人の恋路を邪魔する奴は石になれ!
·····切島鋭児郎は混乱していた。
いつも通り、昼休みに恋人である悟見と2人で一緒に過ごしていた時、別の学部の男子が近づいてきたかと思いきや·····
「見固利さん!!」
「は、はい·····?何の御用でしょうか·····?」
「好きです!!僕と付き合ってください!!」
「ええっ·····!?」
·····こともあろうにその生徒は、彼氏である切島が横にいるにも関わらず、悟見に告白したのである。
悟見もいきなりのことで驚きを隠せず、言葉を失っていた。しかし、そんな彼女の反応を見て彼は調子に乗ったのか、さらにこう続けた。
「あぁ、返事はいらないよ!だって君は僕のことが好きだろうからね!」
「なっ·····!?」
その発言を聞いた瞬間、切島は目の前の男に対して怒りを覚えた。
自分の彼女が自分以外の男に好意を寄せているはずがないと決めつけているような態度にも腹が立ち、つい声が出てしまった。
「おい、ちょっと待てよ·····!!」
「ん?」
「お前·····さっきから黙って聞いてりゃ、勝手なことばかり言いやがって!悟見ちゃんは俺の彼女なんだよ!」
「鋭児郎さん·····」
「·····なんだい君は、初対面の人に対して言葉遣いがなってないんじゃない?見固利さんみたいなお嬢様に、君みたいな粗暴な男は不釣り合いだよ」
その言葉に切島はますます頭に血が上り、今すぐにでも殴りかかりそうな勢いだった。
「粗暴な君のことだ、見固利さんを脅して恋仲になったんじゃないのかい?そんなのは恋仲とは言わないんだよ!」
「なんだとぉ·····!?」
「僕はこの子のことを本気で好きなんだ、だから邪魔しないでくれるかな?」
「ふざけるなッ!!!」
そう言って切島が拳を振り上げようとしたその時·····
「もう·····いい加減に、して下さいまし·····!!」
悟見のその言葉に2人は固まった。
·····精神的にも、物理的にも。
悟見は怒りに震えており、髪が全てまとまって無数の蛇になり·····いつもは絶対に見せないメデューサ状態になっていた。
そして2人の足元は石になっており、身動きが取れなくなっていたのだ。
「なっ·····!?体が動かない·····ッ!」
「悟見ちゃん·····!?」
2人はあまりの出来事に動揺する。
それを見た悟見は石化を一旦解除してから、そのまま話を続けた。
「·····あなたのお気持ちは嬉しいですが、私には切島鋭児郎という、素晴らしい方がもういらっしゃるんですの。それに·····私のこの個性を見ても、まだ私を好きだと言えまして?」
そう言うと、悟見の髪の蛇が一斉に男子の方を向いてシューシューと音を鳴らしながら威嚇した。
それを見た男子は腰が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまう。
「ひっ·····ひぃいっ!!ごめんなさい!悪かったよ!許してくれぇ!!」
そう言うと男子はばたばたとそこから逃げ出した。
その光景を見て切島は少しだけスッキリしたが、それでも完全に納得がいかなかった。
「(くそっ·····あの野郎のせいで、悟見ちゃんとの時間が台無しだぜ)」
そう考えていると、悟見の蛇が何匹か切島の方に向かって伸びてくる。
「お·····シャルロッテとマクシミリアンか。お前たちに会うのも久しぶりだな·····リリィもサリィもいるのか」
切島はそれを見て、悟見の髪の蛇の名前を呼びながら、頬や首元に擦り寄る蛇を指先で優しく撫でてやる。
すると蛇たちは嬉しそうに小さく鳴き声をあげていた。
「あら、みんなったら·····ごめんなさい、鋭児郎さん·····」
「いやいや、気にすんなって!」
悟見が申し訳なさそうな顔をしたので、切島はそれを励ますように頭をぽんぽん、と優しく叩いてやった。
