太「ゲッ{emj_ip_0792}……中也…」
中「“ゲッ”って何だ、“ゲッ”って」
とある大型商業施設《ショッピングモール》の中にある休憩所にて座っていた太宰は、自身の座る長椅子《ベンチ》にトンッと座ってきた黒い人物を見て怪訝な表情を浮かべた。
太宰の隣に座った人物は、太宰がよく知る人物でポートマフィア時代の元相棒であり嫌いな相手である中原中也であった。
太「中也、君、マフィアなのに大型商業施設《ショッピングモール》に居ていいの?
てか、何で居るの?早く帰りたまえ」
中「手前、喧嘩売ってんなら買うぞ」
ギロリと中也が太宰を睨むと太宰は、“きゃー怖いー”と戯けた様な態度を見せた。
中也は、太宰の態度にイラつきながらも「手前は、何で居んだよ太宰。」と問いかけると太宰は戯けた態度を止め、めんどくさそうに「探偵社の備品買い出しだよ」と答えた。
中「探偵社の備品の買い出しって手前、買い出ししてねぇじゃねぇか」
中也が飽きれた様な顔でそう言うと太宰は、「備品の買い出しは、敦くんに任せているのだよ。私は、付き添い」と言う太宰に「唯のサボりたいが為について来ただけかよ」と太宰と共に買い出しを頼まれたその場に居ない敦に中也は、同情した。
だが、“敦くん”と言う言葉に中也は、「あっ…」と声を挙げた。
太「何だい、いきなり。阿保みたいに」
中「手前、殺すぞ糞青鯖。
てか、“敦”ってあれか、ふみを追い掛け回してる人虎の名前だったな。確か」
視線を太宰に向けながら問いかける中也に太宰は、「そう。ふみちゃんの愛しい旦那様(自称)の敦くん」と答えた。
「あー…やべぇな。」と呟く中也に太宰は、怪訝そうな顔をすると「え?何?ふみちゃんいるの?」と尋ねると中也は、「…今、エリス嬢のお遣いの途中だ」と言うと太宰は「あー、会うかもねぇ。敦くんふみちゃんに対して何か電波受信してるのかってぐらい敏感だし」と笑った。
太「ふみちゃん居るのか…私の顔を見た苦虫を噛み潰したような表情を見せるんだろうね。」
“私、何であんなに嫌われているのかな。中也何かふみちゃんに吹き込んだのかい?”と太宰が言うと中也は、眉間に皺を寄せながら「ふみは手前を“嫌い”じゃねぇ“苦手”なんだよ」と言った。
太「……前から思ってたけどふみちゃんのよく言う“嫌いじゃない、苦手”って言葉、どう言う意味なのか、中也知ってる?」
太宰の言葉に中也は、何も答えなかった。
太「知ってるんだね。
私がふみちゃんに“苦手”とされている理由も…“芥川くんが私に執着してるから”って理由だけじゃないよね。」
中也は、太宰の言葉にハッと鼻で笑うと「手前は、ふみに言った言葉もその言葉にふみが傷ついた事も全部忘れてやがるんだな」と何処か皮肉を込めた様な言い方をした。
太「ふみちゃん、いつの間にか中也の元に居たし中也やっぱり何かしたでしょ。」
中「そんなに教えてほしいなら教えてやるぜ?
