敦「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ{emj_ip_0793}」


とある昼下がりの裏路地にて中島敦の声が響き渡った。











お昼前、敦は国木田に備品の買い出しを頼まれ、ついでに朝から見当たらない太宰を見つけたら回収してこいと言われ横浜の街中を歩いていた時だった。

無事に国木田に頼まれた備品の買い出しを終えたのだが、もう1つ頼まれた太宰の回収は太宰の姿が見当たらなかったのでこなす事が出来なかった。


敦「また、太宰さん川にでも流れてるのかな…。」


そんなことを呟き、少しでも国木田の胃痛の原因の1つを減らせたら…と言う思いから一応、川を確認してから帰ろうと帰り道を変更し裏路地を通って目的地へ行こうと足を向けた時だった。

裏路地の曲がり角を曲がると何処かで見た砂色の外套と黒色の外套が敦の視界に入った。


敦「太宰さんに芥川…?」



敦が名前を呼ぶと太宰は、振り向き笑顔で「やぁ!敦くん、おはよう。」と言った。
黒い外套を纏う芥川は太宰の姿ですっぽりと隠れており、どんな表情なのかが敦には分からなかった。



敦は「もうお昼ですよ!太宰さんが出社しないから国木田さんがカンカンに怒ってましたよ!」と言いながら太宰に近づいた。



太「悪いねぇ。だけど、この娘が私のデェトの誘いに乗ってくれなくてね。」



ため息を吐く太宰に敦もため息を吐いた。



敦「何がデェトですか…芥川は、男……で………………えっ?」



近く事で太宰の姿で隠れていた芥川の姿を目に移した敦は目を見開き、そして固まった。


黒色外套から芥川だと思い混んでいた人間はパッと見は芥川だが芥川と同じく瞳に光は無いが目は大きく背が幾分か小さかった。
決定的な違いは、黒髮が胸より下ぐらいまである事と服の上からでも分かる豊満な胸だった。



