※薬研はほぼ出てきません。鶴丸が出しゃばります。



○月×日 天気:はれ

今日の薬研くんは洗濯当番でした。白衣姿で洗濯物を干している薬研くんは、もしかしたら天使なのかもしれない。薬研くんは天使で、天使は薬研くんで、天使の本職はもしかしたら白衣を着て洗濯物を干すことなのかもしれません。加州くんに聞いてみたら、目を見開いてドン引きされました。解せません。どうしてでしょうか。安定にも聞いてみました。3メートルほど距離を置かれました。解せません。ああ、きっと一期くんなら分かってくれるでしょう。一期くんにも言ってみました。少し顎に手を当て、考えてくれました。しかし一期くんが言ったのは「いえ、薬研は天使ではありません。大天使ミカエルです」でした。固く握手を交わしました。


○月△日 天気:はれ
今日、薬研くんが遠征から帰ってきました。たくさん資源を持って帰ってきてくれたので、ベリーハッピーです。けど気になることがあります。薬研くんの肩に一本、金色の髪がくっついていました。あれは一体何なんでしょう。

〇月☆日 天気:なかなかのはれ
薬研くんは今日もかっこいい。耳に髪をかけてる姿が本当にかっこよかった。薬研は、私のいらなくなった本を山積みにした通称読書ルームでよく本を読んでいる。できれば定期的に見たいので、これからは定期的に本を提供しようと思う。


○月*日 天気:すごくはれ
薬研くんのお背中にまたもや金色の髪の毛が


○月□日 天気: ◎
       o(^o^)o
あの髪の毛は大天使ミカエルなのかもしれない


〇月▽日 天気:はれと見せかけたはれ
ミカエル様が洗面所に落ちていたので拾って供養した


〇月★日 天気:ふつう
昨日供養したはずのミカエル様がまたもや洗面所で発見された。薬研会いたさに抜け出してきたのだろうか。


○月▲日 天気:まるで空が泣いているようだ
最近毎日のようについていた金色の髪の毛を見なくなりました。あ、今日は薬研くんが笑いかけてくれました。一週間は飲まず食わずで生きいけます。


○月◇日 天気:兼さんの髪がはねている
今日は薬研くんが「何だ?日記か?」「ああああああ!」


ひょいと突拍子もなく目の前に現れた白銀に、情けない声が出た。慌てて書いていた日記を抱きかかえ、距離をとる。待って!見た!?見たの?ねえ見たの!?断末魔のような叫び声は一旦置いておき、まずはその真相を知ることが大切だ。動悸が激しい。冷や汗も酷い。まるで更年期障害のようだ。心臓が別の生き物のように動いて、太鼓のように全身に響き渡っている。お願いだから見ていないと言って。中身は覚えていないと言って。頼むから言って。「君は薬研が好きなのか」はい、お疲れ様です。


「大丈夫だ。心配しなくても誰にも言わないさ」
「……し、信じられない」
「なら広めてほしいのか?今すぐ声を大にしてその内容を読み上げてやってもいいが」
「ごめんなさい」
「しかし驚いたなぁ。まるで薬研の観察日記のようじゃないか」
「ばっちり中身は覚えてるんだね?」
「もちろんだ。記憶力の良さには自信がある」


肩を竦めて私を見る鶴丸さんは、それでも口元が緩みっぱなしだ。心の中では面白いものを見つけたとでも思ってるんだろう。グググと対して唇を噛む。正直一番バレたくなかったのは鶴丸さんだった。だって、どんな形で広められるか分かったもんじゃない。腹が読めない上に、驚きが生き甲斐だなんていう人だから、本人にあっさり告げてしまう可能性だって無きにしも非ずだ。あれだけひっそりと生きさせてと初詣でお祈りしたのに、それさても叶えてくれないなんて神様はひどい。私の周りみんな神様だった。


「なあ主」
「な、なに」
「いいこと教えてやろうか」
「いいこと?」
「君の大好きな薬研のことだ」
「教えてください」
「あいつは天使なんかじゃないぞ」
「はい?」
「あいつは天使なんかじゃない。どちらかというと悪魔だ」
「あの……」
「悪魔というより魔神だな」
「あ、もう結構です」


何を言い出すかと思えば薬研くんが悪魔?魔神?何を言っているんだ鶴丸さんは。冗談にも程がある。ハッと鼻で笑ってナイナイ、と手を振るとつまらなさそうに鶴丸さんはその場に腰を下ろした。頭の後ろで両手を組む彼は「本当なんだがなぁ」と口にしているけれど、信じる気は毛頭ない。ただでさえ驚きを糧に生きているような人だ。きっと今回も私を驚かそうとした末の冗談なんだろう。私は一期くんと薬研は大天使ミカエル説を唱えている仲である。薬研くん魔神説は認めません撲滅運動開始します。キュッと唇を結んで頑なに首を横に振っていると「そうだ」と鶴丸さんが手をポンと打った。今度はなんだと顔を向けると、キラキラと輝く黄金色の瞳が私を捉えている。避けようのない視線に嫌な予感がした。


「俺を近侍にしたらどうだ」
「近侍?」
「ああ。確か近侍は薬研だったろう?しかしまあ、今の様子を見るにうまくいってない」
「君は私から、唯一の楽しみさえ奪うのですか」
「夜に一度ある報告のことかい」
「その通りだ鶴よ」
「活用しきれていないだろう」
「……うっ」
「まあ、上手いことやってやる。薬研を近侍から外したところで、どうせ会う機会はあまり変わらない」
「鶴丸さんが傷をえぐってきます!」
「これから相談くらいはのってやるさ」
「結構です」
「まあそう言うな。君のことも薬研のことも一番良く知っているのは俺だ」
「のってください」
「うちの主は現金だなぁ」


そうして近侍は薬研くんから鶴丸さんに変更となった、らしい。今思えばうまく流されたと言ってもいいかもしれない。けど、鶴丸さんが、ああも押してくることも滅多にない。薬研くんと少しでもお近づきになれるのなら……!そんな淡い期待を馳せて眠りについた。

明日も薬研くんとちょっとでもお喋りできますように。


〇月◇日 天気:兼さんの髪がはねている
今日は薬研くんが
今日は鶴丸さんがやってきて、協力する代わりに近侍にしろと約束させられました。なんていうやつだ。でも薬研くんと仲良くなれるチャンスがあるなら、鶴丸さんに頼ってやってもいいと思いました。先が気になります。早く明日になーれ。



「どうだ、薬研。可愛いもんだろう主は」
「ああ、そうだな。俺っちのことが大好きだってのがよく分かる」
「君はとことん腹が黒いなぁ」
「大将には秘密だぜ?旦那」

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