「最近…行方不明者が多いみたいですね…」


その日、中島敦は武装探偵社の仕事の間に事務机の上に置かれていた新聞を手に取りポツリと呟いた。


太「新聞の記事によると行方不明者は、皆男。
其れに見目麗しい美男子ときた。




私も狙われてしまうかもしれないねぇ」



敦の呟きを聞いた太宰は、敦が持っている新聞を覗き込み記事を読むとくねくねと体をくねらせながら巫山戯たような事を言った。
敦は、そんな太宰に困った様に苦笑いすると再び新聞に目を向けた。


敦「ポートマフィアが関わってたりしませんよね…?」


不安げにそう呟いた敦に太宰は「大丈夫だよ。」と応えた。


太「昨日、ふみちゃんに連絡した時に昨日尋ねたけど“此方は、関わっておりません。寧ろ、調査する様に首領より命を受けております”と言っていたからね」


敦「ふみさんと…電話したんですか…?」


太「うん、昨日の晩に……って怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い敦くん怖いよ{emj_ip_0792}瞳孔開いてるよ{emj_ip_0793}」


敦が想いを寄せる、芥川龍之介の双子の妹・ふみの名が太宰の口から出た瞬間、敦の顔つきが変わり、アメトリンの様な瞳をこれでもかとかっぴらき太宰に視線を向けた。
向けられた敦の瞳は瞳孔が開いており、それに加えいつもより低い声で太宰にふみとの事を問いかける敦に太宰は、恐怖を感じた。

ふみと言う名を出すだけで何時もの弱気でヘタレな敦は、何処へやら…。


恋と言う物は、人を変えてしまう程に偉大なものであると太宰は、1人心の中でそう思った。



敦「ふみさんと電話したなんて狡いです{emj_ip_0792}
僕、まだ電話番号もメールアドレスも知らないのにっ{emj_ip_0792}」


悔しがる敦に太宰は苦笑いすると「今度、教えて貰えばいいじゃないか」と言うが敦は、ガシッ太宰の腕を掴み「今度じゃ待てないので今すぐ教えてください」と掴んでいる太宰の腕が折れるのでは無いかと言うほどの力を込めながら太宰に頼み込んだ。


太「痛い{emj_ip_0792}痛い痛い痛いよっ{emj_ip_0792}分かった{emj_ip_0792}教えるから離し給え{emj_ip_0792}」


敦「ありがとうございます{emj_ip_0792}流石、太宰さんですね{emj_ip_0792}」


敦は、にこやかに微笑んだ。





「何を話ているの?」


太宰が敦にふみの電話番号とメールアドレスを教えている時であった。
2人の背後から聞こえた少女の声に2人は自身達の背後を振り返ると其処には赤い着物の袖を揺らした少女・泉鏡花が立っていた。


太宰と敦は鏡花に何を話しているのか尋ねられたのだが、どう答えたら良いのか戸惑っていた。

今話していたのは敦の想い人の話でしかも、その想い人は嘗て鏡花の居たポートマフィアの人間であり、そして鏡花に対し酷い扱いをしていた芥川龍之介の双子の妹である。
故に鏡花にとっては、“ポートマフィアの人間で芥川の双子妹”と言う言葉だけで嫌悪感を抱いてしまうかも知れないと思った為であった。


