『愛を込めて花束を』

*緋寄様の太宰一家をお借りさせていただきました。



それは、ふとした日の出来事だった。
敦さんは、探偵社へ出勤し今世で通う学校が創立記念日の為、休校で家に居た私はテレビをつけながら洗濯物を畳んで居た時の事であった。


テレビから流れた「最近は、お世話になった人や愛しい人にお花をお贈りするのがブームらしいですね{emj_ip_0792}」と言うアナウンサーの言葉に私は、ふっと洗濯物を畳む手を止めて視線をテレビに向けた。
テレビの中でアナウンサーとタレントが「花束良いですよねぇ」「何でもない日にふっと渡されるのが余計に嬉しいですよね!」と言う会話に私は、まじまじと魅入ってしまった。


ふ「花束…」



私は、 その会話を聞きながら前世・芥川ふみとして生きていた頃、何度か敦さんに花束を貰った事を思い出した。
あの頃から敦さんは、花束の中にも私への愛を込めていつも私に贈ってくれていた。
私も一度だけ敦さんに贈ったが多分、敦さんは、私に花束を貰えた事が嬉しかったみたいで私が花束に込めた想いは気づいていなかったみたいだった。

そんな事を思い出しながら私は、一人窓から空を見上げた。
見上げた空は、青く美しく気まぐれに雲が風で流れており、綺麗だと感じた。



私は、素早く洗濯物を畳むと出かける準備を始めたのだった。
















谷「はい、此方武装探偵社です。
えっ?あ、ふみさん?
今、敦くんは依頼で探偵社には居ないんだけど…」


探偵社の電話が鳴り、谷崎が出ると掛けてきた電話の主が谷崎の会話から敦の幼妻であるふみである事が分かった。
太宰は、ソファーに座り本を読んでいた視線をチラリと谷崎に向けると立ち上がり、谷崎から電話の受話器を取ると「もしもしー?旦那様に電話かーい?」と戯けた様に受話器ごしにふみに話し掛けた。



ふ「……私は、谷崎さんと話ていたのですが。」



受話器の向こうから嫌そうな声で太宰に話しかけるふみに太宰は、ニヤニヤと笑い「えー、私とお話ししようよぉ{emj_ip_0792}ところで最近、夜の方はどう?敦くんはげし…」と言おうとしたところガチャンと途中で電話を切られツーツーと言う音しか聞こえなくなった。


太「切られちゃった。」


谷「そりゃ、切られますよ…」


あはっと笑う太宰に谷崎は、ため息を吐くとガチャリと探偵社の扉が開いた。
其処には、携帯を片手に太宰の嫁でありふみが敬愛する式部紫織改め太宰紫織が立っており、紫織は、夫である太宰に視線をチラリと向けると呆れた様な表情を見せた。



紫「ごめんね、ふみさん。治さんには、しっかり注意しておくから。」



そう言う紫織に太宰は、紫織の電話の相手がふみである事と先程の質問の話を告げ口されていると分かると紫織から視線を逸らし冷や汗をかきながら「あははっ」と乾いた笑い声をあげた。
そんな太宰に谷崎は、手を合わせ合掌をした。













その日、仕事を終えた敦は、いつもの様に片付けを終え帰宅しようとデスクから立ち上がった時だった。


「敦くん待って。」


突然、紫織に声を掛けられた敦はピタリと動きを止めると首を傾げながら「如何したんですか、紫織さん」と太宰の嫁である紫織に問い掛けた。
すると紫織は、ふふっと笑い「昼間、ふみさんから連絡があってね。」と敦に言うと敦は、目をキョトンとさせ「ふみさんから?」と不思議そうな表情を見せた。



紫「そう、ふみさんから電話があってね。伝言を預かっているの。」


敦「伝言…?」


コクリっと紫織は、頷くと敦にふみからの伝言を伝えた。



“貴方と過ごした場所で待っている”



紫織から伝えられたふみからの伝言に敦は、驚き目を見開いた。


そんな敦に紫織は、再びふふふっと微笑むと「行っておいで、敦くん」と敦を送り出したのだった。













“貴方と過ごした場所で待っている”



紫織からふみの伝言を伝えられた敦は、ふみとの思い出を思い返しながらふみが告げた“貴方と過ごした同じ場所”である、ひとつの公園へと辿り着いた。

そう、この公園は、ふみが“芥川ふみ”として生きていた頃にいつも敦がふみを待ち伏せしては、食べ物などでふみを釣ったりと様々なふみとの思い出が詰まった公園であった。
ただ、思い出があり過ぎて“芥川ふみ”が死んでから通うのも通るのも避けていた為、この公園の中に足を踏み入れるのは約20年振りであった。


敦は、心臓がドキドキと高鳴るのを抑えながら公園に足を踏み入れた。
足を一歩踏み入れただけで18歳の自分に戻った気がして少し苦笑いをした。








(そう…いつものこうやって歩いてた。)







(そして、いつもこの先のベンチにふみさんと共に座ったんだ。)










敦が懐かしむ様にベンチに視線を向けると見覚えのある…



いや、敦にとって忘れもしない黒い外套がふわりと風に揺れていた。





敦は、その黒い外套を瞳に写した瞬間、自身に流れる時間がピタリと止まった様に感じられた。
目を見開き立ち尽くす敦に気づいたその黒い外套の持ち主は、微笑むと何かを背に隠す様にベンチから立ち上がった。





「驚いたか?人虎。」





敦「ええ…、凄く…




凄くびっくりしました。








ふみさん。」



そう、敦の目の前には黒い外套と白いスカーフに白いヒラヒラのワンピースを身に纏い、黒のニーハイにローファーを履いたふみが立っていた。
その纏う服は、前世“芥川ふみ”が纏っていた服、其の物であった。