敦「芥川が女装してるぅぅぅぅぅっ{emj_ip_0793}」


混乱した敦の脳内で導き出された答えは、芥川が女装していると言う答えだった。


敦「芥川、おおおおお前そんな趣味が…{emj_ip_0792}」


混乱している敦を余所に太宰は腹を抱えて笑いだし、そんな二人に目の前の人物は、ムッとした表情を見せた。


太「敦くん凄く混乱してるけど、この娘 芥川くんじゃないよ。」


爆笑した事により痛んだ腹を押さえながら太宰は敦へ言うと敦は、「は……?」と声をあげた。


太「まぁ、芥川は芥川だけど…彼女は、ふみちゃん。












芥川くんの双子の妹だよ。」



身長も髪の長さも違うだろう?と言う太宰の言葉を敦は理解出来なかったが


理解出来た瞬間、敦の声が裏路地に響き渡ったのだった。



敦「あああああああ芥川の{emj_ip_0793}いいい妹ぉ{emj_ip_0793}」


敦の頭には、自身を見かけるたびに「人虎殺す。」や「他者に道を譲れ」や「太宰さん」などと言う芥川の姿が過った。

敦は、太宰から芥川の双子の妹と紹介された目の前の人物へ目を移すと目がぱちと合ってしまった。



芥川と同じく瞳に光は無いが何だか吸い込まれそうな程、美しく感じた。
不健康そうな白い肌に艶やかな唇に敦は釘付けになり頬が熱く胸が高鳴ったのが分かった。


『お初にお目にかかる。
私の名は、芥川ふみ。

兄・龍之介と同じくポートマフィアに属している。

其方の事は龍之介から聞いている。





人虎…。』


そう言うとふみは黒い目をスッと細めた。



『異能力・蜘蛛の糸』


その呟きと共にふみのが纏っている外套から糸のような物が敦へと伸びるのが見えた。

敦は、咄嗟の事に反応が遅れ避けれないと反射的に腕で顔をガードした時だった。



太「だーめ。」



と言う言葉と共に太宰が敦を庇うように前に出ると異能力を発動しふみの異能力を無効化した。

茫然とする敦に太宰は「大丈夫かい?」と問いかけると敦は「は、はい。」と返事をした。

目の前のふみは自身の異能力を無効化された為、不機嫌そうな顔をして立っていた。


太「幾ら芥川くんが人虎人虎って言うからってヤキモチ妬いて殺そうとしたら駄目だよ。


本当、執着心と独走癖は瓜二つだね。










いや、芥川くん以上かな?」




ニコニコと話す太宰に更にふみは不機嫌そうな顔をする。



『五月蝿い{emj_ip_0792}私は……其方も好かぬ{emj_ip_0792}』


そう言うとふみは太宰をキッと睨んだが睨まれた太宰は、笑みを崩す事なく「もう、本当にヤキモチ妬きさんなんだから。」と余裕の表情だった。

大人の余裕と言う奴を見せられたふみは、怒りが爆発した。



『其方は何時もそうだ{emj_ip_0792}

龍之介を翻弄し私から龍之介を引き離そうとする…{emj_ip_0792}









龍之介の心を奪い弄び捨てたと思えば、次は人虎に手を出すとはっ…{emj_ip_0792}』



太「ちょっとふみちゃん{emj_ip_0793}
言い方{emj_ip_0792}言い方考えてくれ給え{emj_ip_0792}



他人が聞いたら私が男色を好む人間に聞こえるからね{emj_ip_0793}」



『人虎…{emj_ip_0792}其方もだ…っ{emj_ip_0792}ぽっと出の癖に{emj_ip_0792}』


敦「僕まで{emj_ip_0793}」



怒りのあまり我を忘れたふみは再度、敦と太宰へ攻撃を仕掛けようと異能力を発動させた時だった。
ふみの細い腰に黒いベルトの様な物が巻き付き、凄まじい力で後方へと引っ張られた。


突然の事に目を見開く太宰と敦は目を見開いた。

ふみは、宙に浮く体に次に来るだろう衝撃に備えようとしたが思う様に体が動かず、反射的に目を瞑った。


だが、地面に叩きつけられると思っていたふみの体がはフワリと誰かによって優しく受け止められた。



ふみは、閉じていた目を開けガバッと顔を上げて抱き上げる人間を確認するとその美しい瞳が溢れるのでは、ないかと言う程に目を見開き、その人物の名前を呼んだ。




『りゅ、龍之介…?』




そう、ふみの片割れであり双子の兄である芥川龍之介がふみを受け止めていた。
芥川の側でゆらゆらと揺れる黒獣から先程、ふみの腰に巻き付いた黒いベルトの様な物も芥川の仕業だったようだ。


芥川は、自身の腕の中にいるふみにその黒い目を向けると溜息を1つ吐いた。



芥「……帰りが遅いと思えば、こんな所で油を売っていたのか。ふみ」


『違う。太宰さんに捕まったのだ。』


そう言うとふみは、太宰をキッと睨んだ。
芥川も同じく太宰と敦へ目線を向ける。


太「だってね、久々の再会だと言うのに嫌そうな顔して去って行こうとするから。つい…ね?」



ニコニコと笑う太宰に芥川は、少し眉を寄せると「余り、ふみに構わないで頂きたい。」と何処か独占欲を感じられるような言葉を太宰に言った。




芥「貴様もだ。人虎…。」




“貴様がふみに手を出せば八つ裂きでは済まさぬ。”