不思議そうに首を傾げ2人の返事を待つ鏡花は、不意に敦の手にあった携帯へと視線を向けると目を見開いた。

そんな鏡花に今度は、太宰と敦が首を傾げると2人は鏡花の視線の先を辿り、鏡花の視線が敦の携帯の連絡帳に表示された名前…“芥川ふみ”に向けられている事に気がついた。

しまった…っ{emj_ip_0792}と思い、敦は慌てて携帯を自身の背後に隠し鏡花から見えない様にしたが遅く、鏡花は目を見開いたままポツリと呟いた。


鏡「芥川…ふ、みっ…?」


顔を伏せ、ふるふると震え出す鏡花に敦と太宰は、顔を見合わせると心配そうに鏡花の名を呼んだ。


敦「鏡花…ちゃん?」


太「ふみちゃんと…何かあったのかい?」


真剣な表情で太宰が鏡花に尋ねると鏡花は、いきなり勢いよく伏せていた顔を上げ口を開いた。






鏡「ふみに会いたい…{emj_ip_0792}」



突然の鏡花の言葉に敦は「はっ?」と声を上げ、太宰は「えっ?」と驚きを口に出した。


シーンとなる空気に鏡花が再び口を開いた。



鏡「私、ふみに会いたい。会わせて。」



真剣な表情で敦と太宰を見つめる鏡花に敦と太宰は、再び顔を見合わせた。







敦「鏡花ちゃん、ふみさんを知ってるの?」


太「芥川くんの双子の妹だよ?」


太宰と敦の言葉に鏡花は、コクリと頷き「知ってる。ポートマフィアにいる時…私に良くしてくれた。」と答えた。



鏡「私がポートマフィアに居た時に何度もふみと任務を共にした。




だけどふみは、一緒の任務の時には私に危険な事は絶対にさせなかった。」


太「“絶対に”?」


鏡花は、再びコクリと頷き少し目を伏せた。



鏡「“幼子がこの様な事をしなくて良い。私がいる時は私に任せよ。”っと…いつも共に任務をする時にふみは言っていた。」


太「鏡花ちゃんを助けてくれていたんだね。」


鏡「そう。

人を殺す事は嫌だった、だけど嫌だとは言えなかった。




でも、ふみだけは…


ふみだけは気づいてくれていたのかも知れない。」


“だから私にそう、言ってくれたのかも知れない。”



そう言う鏡花に太宰は「そっか…」と言うと鏡花は、小さく頷いた。


敦「鏡花ちゃん…」


鏡花は、伏せていた目を上げ、真剣な表情で太宰と敦を見た。



鏡「だから、ふみに会いたい。



会って“ありがとう”って御礼を言いたい。




沢山…お話もしたい。」



恥ずかしそうに頬を染める鏡花に太宰と敦は、微笑んだのも束の間だった。

鏡花の背後がゆらりと揺れたかと思うと鏡花の異能力・夜叉白雪がゆらりと現れた。

突然の事に驚く敦と太宰に鏡花は、袖からゆらりと小刀を取り出すとキラリと刃を見せた。


敦「きょ、鏡花ちゃんっ{emj_ip_0793}」


太「どうしたのかな{emj_ip_0793}」




鏡花は、ゆっくりと口を開いた。




鏡「ふみに会いたい。




会わせて。








後、ふみの電話番号とメールアドレス教えて」



後日、敦と太宰は「あの時、殺されるかと思った」と語るのであった。










「と言うわけでふみちゃん今から会えないかな?」


『“と言うわけ”の意味が分かりません、太宰さん』


鏡花の威圧感に耐え切れなかった太宰は溜息を吐くと携帯を取り出し、敦の想い人で鏡花の会いたい相手である芥川ふみへと電話を掛けた。

電話越しで不機嫌そうなふみに太宰は、苦笑いすると太宰の隣で「ふみさん{emj_ip_0793}ふみさんと電話してるんですか{emj_ip_0793}代わって、太宰さん代わってください{emj_ip_0792}」「ふみ?ふみと電話?話したい、代わって」「僕が先だよ鏡花ちゃん」「駄目、私が先」と争う敦と鏡花に溜息を吐いた。

ふみは、電話越しから聞こえる敦と聞き覚えのある少女の声に首を傾げ、心当たりのある少女の名を口に出した。


『もしかして其処にいるのは、鏡花ですか?』


ふみの問いかけに太宰は、「そうだよ」と答えると電話越しのふみから『そうですか…』と声が聞こえた。


『で、御用件は何でしょうか。くだらない事でしたら今直ぐに切らせていただきます。太宰さんの様に常日頃から時間を持て余している訳ではないので』



太「本当、ふみちゃんは私が嫌いだねぇ、君の片割れである芥川くんは私を慕ってくれていると言うのに…」


太宰さんがそう言った瞬間、電話越しにブチッ{emj_ip_0792}と言う音が聞こえた後、ツーツーッと通話が途切れた。


太「あちゃー」


敦「もう、太宰さんがふみさんを怒らせるからですよ{emj_ip_0792}」


“電話代わりそこなっちゃったじゃないですか{emj_ip_0792}”と怒る敦に鏡花もむすっと太宰を睨みつけていた。


怒る2人に太宰は、困った様に笑い謝ると敦は「別にいいですよ…もう、いつもの様に異能力使って街中探しますから」と呟いた。


太「敦くん、異能力を凄い活用してるね…」


敦「ふみさんへの愛故です。」


敦はキラキラとした笑顔で言った。

敦「其れにしても電話越しから聞こえたんですが…多分、ふみさん公園のクレープ屋さんにいるかもしれませんね。」


太「え、そんな音聞こえたかい?」


敦「異能使って聞いてましたからね。
ふみさんの声に混じって“大盛りチョコバナナクレープホイップ多めのお客様ー”って言う声が聞こえて来ました。

あれは、多分ふみさんが注文しているので店先で食べてると思いますよ。」


“鏡花ちゃん、僕はふみさんに会いに行くけど行く?”と言う敦に鏡花は、ブンブンと大きく頷き、太宰は、敦のふみへの愛と言う名の執着心に遠い目をした。


太「敦くん…(色んな意味で)強くなったね。」


敦「?」


敦は首を傾げると鏡花を連れて外へと向かったのであった。