▼ バレました
―SIDE:紅羽―
今日、俺の親友の若桜怜の様子がおかしかった。
怜は隠し事が上手いけど、隠しているものが近くにある時、どうしてもそれが気になって表情に出そうになる。
今回は特にそうだった。綾崎翼が中庭の奥にある噴水広場に来て弁当の話になると、どこか緊張していた。いつもなら表情に出さないのに、表情に出るほど。
今朝、たまたま綾崎と一緒に登校したと言ったけど、綾崎は気を許した親友以外の誰かと一緒に登校したがらない。特に女の子に対して不信感があるそうだ。
でも、俺が後ろから見た時はそんな感じがしなかった。むしろ気を許しているような雰囲気があって、怜と歩くペースを合わせていた。
下駄箱で別れたようだけど、偶然目撃した俺は怜に問い詰めた。その時は上手く隠されたけど……やっぱり引っかかった。
そして、その直感は正しかった。
俺の家族構成は父親と5歳上野兄と俺の三人家族。
母さんは、俺が物心ついた頃に事故で亡くなった。
あれ以来、父さんは仕事ばかりに精を出すようになり、俺と兄さんのことを疎かにした。
母さんを喪った悲しみから逃げるためだって兄さんから聞いた。
当時の兄さんは8歳だった。家事も何もかも大変だったのに、それでも俺を大切にしてくれた。だから兄さんは好きだし、心から慕っている。
そんな頃に怜と出会った。
怜は幼い頃から明るくて優しくて、気配り上手。人の感情の機微に敏感で、何かあったら心配して気遣う。初めて会った時は5歳だったのに、しっかりしていた。
俺と仲良くなってから、俺と兄さんを家に誘って一緒に食事をするようになった。
怜の両親も温かくて、すごく嬉しくて……怜を信頼するまでの時間はかからなかった。
そんな怜にも、時々暗い表情をする時があった。
怜の両親は共働きだから、幼稚園から帰る時は誰よりも後……最後の一人になってから迎えに来てくれていた。
休日も広い家の中に一人で過ごすことが多い。それでも怜は、その間に両親から出された課題をこなして吸収していた。
そうやって、寂しさを紛らわせていた。
小学生中期になってからは、怜の両親は国内出張に行くことが増えて、さらにひとりぼっちになった。
俺の父さんも夜遅くまで帰って、ほとんど顔を合わせない。けど、俺には兄さんがいる。
でも、怜には誰もいない。広くて冷たい家の中で、一人きり。
一度心配したことがあるけど、怜は大丈夫だと気丈に笑うばかり。時々遠くを見つめている時は、すごく寂しそうなのに……。
でも、怜は――
「可哀想って思わないでね。可哀想って同情は、時として人を傷つけるから」
その時から、怜は大人だった。
誰よりも達観して、孤独を受け入れて、脆くて……でも、強かった。
憧れた。怜のしなやかな強さと、優しさに。脆さも含めて、俺は怜を支えたいって思うようになって……いつしか互いに理解者になった。
だけど、今日の怜はおかしかった。何かあれば打ち明けてくれるのに……。
まあ、時々隠されたりするけど……それは大抵、自分で解決できるもので、俺を傷つけないためだから、まだ許せる。
でも、今回は違う。何か重大なことを隠しているように見えた。
帰宅した俺は普段着に着替えると、近くのスーパーへ行った。
来週は隠し事を聞き出そう。そう思いながら夕飯の買い物をしていると……。
「……え、怜?」
怜がスーパーにいた。いや、それはいい。よくスーパーでも会うし。
問題は、一緒にいる奴。
なんで綾崎翼といるんだ!?
「なんで……」
「それは俺も聞きたいところだ」
突如聞こえた覚えのある声。
背後に顔を向けると、そこには立花千迅がいた。
「うおわっむぐっ!」
叫びかけた俺の口を塞いだ立花が、商品棚の陰に隠れた。
「静かにしろ。バレたら終わりだぞ」
「むぐ、むぐむぐ」
腕を掴まれて引っ張られたのはいい。でも、立花に壁ドンされてるってどーゆーこと!?
必死に頷けば、立花はやっと口から手を離してくれた。
「な、何で君がここに……!?」
「見てわからないか?」
……買い物、だよな。
買い物籠には意外にも若鶏のモモ肉と香辛料などが入っていた。
「ソテーでも作るのか?」
「……そこまで気づくのか」
「俺も料理作るし……って、そうだ。怜と綾崎、何で一緒にいるんだ?」
商品棚の隙間から様子を窺う。
普通に買い物だと思うけど……それこそ何で綾崎と?
「買い物籠にある食材を見て、夕飯の買い出しだろう。それを推測すると、一緒に食べるのか、もしくは……」
「……同居とか言わないよな?」
頼む、間違いであってくれ……!
「お前も察しがいいな。おそらくそうだろう」
「な・ん・で!?」
「知るか。だからこそ尾行するんだ」
……なんか尾行って、悪いことをしている気がする。でも、怜のことが気になる……!
「……会計してくる」
「なら、俺も」
ごめん、怜。やっぱり俺、怜のことが知りたい。
だって、綾崎と同居なんて……認められるか!!
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