ふみが何故、手前を“苦手”なのかと俺の下についた訳。」
中也は、意地の悪そうな顔で笑うと口を開いた。
それは、芥川龍之介と双子であるふみ。
そして、2人の妹である銀がポートマフィアに拾われた頃の話であった。
ポートマフィアに拾われた3人は龍之介とふみは、太宰の元で…
妹・銀は、広津の元で其々、教育を受けていた。
元々、龍之介とふみは異能力者であった為、太宰の元で厳しい教育を受けていた。
ふみの片割れである龍之介は、太宰を心底慕っており、また存在を認めてもらいたいが為に只管、強さを追い求めていた。
そんな龍之介にふみは心配しながらも片割れの隣に立ち、いざと言う時に片割れと妹を守れる様にと太宰の厳しい教育に必死に食らいついていた。
だが、双子でありながらも強さを求め人を殺める事をも厭わない龍之介に対してふみは、人を傷つけると言う事に少し躊躇している様に伺えた。
殺し合いの中で少しの躊躇は、命取りになる。
太宰は、そんな事を考えて居たかは分からないが龍之介よりふみに対して風当たりが酷い様に見えた。
太「強く無ければ役に立たない。
優しさなんてこの世界には無意味だ。
君は、其れを一向に理解しない。
いや、しようとしないのは知能が低いからかい?」
太宰は、常にボロボロなふみに対して冷たい目でそう吐き捨てていた。
『もうし、わけ、ありま…せん』
太「謝るなら、その小さい脳味噌で如何すれば良いのかを考え給えよ。」
ただ、ふみは、自身に向けられる冷たい視線と態度に耐えていた。
そんなある日の事だった。
太宰の采配した任務でふみが失敗したのだ。
敵の首領の首を捕らえる筈だったのにふみは、肝心な所で躊躇してしまい、敵の首領を逃してしまったのだ。
敵の首領は、姿を眩ませてしまい行方が分からなくなってしまい、太宰の采配は失敗に終わった。
ポートマフィアの首領であった森鴎外は、太宰の采配の失敗に驚いた様な表情を見せたが「まぁ、湧き出て来たらまた、潰せば良い話だよ」と笑っていたが、太宰の腹の中は自身の采配を失敗へと導いたふみに対しての怒りでいっぱいであった。
教育室である地下室にふみと太宰は、居た。
冷たい目で自身を蔑み罵る太宰にふみは、自身の行いが失敗に導いた事を理解していたため何も言い返す事をせず、だだ、グッと爪が食い込む程、拳を握り唇を噛みしめ太宰からの与えられる痛みに耐えるしか無かった。
太「此れだけ、私の教育を受けて居るのに何故、君も芥川くんも成長しないのかな。」
ガッと蹴られる腹にふみは痛みで倒れ込み、腹を押さえながら蹲ったが、そんなふみなど御構い無しに太宰は、ふみを蹴り続けた。
太「芥川くんは周りを考えずに独走し…
君は人の言う事が聞けない馬鹿。」
“君達、屑の塊かい?”
地べたを這う様な低い声にふみは、びくりと震えると『もうしわけありませんっ』と痛みで上手く動かせない口を恐る恐る動かしながら言うと太宰は、ふみの前髪を掴み引っ張った。
痛みで顔が歪むふみに対して太宰は、光の無い瞳でふみを見つめると口を開いた。
太「君にピッタリな任務をあげよう。
その豊満な身体を使って敵に取り入って来い。」
“ほら、君にピッタリな任務だ”
そう言うとにっこりと微笑む太宰にふみは、目を見開いた。
『い…や…です…っ{emj_ip_0793}』
太宰の口から出た“身体を使って”と言う言葉にふみは嫌だと言うと太宰は掴んだままのふみの髪を更に引っ張った。
太「君…任務を失敗しておきながらよく口答えが出来るね。
巫山戯るのも大概にし給え。」
そのまま、投げ飛ばす様にふみの髪から手を離した。
地べたに転がる血と泪でぐちゃぐちゃなふみの顔を見て鼻で笑った。
太「芥川くんの“紛い物”は、芥川くんより使えないね」
ふみは、その一言に頭の中が真っ白になった。
痛む身体を起こし、目を見開きながら太宰に問い掛けた。
(今、太宰さんの口から出た言葉が私の幻聴なら良いのに。)
そんな思いで訪ねた。
『今……なんと…っ?』
太宰は、目を見開き震えながら問いかけるふみに冷ややかな視線を向けたまま…
「芥川くんの“紛い物”は芥川くんより使えない。」
再び、太宰の口から出た“紛い物”と言う言葉にふみの中で何かがピシッとと音を立てて何かに切れ目が入ったのが分かった。
背中は、ヒヤリと冷たくなり息が詰まって上手く呼吸が出来ない。
寒くも無いのに震えが止まらず、涙が溢れて止まらなかった。
『まがいもの…っ?』
涙を流しながら呟いたふみに太宰は、「まさか自分が芥川くんと同等だと思っていたのかい?」と嘲笑うかの様にふみに訪ねた。
太「芥川くんは君なんかより数十倍もマシだよ。
まぁ、異能はポンコツだが君の様に躊躇もせず、感情に流されたりしない。
君は、女性だし私の言っている事を何も理解しようとしない
故に君は芥川くんの見た目をした“紛い物”だ。
芥川くんは、君みたいな“紛い物”が居て大変だね。
君は、芥川くんの足元にも及ばない存在だ」
嘲笑う太宰にふみは、涙が止まらず溢れ続けた。
龍之介を守りたいが為に必死に太宰の厳しい教育を耐え抜き、龍之介の隣に立てるのは片割れである自身しか居ないと思っていたのに太宰のその一言により今迄の時間も努力もそして生きて来た事さえも全てを太宰は、朝笑ったのだ。
そして…
「紛い物」
その言葉により芥川ふみと言う存在は、目の前にいる太宰治により否定されたのだ。
その後の事は、ふみは覚えていなかった。
だだ、気づいた時には医務室の寝台《ベッド》の上で眠っていた。
包帯が巻かれ、頬にガーゼを貼ったふみは寝台《ベッド》から痛む身体を無理矢理起こすと仕切られていたカーテンを恐る恐る開けた。
「あ?……おぅ、起きたのか。」
其処には、帽子を被ったふみより少しの背が大きいぐらいの栗毛色の青年が医務室に備え付けられたソファーに堂々と座っていた。
ふみは、光の無い黒い瞳をその人物へ視線を向けると『貴殿は…中原さ、ん』とその人物の名を呼んだ。
中「中原中也だ。
手前の顔は知ってんぜ、太宰の部下で芥川の双子の妹だろ?