すると悟見の表情は緩み、また笑顔を見せる。
「それにしても·····あいつも失礼な奴だよな!こんなに可愛い悟見ちゃん見て逃げ出すなんてよ!」
そう言うと、切島はメデューサ状態の悟見の頭を撫でてぎゅっと抱きしめた。
「·····ふふ、こんな私を可愛いと、好きだと言ってくれるのは·····鋭児郎さんだけですわ」
「当たり前だって!俺はどんな悟見ちゃんでも大好きなんだからな!」
「ありがとうございます、鋭児郎さん·····」
悟見は照れながらも幸せそうな笑みを浮かべると、彼女の蛇たちもシュルシュルとさらに伸びて切島に擦り寄ってきた。
「あー·····やっぱり俺の彼女は世界一かわいいなぁ·····蛇まで可愛いぜ·····」
「もう·····鋭児郎さんったら」
·····そう言いつつ、悟見は幸せを感じていたが、同時に切島のことを愛しく思っていた。
疎ましく思っていた個性まで愛してくれる彼のことを、悟見は心から好きになっていたのだ。
だからこそ、切島を貶された時にメデューサ状態になることも厭わなかった。
·····しかし、そんな悟見の気持ちとは裏腹に、彼は未だに不満げな様子を見せる。
「しかしよぉ·····さっきの野郎は悟見ちゃんの彼氏である俺の目の前で告白してきたんだぞ?俺の目の前で!俺の目の前で!!」
「·····まあまあ、落ち着いてくださいな、鋭児郎さん」
「これが落ち着けるかよ!悟見ちゃんが他の男に取られちまったかもしんねぇのによ!」
「もう·····そんなこと絶対にありませんわ。私はあなたの彼女ですもの」
「うぅ·····そうだけどよ·····」
「それに·····私、今は鋭児郎さん以外考えられないんですのよ?」
「えっ·····?」
「·····私は、鋭児郎さんのことが好きですの。誰よりも、何より好きなんですの」
「さ、悟見ちゃん·····」
「·····私にとって、鋭児郎さん以上の男性は存在しませんわ。あなたが私を愛してくれるのと同じくらい、私も鋭児郎さんのことが大好きなんですの」
「·····!!」
その言葉を聞いた瞬間、切島は胸の奥が熱くなって、悟見を力一杯に抱きしめた。
「ちょっ·····!鋭児郎さん!?」
「·····ああもう!悟見ちゃんはかわいすぎんだよ!可愛すぎてどうにかなりそうだぜ!俺も悟見ちゃんのことが世界で一番好きだ!いや、それ以上に好きだ!悟見ちゃんのいない人生なんて考えられねえ!悟見ちゃんは俺のものだ、誰にも渡さねぇ!」
その言葉に悟見はさらに顔を真っ赤にしてあわあわと狼狽える。
それを髪の蛇たちは、嬉しそうに見つめていた。
「は、恥ずかしいですわ·····!そんなこと言われたら、私·····恥ずかしくて死んでしまいそうですの·····!!」
「·····いーや、まだまだ足りねぇ!もっと言わせてくれ!悟見ちゃんが世界で1番好きだ!愛してる!!」
「あっ·····もう、もうもうもうもう!これ以上は、無理ですわぁ〜!!」
そう言うと悟見は赤くなった顔を隠すように切島の胸に顔を埋め、蛇たちもそれに続いて切島の周りに集まり始めた。
·····そんな光景を見ながら、切島は思った。
「(こんなに可愛い彼女がいて、俺は本当に幸せ者だな)」
切島は自分の腕の中で顔を赤くして縮こまってしまった彼女を見て、さらに愛おしさがこみ上げてきた。
「(悟見ちゃん·····これから先も、ずっと一緒にいような·····)」
そう思いながら、切島は悟見の背中に回した手に、ぎゅっと力を込め続けた。
―――――――――――
きりさとがてぇてぇ!!
悟見ちゃんはストレートな愛情表現に慣れてないのですぐ真っ赤になっちゃうのが·····可愛いんですよ·····
20220601
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