言う月日は人も街も歴史も変えてしまうのだな…と改めて思った。


人虎だって…


人虎の事を考えそうになったが止めようと頭を振り、ミルクティーを飲み干すと喫茶店を後にした。


それからは、様々な場所へと行った。


25年と経っても変わらない場所もあったが、殆ど私の知っている横浜の街は、変わってしまっていた。


そして一つだけ…


前に暮らしていた家にだけは行けなかった。


足を向ける事が出来なかった。


彼処は、“芥川ふみ”の家であって“塚本ふみ”の家では無いからだ。



私は、明日の朝には横浜を旅立とうと思っていた。


夕方に差し掛かり、夕日が横浜の街を照らしていた。


ホテルに戻る前に、一度。


最後に一度、横浜の海を見ようと思い足を向けた。




横浜港に着くと美しい夕日が私を照らしていた。


今日で全てが終わる。

“芥川ふみ”としての記憶も人虎への気持ちも全てが終わる。


この気持ちを海に深く深く沈めてしまおう。


そして明日、私が自分の“塚本ふみ”の故郷に戻った時には私は新しい私になれるのだ。







ふ「………あなたがすきでした。」




さよなら、私。




さよなら、私の想い。
















「ふ……み、さん…っ?」




背後から聞き覚えのある声が私の名を呼んだ。



私は、その声に聞き覚えがあった。
振り向かなくてもその人物が分かるくらいに恋い焦がれた人物の声だ。
死に去く私の名を何度も何度も呼んでくれた声だった。



私は、恐る恐る震えそうになる体を抑えながらその声の主へと振り向いた。



其処には、これでもかと目を見開いた、あの頃と変わらぬ歪な髪型だが襟足は伸びており、白いシャツに変な手袋にネクタイは変わっていなかった。
サスペンダーはしておらず、半ズボンの代わりに黒いスラックスを履いた中年に差し掛かるか差し掛からないか微妙な年齢の背の高い男性が経っていた。



貴様は誰だと問いかけなくてもこの男性が誰なのか私には分かった。







ふ「貴様は、老けたな……。












人虎…。」






私があの頃と同じ様に「人虎」と呼ぶと目の前の男性は、泣きそうな顔をしながら笑った。



敦「当たり前ですよ。
あれから25年経つんですから…。








僕だって貴女と歳を重ねたかったですよ。」



そう言う人虎に私も泣きそうになってしまった。





ふ「歳をとったのにその歪な前髪は、変わらぬのだな。」


私が少し微笑みながら言うと人虎は、優しい眼差しで私を見つめてこう言った。



敦「もし…


もし、再びふみさんに出会えた時に僕だと分かる様にしたかったんです。」



その言葉に我慢していた涙が溢れ、私の頬を伝った。
止まらない涙と想いに私は、どうしたらいいのか分からなかった。


溢れ出る涙を止めようと服の袖で拭っているとその手を掴まれた。

そして、強い力で引っ張られ気づいた時には、あの日と同じように人虎に抱きしめられていた。



香る人虎の優しい匂いにまた、涙が溢れでた。





ふ「じんこ…じん、こ」




私を抱きしめる人虎の腕が強くなった。





敦「ずっと…会いたかった…っ{emj_ip_0792}

ふみさんが死んだあの日、もっと僕が早く駆けつけていたら…
そしたら、ふみさんは死ぬ事など無かったっ{emj_ip_0792}



あの日…」



ポタポタと人虎の涙が私の頬を濡らした。
震える人虎の体を私は、ぎゅっと抱きしめた。


敦「ふみさんを失ってから何も考えられませんでした。




それでも、前に進まなきゃいけないと思い…他の女性とお付き合いさせていただいたりもしました…



だけど、何をしても何処に居ても…



ふみさんの事が忘れられませんでした。



駄目なんです…っ



貴女を愛してると言う思いが消えてくれないんですっ{emj_ip_0792}」






ポロポロと泣きだし私を離さないと言う様に力強く抱きしめる人虎が愛しくて仕方が無かった。





私は、この人が好きだと再び思い知らされた。





前の私は意地を張り素直になれず、人虎に想いを伝える事ができずに後悔ばかりしていた。
この地に来た時もどうせ皆、私を忘れていると決めつけ会うことを拒んでいた。


結局、私は変わらなかった。


此れでは、再び後悔するのは必然じゃないか。





今なら…


今なら、後悔せずに済むのか……?