悪いな。名前は知らねぇんだ。」
“何て言うんだ?”と尋ねる中也に『芥川ふみ、です』と答えた。
中「太宰が手前を痛ぶってる場面に出くわしてな。
あの青鯖に声掛けたら手前を放置して出て行きやがったから医務室に運ばせてもらった。」
『感謝致します。ありがとうございます。』
ぺこりと頭を下げるふみに中也は、溜息を吐くと「手前は、抵抗ぐらいしろよ。」と言ったがふみは『自分が失敗を犯したので当然の報いです』と静かに答えた。
中「そりゃ、失敗したのは手前が悪いかもしれねぇが彼奴に殴られっぱなしってのは腹立つだろうが」
“其れとも何だ、手前、あの青鯖野郎の事が好きな被虐性愛《マゾヒスト》か?”と怪訝そうに言う中也にふみは全力で首を横に振り否定した。
中「そんなに否定するって事は、手前太宰が嫌いなのかよ。」
そう問いかける中也にふみは、少し言い辛そうに「……苦手です」と呟いた。
その顔は、苦虫を噛み潰したような顔をしており、明らかに“苦手”では無く“嫌い”と言っている様に見えた。
中「いやいや、明らか“嫌い”って顔してんじゃねぇか」
『……苦手です。』
中「だから顔だよ、顔。」
『………“にがて”なんです』
意地でも“嫌い”では無く“苦手”と答えるふみに違和感を感じた中也は「何でそんなに“苦手”に拘るんだよ」と尋ねるとふみは、視線を逸らしながら『……っ…から』と呟いたが中也には小さすぎて聞こえず「あ?はっきり言えよ」と言うとふみは、グッと口を噤みもごもごと口を動かすと『龍之介に嫌われるかもしれないから』と呟いた。
『龍之介は……太宰さんの事を慕い、そして認めてもらおうと必死になっています。
私が太宰さんの事を嫌いだと知ってしまうと…………
私は龍之介に嫌われてしまうかもしれません。』
“大切な家族に嫌われてしまったら私は生きていけぬ…”
『だから私は、太宰さんを“嫌い”では無く“苦手”と言い続けるのです。』
“そうすれば……まだ、嫌われずに済む……”
龍之介には内緒にしておいてください。と言うふみに中也は、眉を寄せ少し不満げ「………手前は、其れで良いのかよ。
手前が抵抗しなかったら…何時迄も太宰は、手前を痛ぶり続けるぜ?」と言った。
『私は家族以外に大事な物などありません。其れに抵抗しても…痛ぶられる事に変わりは無いと思います。
現に先程も抵抗しましたが…力の差は歴然で無意味でした』
無表情で諦めた様に言うふみに中也は、「あぁ…そうかよ」と言うと2人の間には暫し無言が合った後、中也が「決めた」と声を挙げた。
そんな中也にふみは不思議そうに首を傾げると中也は、ビシッと音が鳴りそうな勢いでふみを指差し睨みつけた。
中「手前は、今日から俺の下に付け。
俺が手前に太宰に抵抗する術を教えてやる。」
『はっ?』
突然の事に驚き目を見開くふみに中也は、ニヤリと笑った。
中「俺は、クソ太宰がこれ以上調子に乗るのが気に食わねぇ。
だからこそ、今、手前をこの俺が鍛えてお高く止まってやがる最年少幹部様に仕返しする良いチャンスじゃねぇか。
奴には異能は効かねぇ。
故に異能で勝負して負かすのは無理だが、体力と体術は俺の方がまだ上だ。
手前を鍛え、あの青鯖野郎の顔面に一発でも手前の拳が入りゃ、奴の間抜けな顔が拝めるかもしれねぇ。
手前は、殴れてすっきりするし俺は清々して良い気分になる。
それはそれは…愉快な話だよなぁ」
太宰の驚く顔を想像しながら楽しそうにニヤリと笑う中也にふみは『つまり、“私で復讐したい”と言う事ですか?』と言った。
中也は、笑みを浮かべたまま「復讐?ちげぇよ」と言葉を紡いだ。
中「“手前に太宰に抵抗する術を教えてやるだけだぜ?”」