ただ、前世と違うのは肩までの髪の長さと16歳と言う年齢の為、服のが少し大きく見えると言う事だけだった。




敦「その…格好…。」



ふ「懐かしいだろう。敦さん…いや、人虎、貴様と此処で会う時にいつも着用していた物だ。

龍之介が前に“ふみの服は、ずっとあの日のまま置いている”と言ってくれたのでな、拝借して来た。」



“口調も少し、あの頃に戻してみたがどうだ、人虎”と微笑むふみに敦は「今も昔も素敵ですよ。」と微笑んだ。



ふみは、敦の言葉に頬を染めながらはにかむと静かに目を伏せた。



敦「ふみさん…、いきなりどうしたんですか?」



ふ「ふっと色々と思ってな。



それにしても…久しぶりにこの公園に来て、様々なことが私の中を駆け巡った。」



静かに話し始めたふみを敦は、じっと見つめた。



ふ「前世の私は、素直になれずにいつも間違った道を選び続けていた。


でも、巡り巡って…時を超えて、最後は貴方の元へ戻って来た。




あの頃は、こんな幸せなど、ただの理想だと…
私には描けないと思っていた。


だが、貴方は無理に描く理想より笑い合える今日の方がずっと幸せだと教えてくれた。



ずっとずっと前世から貴方に甘えてばかりでごめんなさい。




そして、こんな私を愛してくれてありがとう。」



ふみは、幸せそうに微笑むと背中に隠していた物を敦へと差し出した。



敦「えっ…?」



其れは、色とりどりの花が咲いた花束だった。
敦は両手でふみから花束を受け取るとその花束を見て目を見開いた。


敦は、その色とりどりの花全てに見覚えがあった。




アザレア・ペチュニア・ピンクのアンスリウム・青のヒヤシンス・赤のゼラニウム
ラークスパー・イキシア・農紅の薔薇・ナズナ・赤い薔薇11本に黒い薔薇が1本。






そしてスズラン。




全てが全て、敦には見覚えがあった。



敦「此れは……




僕が此れまでふみさんに贈った花と…




ふみさんから頂いた花だ。」


何故と言う様に敦は、ふみに視線を向けるとふみは、照れ臭そうに頬を染めながら微笑んでいた。


ふ「敦さんに愛を込めて花束を…



大袈裟かもしれませんが受け取ってください。



突然で驚いたかも知れませんが、




理由は恥ずかしいので聞かないでください。」




だから、今だけ全て忘れて、





笑わないで受け止めて。





「私を愛してくれてありがとう。






いつまでも側にいてください。」






そう微笑むふみを敦は強く抱きしめた。











夕日が沈んだ頃、敦とふみは手を繋ぎながら探偵社の寮へと帰宅した時だった。

階段の下に太宰家族が居る事に気がついた敦とふみは、お互いに顔を見合わせ不思議そうに首を傾げているとそんな二人に太宰と紫織の子供である兄・光と妹・直が気がつき、「敦さん」「ふみちゃん{emj_ip_0792}」と二人の名を呼んだ。


敦とふみは、太宰一家の元へ行くと敦が「どうしたんですか?」と声を掛けた。
すると紫織が呆れた顔をしながら「治さんが昼間、ふみさんに変な事を言ってしまって…そのお詫びに来たの。」と答えた。


ふ「えっ{emj_ip_0793}そ、そんなお詫びなど…」


光「ダメだよ、ふみさん。年頃の女性にあんな事を聞くのは、いけないことなんだから。」


直「そうだよ{emj_ip_0792}本当ならセクハラで訴えてもいいんだよ{emj_ip_0792}」


父親・太宰に容赦ない光と直に太宰が何だか可哀想に見えたふみは、哀れんだ様な瞳を太宰に向けると「やめて、そんな瞳が一番堪えるから…」と落ち込んだ様に言う姿にふみは“相当、怒られたのか…”と心の中で静かに思った。


太「其れにしても敦くん、良い花束を持っているね。」


紫「花言葉が愛に纏わる物ばかりだね。」


直「わぁ{emj_ip_0792}ロマンチック{emj_ip_0792}」


光「敦さんが持ってるって事は…ふみさんからかな?」


敦が手に持つ花束に注目する太宰一家にふみは、恥ずかしそうに頬を染めるとコクリと頷いた。


太「此れでは、中島家は花だらけになってしまうかもしれないね。」


敦ふ「「はっ…?」」


敦とふみが訳がわからないと言う様に声を上げるとパサッと二人の目の前に花束が差し出された。


太「お詫びと…」


織「結婚式は、ふみさんが卒業してからだけど籍は入れたでしょう?
結婚祝いがまだだったなぁっと思ってお祝いの気持ちを込めて、二人に花束を用意したの。」


微笑む紫織からふみは、「ありがとうございます…っ{emj_ip_0792}」と花束を受け取ると敦と共に色とりどりの花で飾られた花束に視線を向けた。




直「ブルースターの花言葉は、“幸福な愛”と“信じ合う心”」



光「青いカーネーションの花言葉は“永遠の幸福”」



紫「デンファレの花言葉は“お似合いの二人”」


太「ローダンセの花言葉は“永遠の愛”










そして、スズランの花言葉は…言わなくてもわかるかな。」







「「“再び幸せが訪れる”」」




敦とふみは、重なり合った自身たちの声に顔を見合わせ笑うと幸せそうに寄り添ったのだった。

そんな二人に太宰一家も嬉しそうに微笑んだ。





終わり。












緋寄様の太宰一家をお借りさせていただきました{emj_ip_0792}
キャラが違ってたら申し訳ございません{emj_ip_0792}




テーマ「愛を込めて 花束を」はSu perfly様の楽曲からお借りしました。