ふ「人虎…」


私が人虎と呼ぶと抱きしめていた手が少し緩んだ。
私は、人虎の胸に埋めていた顔を上げると人虎の瞳をじっと見つめた。



敦「ふみ…さん?」



ふ「人虎……











私は、ずっと人虎が好きだった。」







そう私が言うと人虎は目を見開いた。





敦「えっ……?」



ふ「本当は、ずっと、死ぬ前からずっと好きだった。




だが、私は意地を張り素直になれずにいた。





本当は、死ぬ時に伝えたかった。





“素直になれずにごめんなさい。大好き”だと。」





私の瞳から再び涙が流れた。




ふ「生まれ変わってから16年間。


人虎を忘れた時など一度も無かった…



だが、あれから25年も経っている、
私の事など忘れていると思った。

このままではいけないと思い…
私は、この想いを捨てるために横浜へとやってきた。



だが、人虎に出逢いやっぱり思った。











貴方を愛しています、中島敦さん。」





そう言うと私は、初めて真っ直ぐ目の前の愛しい人を見つめ微笑んだ。



彼は、私の言葉を理解するとぎゅっと私を再び強く抱きしめた。








敦「僕もずっと貴女を愛しています。








貴女の此れからの人生を僕に頂けませんか?」




私は、その言葉に静かに頷いた。




夕日が私達を照らしていた。










人虎と再会を果たした私は、その後人虎に連れられ武装探偵社へと足を踏み入れた。
探偵社社員達は、人虎とそして私を見た瞬間に皆一斉に叫び鼓膜が破れるかと思うほど驚いていた。
此れまでの経緯を説明すると成長した鏡花に抱きつかれ泣かれた。
私は、優しく鏡花の背中を撫でると「また、会えて嬉しい」と微笑まれた。
太宰さんに至っては、「わぁ!小さくなっちゃったね。チビふみちゃんだ」と頭をペシペシされイラッときたので手を叩き落としおいた。
その後、人虎と携帯番号を交換した私は名残惜しいが人虎に送られホテルへと帰った。

すると次の日、早朝から人虎から連絡があり連れて行きたい場所があると言われた。
待ち合わせ時間を決め、チェックアウトを済ませると待ち合わせ場所へと向かった。
時間通りに待ち合わせ場所に行くと人虎が立っており、私に気づいた人虎は私の手を繋ぐと「行きましょう」と歩き出した。

人虎に連れられてついた場所は、ポートマフィアの拠点ビルだった。

驚く私に人虎は、微笑みかけるとロビーへと向かい、樋口の名を出した。
数分後、見知った金髪の女性が私達に向かってくるのが見えた。

その金髪の女性は、私を見つめるとポロポロと泣き出し私の名を呼んだ。



樋「ふみせんぱい…っ」


ふ「久しぶりだな。樋口。」


私がそう言うと樋口は、涙を流しながら微笑んでくれた。
樋口に案内されたのは、最上階にある会議室だった。

樋口が部屋をノックすると「入れ」と聞き覚えのある声が聞こえた。

中に入ると其処には椅子に腰を掛ける、首領と私の元上司・中原さん、黒蜥蜴のメンバーと私の片割れである龍之介と妹・銀がいた。


中にいたポートマフィアの方々は、私に目線を向けた瞬間、これでもかと言う程目を見開いた。

龍之介がすぐさま椅子から立ち上がり私を抱きしめた。



ふ「龍之介…」



芥「馬鹿者……僕を置いて逝くなんて…」



ふ「うん、すまない…。」



そう言うと龍之介の腕は更に強くなった。


龍之介に抱きしめられながら銀を見つめると銀の瞳から涙が溢れていた。


ふ「銀。ただいま。」


そう言うと銀は、泣きながらも微笑んでくれた。


銀「お帰りなさい。姉さん」



龍之介と銀と再会を果たした私は、何故これ程の方々がこの場に居るのかと尋ねるとポートマフィアの現在首領である中原さんが「そこの人虎から連絡があった。手前と出会ったから会ってやってほしいとな。最初は、頭が等々、イカれたかと思ったが余りにも真剣に言うもんだから話に乗ってみたんだよ」と教えてくれた。




大切な人たちと再会を果たした私は、名残惜しいが自身の故郷に帰る時を迎えてしまった。
だが、一ヶ月も経たない内に私は再び横浜の地で暮らす事になった。




理由は、人虎と結婚する事になったからだ。




地元に戻り、私が結婚すると織田作とジイドさんに告げた時は凄かった。
「学生結婚などダメだ」「年の差を考えろ」と言われるかと思いきや、「結婚式は、いつにするつもりだ」や「父親役でバージンロード歩きたい」などと言い出し織田作とジイドさんが父親役を何方がするか本気で喧嘩し始めたからだ。


とりあえず、籍は入れるが私は、まだ学生である身なので結婚式は高校を卒業してからにするつもりだと伝えると二人が落ち込んでいたのは、面白かった。


その後、あれよあれよと言う間に私は転校と引越し手続きを行い、横浜の地に戻って来たのだった。



あの時、私は、もう横浜に来ることなどないだろうと思っていた。

人虎に思いを告げる事も一生無いと思った。



人虎と言う存在が私を変えてしまう。



貴方に出会えてよかったと思える私が、今ここにいる。



本当にありがとう。


そして、



ふ「愛しています。敦さん」


敦「僕も愛しています。ふみさん」




私の止まった時間が動き出した。


愛しい人と共に。





終わり。






おまけ


敦「ふみさん、僕の事名前で呼ぶ時は“敦さん”って呼びますよね?
呼び捨てでも良いんですよ?」

ふ「いや、あの…歳上になってしまったし歳上の方を呼び捨てにするのは気がひける…」

敦「別に気にしなくて良いのに…」

ふ「そう言う人虎こそ、私の事など呼び捨てで良いのだぞ?」

敦「えっと、はい。わかりました。“ふみ”」

ふ「{emj_ip_0793}」

敦「どうしました?ふみ」

ふ「あ、の…」

敦「?」

ふ「やっぱり、恥ずかしいのでさん付けで良い…」←顔真っ赤

敦「……今、すっごく可愛いですよ。ふみさん(天使…)」


終わり