そう言うと笑う中也にふみは、数秒無言状態後『宜しくお願い致します。|“師匠”《せんせい》』と言ったのだった。
中也の口から聞き終えた話に太宰は、気まずそうに視線をうろうろと彷徨わせた。
太「……あの頃は若かったのだよ」
中「今更、後悔しても彼奴は許してくれねぇと思うぜ」
“いつか彼奴に殴られるのを震えて待ってろよ”
楽しそうに笑う中也に太宰は、ポートマフィア時代の荒れた自分を呪いたくなった。
自分の言った一言がふみを傷つけ、そして長年に至る深い溝になっていたとは思いもよらなかったからだ。
太「て言うか、中也がふみちゃんをあんな凶暴に育て上げたんだね」
中也のお陰で鍛えられたふみは、ポートマフィアを抜け再会した太宰に事ある毎に腹パンをかましたり脛をゲシゲシと蹴り上げるなど太宰がポートマフィア時代に居た時の抵抗しないふみは何処へ行ったのか、わからない程太宰に対して手が出る様になっていた。
中也とふみの目標である顔面パンチはまであるが。
中「太宰になんかされたり言われたりしたらとりあえず殴っとけって教えてあるからな」
太「中也、君、本当何なの{emj_ip_0793}」
中「後、落ちてるもん何でも食うなとか食べ物に釣られて知らねぇ人間について行くなってのも教えてある」
太「お母さん?中也、ふみちゃんのお母さんなの?」
“うるせぇ”と言う中也に太宰は、溜息を吐くと「あんな凶暴化した食欲の化身であるふみちゃんがもし、お嫁に行けなかったら中也の所為だからね」と言うと中也は、「あ?あんな凶暴食欲満載健康優良娘の嫁の行き先、一個あるじゃねぇか。」と欠伸をしながら答えた。
太「まぁ……今、直ぐ其処でその凶暴食欲満載健康優良娘に背負い投げされそうな彼は、ふみちゃんにぞっこんだしねぇ」
中「はっ?」
“背負い投げ?何だそりゃ…”と言いながら太宰の指差す先を見ると其処には、話に出ていた凶暴食欲満載健康優良娘であるふみが人虎・中島敦を背負い投げしている場面であった。
中也は、目を見開き己の部下であるふみが敦に綺麗な背負い投げをした後、何処か清々しそうな顔をしているふみを数秒見つめた後、ハッと意識を取り戻しふみの名を呼んだ。
中「ふみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ{emj_ip_0793}手前、公共の場で何やってんだ{emj_ip_0793}」
『な、中原さん…っ{emj_ip_0793}ち、違います、此れは人虎が悪いんです{emj_ip_0792}』
中也に見られていた事に気がついたふみは、母親に悪戯がバレた時の子供の様に慌て、違うと言い訳をするふみを見て太宰は「わー、焦ってるねぇ…ところで敦くん大丈夫かい?」と床に転がる敦に尋ねると敦は、ムクッと起き上がり「大丈夫です。もう、ふみさんたら恥ずかしがり屋さんの力持ちですね{emj_ip_0792}」と笑顔であった。
そんな太宰と敦の横で中也がふみに「手前は、もっと周りを見やがれ{emj_ip_0792}人が居るんだぞ、周りに迷惑だろうが{emj_ip_0792}後、手に持った紙袋3つは何だ。まさか手前エリス嬢のお遣い以外に何か買ったんじゃねぇよな?」『わ、和菓子が美味しそうで…』と母親の如く怒っていた。
中「また、手前は要らねぇもん買いやがって{emj_ip_0792}しかも三箱、ちゃんと食えんのか?」
『食べれます{emj_ip_0792}直ぐに食べれます{emj_ip_0792}』
中「直ぐ食べんな。ゆっくり一つずつ食え」
そう言うとふみは、コクコクと何度も頷いた。
敦「ふみさん、可愛い」
何度も頷くふみを見て敦は、何故か幸せそうに微笑んでいた。
太「敦くん、何処に幸せを感じる要素があったのかな?」
