女子が俺の事「かっこいい」だの「素敵」だのと言って持て囃されてる自覚はある。自惚れてる訳やないけど、整った容姿に高校No.1セッターの肩書を背負ってるのは伊達じゃなく、狭い学校内だけに留まらず校外、全国各地に俺のファンがおる。練習は完全部外者立ち入り禁止にしとるからギャラリーは一切居らんものの、練習試合でも公式戦でも試合と名がついてギャラリーOKとなった途端に女子がわんさか俺と血を分けた治ん事を応援しに来る。

まあ応援ないよりある方がやる気も出るし、女子にモテるんは悪い気せえへんというか、寧ろ嬉しいんやけども。ただ自分が好意寄せる相手に振り向いてもらえへんのには流石に堪えるもんがある。俺、宮侑16歳。絶賛片思い中である。


「ツム、さっきから応援席見て溜め息吐くんやめーや」
「え、俺そんな溜め息しとる?」
「どうせあの子ン事やろ」
「何でわかんねん」
「双子やからちゃう」
「せやな」


はあーっと深い息を吐き、ギャラリーが捌けていく応援席を再びチラと見る。今日は稲荷崎にとって重要な試合で、絶対活躍するからと息巻いて想い相手の彼女に応援をお願いしたというのに、最後の最後まで会場で彼女の姿を見ることは叶わんかった。単に俺が見つけられへんかっただけかも知れん。それでも来てくれて応援してくれるかもと心の中で期待値があっただけに、試合中稲荷崎の応援群の中に彼女の姿を視界に捉えられんかっただけでガッカリ感が心を支配する。終盤彼女が来てくれてへんっちゅー焦りからか取りこぼしが所々あってコーチにも監督にも注意もされた。試合には勝ったけど駆け引きに負けた、そんな気分や。


「勝ったのにそんな溜め息吐いとったら先輩らに怒られんで」
「わかっとる」


治に横腹突かれ、また溜め息出そうになるところをなんとか飲み込み会場をあとにする。いや、まぁこうなるとわかってはいた。幾らこっちがアプローチしたところで彼女が応えてくれたことは一回もなく、俺の一方的な想い入れってこともわかっとる。それでも期待してしまうのは性ってもんか。高校バレーの重要な立ち位置になりつつあるんはわかっとるけど、それでも、それでも俺はまだ未熟な男子高校生で、恋愛で一喜一憂なんてここ最近じゃ日常茶飯事や。

彼女に巡り合うまで、高校でバレーを続けてる限り恋愛に現を抜かす事になるなんて思ってもおらんかった。何でそこまで彼女の事好きなんか自分でもよぉわからんけど、彼女の笑顔がホンマに愛おしくて可愛くて、その彼女の笑顔が自分に向けられたものじゃないって分かっとっても好きなもんは好きやねんから仕方あらへん。恋は病って言葉に昔は鼻で笑っとったけど、今じゃ全然笑えへん。何時もなら試合後は自分のプレーを思い起こして頭の中で一人反省会するんに、今日は彼女の事は頭から抜けへんくてバレーに全然集中できひん。

家帰って風呂に入ってサッパリすれば頭ん中リセットされるかと思ったけど、全然そんな事はあらへんくて。風呂上がりに今日試合に勝ったからと治と2人で買っといたちょっと値段したプリンを食べれば、嫌に甘ったるく感じた。ああ〜と唸りながらリビングのソファの背もたれに身体を預ければ、でテロンとポケットから電子音が聞こえた。どうせDMかなんかやろと思いつつ、それでもほんの少しの淡い期待を胸にスマホを取り出せば画面にLINEのアイコンと共に「名字名前」と彼女の名前が。期待してたくせに実際事が起きれば信じられんくて画面を二度見する。俺の様子がおかしかったんか、隣におった治がどないしてんと訝し気に聞いてきた。


「いや、ちょお、見て……!」
「よかったな」
「待ってや、アッサリ言い過ぎちゃうん」
「よかった以外に何があんねん」
「……それもせやな」


すぐに既読つけるんはどうかと思いつつも、早る気持ちを抑えられへんくてLINEのアプリを立ち上げる。そこには短い一文だけが表示されとった。けどこの一文が俺にとってはめっちゃ嬉しくて堪らんくて、思わずよっしゃぁ!とスマホを握りしめてガッツポーズ決めながら叫んでしもた。ウルサイと眉を顰めてこっちを睨む治に平謝りし、もう一度彼女から来たLINEを見る。「試合見てた、かっこよかったよ」やなんて、嗚呼、こんなん言われたら頑張るしかあらへんやんか。好きな彼女の為に〜とかでもなんでもあらへんけど、それでもこの一言で今まで以上にバレーを頑張れる気がした。










落ちて上がる





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