前途多難?

「それじゃあ、行ってくるわね」
「怜ちゃん、翼をよろしく頼むよ」

 両親は海外出張へ向かい、綾崎夫妻が帰り、広い我が家に私と綾崎くんだけが残った。
 綾崎くんは、人間不信で人間嫌い。たぶん、まともに会話することも難しいだろう。
 本当は一人暮らしでも十分大丈夫なんだけど……頑張るしかない。

 一旦荷物を二階へ持って上がって私服に着替えてから、未使用のノートとシャーペン、消しゴムを持って一階のリビングに戻る。綾崎くんは一階に宛がわれた客室に荷物を置いてきたのか、後からリビングに入ってきた。

「綾崎くん、これに好きな食べ物と嫌いな食べ物を書いて」

 ダイニングテーブルにノートを広げて置けば、彼は不思議そうな顔をした。

「食事に嫌いなものが出てくるの、嫌でしょ?」

 これから夕飯の時間になるからね。できるだけ知っておかないと献立が難しくなる。
 買い出しにも行かないといけないから、今のうちに知っておきたい。

 シャーペンと消しゴムを置いて言えば、綾崎くんは眉間にしわを寄せて席に着き、書き始めた。

「ついでに今日、食べたい物を書いていいから」

 冷蔵庫の中身を確認しながら言って、明日の朝食と弁当のおかずを考える。
 鶏肉と卵はあるけど、一応補充した方がいいかな? あとはベーコンとハムと食パン、トマトとキュウリと……。

 メモ用紙に必要な食材を書いてから、麦茶をガラスコップに注いで綾崎くんのいるテーブルに置く。
 財布の中身とエコバッグを確認していると、綾崎くんは席から立ち上がってリビングから出て行った。

「……書き終わったのかな?」

 ぽつりと呟いてノートを見れば、嫌いな食べ物は少なかった。でも、チーズ類は嫌い……これは大丈夫だ。私もチーズは苦手だから。

「あー、でもグラタンは大丈夫かなぁ……て、大丈夫か」

 好きなものと嫌いなものの一番下に、今日食べたい夕飯を書いてくれていた。
 食べたい物は、グラタン。なら、表面のチーズは薄めにしないとね。

 食事に関しては嫌いなものに気を付ければ何とかなるとして……綾崎くん専用のコップや弁当箱も買わないと。
 今回は特に大荷物になるだろうけど、スーパーとの距離は近い方だから大丈夫のはず。
 洗っていたお風呂のボタンを押して、財布とエコバッグ、メモを持って家から出た。


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