芥川に言われ敦は、ギクリと肩が無意識に跳ねるのが分かった。


芥「覚悟しておけ…。」


と言うと芥川は、外套を翻すとふみを抱えたままその場を後にしたのだった。





太「ありゃりゃ…。行っちゃった。」


仕方ない、私達も帰ろうか敦くんっと太宰が敦に話しかけるが敦は、芥川双子が消えた方をぼーっと見つめていた。


太「敦くん?如何したんだい…?」


名を呼んでも茫然と消えた方向を見つめる敦に太宰は何かに気づきにやぁっと笑う。



太「敦くんもしかして…






ふみちゃんに一目惚れしちゃったのかい?」


そう太宰が敦に言った瞬間、敦の顔がボッと赤くなった。


敦「ちちちち違います{emj_ip_0792}そんなわけじゃ{emj_ip_0792}」


顔を真っ赤にしながら否定する敦に太宰は、新しい玩具を見つけたとばかりにニヤニヤと楽しそうに笑った。


太「頑張ってね敦くん。壁は大きくて分厚いからね。」


パチンとウィンクする太宰に敦は、何も言い返せなかった。












『龍之介。降ろして、私一人で歩ける。』


芥「降ろさぬ。もう少しで拠点に着く故に其れ迄、大人しくしていろ。」


ふみは、歩くと芥川に申し出るが却下され大人しく抱き抱えてられたままでいた。
抱えたまま歩く芥川は、何処か不機嫌そうに感じられたふみは芥川へと問いかけた。


『何がそんなに気に入らない?何故、そのように気分が優れぬのだ?』



心配そうに眉を寄せるふみに芥川は、動かしていた足をピタリと止めるとぎゅっとふみを抱きしめた。



芥「余り……太宰さんと人虎に関わるな。」



『えっ……っ?』



芥川は、不安だったのだ。
大切な片割れを太宰と人虎が連れて行ってしまうのでは無いかと。
ふみが自身を置いて太宰の様に消えてしまうのでは無いかと、不安だったのだ。


そんな芥川の気持ちを全ては分からずとも不安げであると言う事は分かったふみは、己を強く抱きしめる片割れを優しく抱きしめた。


『大丈夫だ。私は、龍之介を置いて行くなどせぬ。』



“ずっと共にいる。”




その言葉を聞いた芥川は、ぎゅっと抱きしめていた手から力を抜きふみを優しく地面へと降ろすと己の右手とふみ左手を繋ぐと無言で歩き出した。




いつの間にか芥川の心から不安は消えていた。






二人で手を繋ぎポートマフィアの拠点に帰社し廊下を歩いていた時だった。



「よう。ふみと芥川じゃねぇか。任務帰りか?」



背後から二人を呼ぶ声が聞こえ、ふり返ると其処にはポートマフィア幹部・中原中也が立っていた。



『中原さん{emj_ip_0792}』



ふみは、中也の姿を目に移した瞬間、普段は光の無い瞳を輝かせながら片割れの芥川を引っ張り中也の元へと近寄った。



中「お、手なんか繋いで手前ら本当仲が良いんだな。」



そう言いながらふみの頭を撫でる中也に喜ぶふみを見て芥川は、物凄く機嫌が悪そうな表情を浮かべるとふみを撫でる中也の手をぺしっと払った。



中「おい。芥川、手前何すんだよ。」



突然、手を振り払われた中也は苛立ちから顳*をヒクつかせたが芥川は気にする事なく。




芥「貴方もふみに構わないで頂きたい…{emj_ip_0792}」




と何時もの冷静な芥川とは、打って変わり怒りを露わにした物言いだった。





中「“貴方も”って事は、他に居んのかよ。」




芥川の言葉に疑問を感じた中也が芥川に問いかける。




「太宰さんと憎き人虎です。」




そう中也に言い放つと芥川は、ふみの手を無理矢理引っ張りその場を後にしたのだった。










中「……たくっ……芥川が一番執着してんのは、糞太宰じゃなくて片割れのふみか……





壁はデカくて分厚いか……。」









面倒くせぇ、壁だなぁ……











中「彼奴を想う奴が現れたらどうやってあの壁打ち破るのかねぇ……」









そう呟くと中也は外套を翻し双子とは反対方向へと脚を進めたのだった。