あなたのもの

「ん·····弔?あなたなの?」


うとうととベッドで眠っていた纒が足元に気配を感じて目を覚ますと、ベッドの端に彼女の恋人である弔が座っていた。
寝ぼけているのか、はたまた疲れているのか、その顔はぼんやりとして焦点が合っていないように見える。
·····しかし、それでも纒を見つめる目だけはギラついていた。
まるで子供が親に無言で何かをねだるように、じっと見つめてくる姿は不気味ですらある。


「おかえりなさい、弔·····外は寒かったでしょう?」


そんな視線を気にも止めずそう言うと、纒はベットから体を起こし、這うように弔に近づいた。
そのあと纒は、ひやりと外気に冷やされた弔の手を触る。
そして自分の肌に弔の五本の指がすべて触れないように、なおかつ自分の尖った爪で弔の肌を傷つけないよう慎重に優しく握り、その手を自分の頬に当て·····そのまま、すり寄った。


「·····うん」


そう小さく返事をすると、弔は纒をぎゅうっと強く抱きしめた。
·····それは親愛を示す抱擁というよりかは、強い執着を感じさせるものだったが。


「ちょっと、一体どうしたの弔?そんなに抱きしめられたら、少し苦しいわ·····」


纒はそう苦笑いしながら呟くも声色は優しく、ぽんぽんと子供をあやすように弔の背中を優しくたたく。
·····それがまた、弔にとっては嬉しかった。

彼女も心から弔を愛していて弔を求めている事が伝わるし、彼女は自分が求めれば愛情を与えてくれるし、自分の愛情を受け入れてくれてるんだと思うことができるからだ。


「(·····纒は、俺だけのものなんだ·····もう誰にも渡さない。)」

「(例え相手が先生でも、ヒーローでも、神様でも·····絶対に譲らない。)」



·····だからもっと、彼女の優しさや愛情といったものが欲しいと思ってしまうのだ。



「·····弔?」


自分に抱き着いたままで動かない弔を心配したような声で、纒はそう言った。
その言葉に弔はゆっくりとだが動き出し、そのまま纒の首筋に唇を当てると舌を出してぺろりと舐めた。


「ひゃっ!?」


纒は突然のことに驚いたのかビクッとした感覚があったが、嫌がっているわけではないようだ。
弔は「それならいいか」と思い、さらに続ける。首筋にちゅっちゅっと小さい音を立てながら、何度も吸い付いて跡をつけていく。
纒の首筋に赤い印が増えていくことで、弔の心が満たされるような気がして止められない。


「んっ·····もう、どうしたの·····?」


頬を赤らめながら纒がそう言うと、弔は纒の肩に顎を乗せてぽつりと小さく呟いた。


「·····纒は、俺のそばに居てくれるよな」

「あら·····寝起きに何を聞くのかと思えば。弔ったら、当たり前のことを聞くのね」


そう言うと纒は病的に白い弔の頬に自分の手を優しく添えた。


「·····あなたはそんな意味のない心配事を心配しなくたっていいの、安心してちょうだい。」

「私は·····禍津神 纒は、永遠に·····死柄木 弔、あなたのものよ。」


そう言うと、纒はニコリと笑って弔の荒れた唇に口付けを落とした。
バードキスのように優しく触れるようなキスだったが弔にはそれで十分だったようで、「嬉しいなぁ·····ずっと一緒に居られるんだよなぁあ·····」と少し口元に笑みを浮かべてそう言いながら、また彼女に抱きついた。


「(·····ああ、俺はなんて幸せ者なんだろう)」


やっと手に入れた宝物のように彼女を抱き寄せて、もう一度深く幸せを噛み締める。
·····それほどまでに彼女は、弔にとって特別な女性なのだ。

そしてしばらく纒の感触を堪能しているうちに、弔はだんだん眠たくなってきたらしい。
ウトウトし始めたと思った矢先に大きな欠伸をして目を擦り始めた。

その様子を見た瞬間に纒はクスッと笑みを浮かべると、弔の頭を撫でてから耳元へ顔を近づけ囁いた。


「ふふ、眠たいのね。じゃあ今日はこのままお休みしましょうか·····私が傍にいるから大丈夫よ。」


そう言ってよしよし、と背中をさすってあげると、弔は再び目を閉じてしまった。
その表情はとても穏やかであり、先程までとは大違いである。


「(あら·····今日は随分甘えん坊だと思ってたけど、そろそろ眠りそうね·····)」


纒は先ほどまでのいちゃいちゃで崩れた掛け布団を綺麗に直し、自分に未だに抱き着く弔に布団をかけてやる。
そしてとん、とんと子供を寝かしつけるように弔の背中を一定のリズムで叩き、口元に薄く笑みを浮かべた。


「(·····あなたがどうして急にあんな質問をしたのかは、私にはわからないわ。)」

「(でも、きっと何かしらあって心の中で不安になっていたんでしょうね·····ふふ、本当に可愛いひと。)」


村も親も、何もかも失ったあの日から、私はお父さんAFOと一緒にいても、生きる目的が見つからなくて、まるで生きた屍のようにしか生きられなかった。
·····だけど、お父さんが連れてきたあなたに出会ってから、私は生きる意味を見つけたのよ。

だから、私はあなたのために生きているから、あなたの傍から離れるはずがないのに·····などと思いつつ、それでも彼が少しでも元気になったなら良かったとも思うあたり、自分も相当弔を愛しているのだと改めて自覚する。


「お疲れ様·····あなたにどうか、良い夢を。」


そう言って額に触れる程度の軽い接吻をする。
それを合図にしたかのように、二人はゆっくりと眠りに落ちていった。








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弔も纒もお互いに相手を失うことを怖がり依存している二人。
こんな二人が大好きです。


20170611
20211110/加筆修正

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