勝負と進展

 集団宿泊研修2日目。

 昨日は観光だったけど、今日は自由行動で、施設内を利用してもいいらしい。
 敷地内の中なら何でもいいらしいので、みんな朝からはしゃいでいる。
 しかも、この日は私服で過ごしてもいいことになっているので、みんな勝負服と言っていいくらいオシャレな服を着ている。

 私は普段から着ているシャツとジーンズとカーディガン、紅羽はワイシャツとダメージジーンズとジージャンで、着こなしてはいるけどオシャレとは言わない。
 でも、年頃の少年少女は違う。男子は女子の気を引きたいから。女子は男子の気を引きたいから。……下心見え見えでいいのかなぁ。

 ていうか、研修……の、はずだけど? 勉強じゃなくていいの?

 疑問に思ってしまったけど、先生方がいいのなら、と片付けた。

「今日は基本的に自由だが、ハメを外して、施設の方々に迷惑をかけないように。それと、今日の昼食は君達が作ることになっているから、きっちり時間を守って行動しろ。いいな?」

 体育会系の先生が釘を刺すように言って、「解散!」と告げる。

 一斉いっせいに好きな所へ行く生徒達を見送って、私と紅羽はパンフを見た。
 施設にあるのは、テニスコート、プール、バスケットコート、ボーリング場、映画館など。お金かけすぎだよね……。
 生徒数は去年と比べて多いらしいから、どこの施設も人で埋まっているようだ。
 私達は人が少ない場所に行きたいのに、これじゃあ無理そう……。

「テニスにするか」
「えっ?」

 未だ動いていない立花くんが言った。

「俺達、テニスしたことないよ」
「俺達が教えるから問題ないだろ。慣れたら勝負だ」

「「勝負?」」


 紅羽と声を揃えて首を傾げる。

「形式はダブルス。チームは千景と若桜、俺達。負けたチームは、勝ったチームの言うことを一つ聞くこと」

 ……ほとんど不利なような気がするけど……まぁ、教えてくれるなら大丈夫かな?

「紅羽、どうする?」
「……やる。面白そうじゃん」

 ニッと口角を上げる紅羽は意外と好戦的。
 立花くんは「決まりだな」と笑みを浮かべ、一緒にテニスコートがある施設に入った。



 施設の人が貸してくれた白いテニスウェアに着替え、私と紅羽は髪を一つに結び、空いているコートに行く。
 少しすると綾崎くんと立花くんが来た。

 ……二人とも背が高いし、何気に筋肉もついているから、黒いテニスウェアのおかげでより引き締まって見える。
 近くのコートにいる男子も女子も、二人に見とれてしまっている。女子に至っては目をハートにしているし……。

「まずはやり方の説明だな。翼は若桜を頼む」

 立花くんがそう言うと、紅羽にテニスを説明しだした。
 一緒じゃないんだね……。

 何となく立花くんの思惑がわかってきた。興味なさそうでいて、紅羽に興味を持ったみたいだ。

「若桜、ラケットはグリップの端を握る方がいい。付け根だと打ちにくいぞ」
「なるほど……」

 綾崎くんもいろいろと教えてくれて、ある程度わかってきた。卓球に似ているから、それを意識すればいいかも。
 サーブの打ち方やラリーを一通りして、いよいよ試合が始まった。

 最初のサーブは綾崎くんから。打たれたボールを私が打ち返し、立花くんが打ち返す。その鋭い打ち込みに驚いたけど、紅羽は慌てず打ち返した。
 私も紅羽もスポーツはできる。私は両親のこともあって護身術を習ったから、ある程度の力を持っている。
 一方、紅羽はいろんな部活の助っ人に参加していたから、普通の女の子より力が強い。

 打ち返されたことに立花くんが目を見張る。綾崎くんの方へボールが行くと、綾崎くんはスマッシュを打ってきた。私はそれをなんとか食い止めて打ち返したけど……腕が痛い。さすが男子って感じだ。
 立花くんがスマッシュを叩き込んで、まずは彼らのチームが得点を先取した。

 もう一度綾崎くんがサーブを打つ。今回は私も感覚がわかってきたので、強く打った。
 スマッシュでもないのに鋭い打ち込みが、綾崎くん達の間に入る。これで同点だ。

「さすが怜。もう掴んだんだな」
「なんとなくね。紅羽は?」
「俺も」

 紅羽もさすがだ。
 私達は一緒に組むと、必ずと言っていいほど勝っている。小学生の頃から、私と紅羽が組むと必ず勝つともうたわれている。
 体育の授業でも、勝負でも、今のところ無敗むはいだ。

「今回も無敗で行くぜ」
「了解♪」

 楽しそうな紅羽に笑い返し、手加減をしなくなった二人と接戦を繰り返した。

 そして――

「ナイススマッシュ、紅羽」
「怜こそ」

 ついに、私達のチームが勝った。
 笑い合ってハイタッチして、悔しそうな二人を見る。

「にしても、何でも一つ……かぁ。思い浮かばないな。怜は?」
「紅羽の場合、女物の服を一着作ってもらうとかは?」
「いや、それはもう約束してくれているし……」

 ……いつの間に。先週の日曜日にでも立花くんの家に行ったのかな?
「じゃあ私は……今週の日曜日、紅羽とカラオケに行くから。その日は自由ってことで」
「……いつもと変わらないな」
「じゃあ、何がいい?」

 綾崎くん達が勝ったら、なんて命令するつもりだったんだろう。
 ちょっと気になっていると、綾崎くんはそっぽを向いた。

「……名前呼びがいい」

 ……名前呼び? え、そんなのでいいのかな?
 でも……嬉しい。名前を呼び合うくらい気を許してくれているってことだから。

「じゃあ、私も名前呼びでいいよ」
「……ああ」

 穏やかに目を細める綾崎くん……じゃなくて、翼。
 笑みとは言えないけど穏やかな表情は、やっぱりカッコいいや。

「じゃあ、俺も名前呼び。千迅でいい?」
「いいぞ」

 悔しがっていた表情が一変して、少し嬉しそうな雰囲気になる立花くん。
 やっぱり彼、紅羽が好きなのかな……。

「そろそろ時間だ。戻るぞ」
「りょーかい」

 立花くんの号令で、私達はテニスコートから出た。


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