▼ 始まった新生活
広い体育館で激しい足音が響き渡る。
ワックスがけが施された床にボールを叩きつけながら、敵チームの防衛を看破する。
ボールを奪おうと近づく敵。
これ以上は進めないか……なら!
「紅羽!」
最も信頼できる子に頼る!
「りょーかい!」
長年の付き合いである信頼できる親友にボールをパスする。
キャッチした紅羽はその場で飛び上がり、ボールを投げる。
――ガンッ、パスン……
リングに当たったけど、ゴールネットに入ったボール。
審判を務めていた体育の女性教師がホイッスルを鳴らして試合終了を知らせた。
「そこまで! Aチームの勝利!」
本日のバスケの授業で、最後の試合が終わった。
結果は……私のチーム、全勝。
「ナイスパス!」
「そっちもナイスゴールイン」
パシッと私の肩を叩いた紅羽とハイタッチ。それを合図に、次々とチームメイトが集まってきた。
「若桜さんってすごすぎっ! 凛々しくてカッコよかった!」
「千景さん、あの余裕な笑みは痺れるよ!」
今回のバスケは男女混合だったから、男子も女子も関係なく褒めちぎる。
「みんなもナイスサポートだった。ありがとな」
ニッと凛々しい笑みを浮かべる紅羽に、女の子達は心臓を銃で撃ち抜かれたような衝撃を受けて、赤面して固まった。
今の紅羽は男顔負けのカッコ良さがあった。見とれる気持ちはわかるよ。
一つにまとめたセミロングの黒髪。ハーフの母親譲りの赤紫色の瞳は凛としているから、クールな印象を与える。男なら女性、女なら男性と見間違うほど、精巧すぎる中性的な美貌。華奢だけど、弱さを感じさせないスレンダーな体型。しかも高身長だから、見下ろされる女の子の心臓を射止める。
まぁ、この身長のせいで女性らしい服を着られないことに嘆いているけど……。
千景紅羽。私の幼馴染で、大親友で、心から信頼できる相棒的な存在。
お互いに理解者だから、二人でいる時の方が気楽でいられる。
「怜、並ぶか」
「うん」
紅羽の声で、私は一ヶ所に集まる生徒達へ向かった。
私の名前は、若桜怜。
腰までまっすぐ伸びた黒髪に、日本人らしい黒い瞳。両親のいいところを受け継いでいるから、ある程度整っていると思う。身長は平均より少し高めで、紅羽曰くモデル以上の体型、らしい。全体的に見ると、優しく麗しいという印象を与える容姿らしい。
自分で自分の容姿を表現するのは苦手だから、紅羽の評価で容姿を評価している。
容姿以外なら、自分で評価することはできる。
勉強は常にトップクラスの成績を誇っているし、運動も男子に引けを取らないくらい抜群。模範生らしい優秀さもあるから、教師陣からの信頼も厚い。
絵に描いたような優等生。それが、私がつけた自分の評価。
実際、教師達からたびたび優等生だと褒められているから、嫌でも自覚するよ。
でも、私はどこにでもいる女子高生だ。それは断言できる。
幅広いジャンルの漫画や小説、ファンタジー系の実写映画、音楽もバラードやロックなどの今時風の楽曲や洋楽が好き。ゲームはほとんどしないけど、音楽ゲームは得意。
ちょっと女子力はないけど家事力はある、普通の女の子。
そんな私の日常が、変わろうとしていた。
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