敦「ふみさんが居る事自体が幸せですから」
そう言って笑う敦を中也はちらりと横目で見た事に太宰は気づき、少し無言の後、中也の横にいたふみへと話しかけに言った。
中也は、そんな太宰とふみを横目で見ると少し先に立っている敦への元へと向かった。
太「やぁ、ふみちゃん」
『………………………』
太宰に話しかけられ嫌そうな顔をしながらも頭をぺこりと下げる姿勢に太宰は苦笑いするとふみに「すまない」と言った。
突然の事にキョトンとするふみに太宰は、困った顔をしながら笑った。
そんな太宰にふみは此の世の終わりの様な表情を見せると太宰に対して『気持ち悪っ…』と呟いた。
太「気持ち悪い{emj_ip_0793}」
『気持ち悪いです。やめて下さい』
太「酷くないかい{emj_ip_0793}」
両手を覆いめそめそと泣き真似をする太宰にふみは、溜息を吐くと『本当に気持ち悪いです』と更に追い討ちをかけた。
『そもそも…マフィアに居た頃は私の名すら呼ばなかった貴方が私の名を呼んでいる事も気持ち悪い』
太「……すまない」
『謝らないでください。気持ち悪い』
太「ふみちゃん、今までの会話で5回も気持ち悪い言ったよ{emj_ip_0793}」
本気で泣き出した太宰にふみは、冷やかな視線を向けるとふいっと太宰から視線を逸らした。
『私は……貴方が苦手です』
太「……うん」
『貴方から受けた仕打ちも理由にありますが矢張り一番は、龍之介が貴方を慕っているからです。
貴方がポートマフィアを抜けたと知った時、龍之介は荒れに荒れました。
家族であり…片割れである私の言葉が届かない程に』
“其れが酷く悲しく…其れと同時に苦しく、そして貴方に対する憎悪が生まれました”
『毎日、毎日…傷だらけになりながらも自身の命など顧みない龍之介に私は、いつか居なくなるのではないかと怖かった。
あんな思いをするなら……
一層の事…龍之介も連れて行ってくれたら良かったのに…』
そう言ったふみの横顔は、儚げで肩が少し震えている様に太宰には見えた。
ふみにとって片割れである龍之介は一番大切な人なのだ、だが太宰がポートマフィアから姿を消した事により荒れ、自身の命を顧みない龍之介にふみは毎日、大切な人がいつか死んでしまうのでは無いかと不安で仕方がなかったのだ。
だからこそ、死んでしまうくらいなら“苦手な”太宰に龍之介を共に連れて行ってくれる方が良かったのだ。
『矢張り…貴方は“苦手”です、太宰さん』
太「ふみちゃん…」
太宰が名を呼ぶとふみは『あぁ、もう名を呼ぶとか気持ち悪い』と言い、そんなふみに太宰は「私に名前を呼ばれるのがそんなに嫌かい{emj_ip_0793}名前呼ばれないと寂しいでしょ{emj_ip_0793}」と声を荒げた。
『別に貴方に名を呼ばれなくても馬鹿のひとつ覚えの様に私の名をしつこいぐらいに連呼する愚者がおります故に太宰さんに名を呼ばれなくても平気です』
そう言いながら何処か一点を見つめるふみの視線を太宰は、辿っていった。
すると其処には、中也と話す敦の姿があった。
太「敦くん…良い子だろう?」
『毎日毎日、私の前に現れては“好き”や“愛してます”など戯れた事を言っている愚者にしか思っておりません』
そう言いながらも敦から視線を逸らさないふみに太宰は、小さく微笑んだ。
じっと敦を見つめるふみに気がついた敦は、目が合ったふみに幸せそうに微笑むとふみの名を呼んだのだった。
敦「ふみさん、ふみさん{emj_ip_0792}」
『人の名を連呼するな人虎』
そんな2人に太宰は、更に微笑んだ。
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