素直になぁれ
·····爆豪ととろみは、人前ではいわゆるケンカップルである。
常にそばに居るが一触即発状態であり、何かあればすぐ喧嘩が始まる。
しかし、2人の事情を知っているA組のクラスメイトは知っている。それは表面上だけの話であり、実際は相思相愛であることに。
·····でも、傍から見るとそうでもないらしい。
何も知らない人から見れば、お互いにわざと突っかかっているように見えてしまうのか、よくとろみと爆豪は事情を知らない人から陰口を叩かれていた。
·····まぁお互いにそんな事は気にせず、今日も仲良く喧嘩しているのだが。
「あーもう!勝己ってば信じらんない!!ほんっとありえない!!」
「んだとクソ女ァ!!!」
2人は教室を後にし、いつも通り喧嘩をしながら寮へ帰るために廊下を歩いていた。
·····その時、とろみに他の生徒がぶつかる。
「きゃっ!」
「あっ、ごめんなさい!」
その生徒は謝るとすぐ走ってどこかに行ってしまったが、とろみはすぐに体勢を整えた。
「もー、気をつけてよね·····」
「どんくせぇな」
「·····は!?」
とろみはいつものように爆豪に文句を言おうとしたが·····
「·····勝己ってば、いつもそういう言い方するけど、ほんとは心配してくれてるところが好き!(勝己のいつも可愛げない言い方するとこが、ほんと嫌い!!)」
悪態をつこうと思ったら、内心で思っていることがつい口に出てしまい、慌てて口を塞ぐ。
「は、え?なに、これ·····!?」
突然の事に頭が追いつかず混乱したとろみだったが、すぐに我に返った。
そして「何言ってんだこいつ」とでも言いたそうな爆豪の顔にムッとしたとろみは、また言い返そうと口を開く。
「·····勝己はカッコイイから、他の女の子に取られないかいつも心配なの!あたしだけに笑ってて欲しいんだから!(なに苦虫噛み潰したような顔でこっち見てんのよ!もっとまともな顔できないの!?)」
再び自分の意思とは反対に口から出てしまった言葉を聞いたとろみの頬は赤く染まり、先程よりも更に混乱していた。
何故か自分の本音が次々に出てきてしまっている状況に追いつけず唖然としたままのとろみに、爆豪が声をかける。
「·····どうしたんだ、テメェ」
「は?え?·····あたしにも、わかんない·····」
「·····あ」
爆豪は何か思いついたようで少し考える仕草を見せた後、「·····個性事故だな」と言った。
「テメェ、個性をかけられたんだろ」
「·····はい?」
爆豪の言葉の意味を理解しようと必死になったとろみは、先程ぶつかった生徒のことを思い出す。
「!」
「心当たりあんのか」
「さっきぶつかった、あの子かも·····!」
「やっぱりか」
「たぶんだけど·····ぶつかったときに発動したのかも·····」
はー、と溜息をつきながら頭を抱えるとろみを見て爆豪は言った。
「おい、解除する方法探すぞ」
「·····絶対ヤだ!!他の女の子に勝己を会わせたくない!!(そうね!急いで探しに行かなきゃ·····!!)」
また出た本音に、とろみは急いで口を塞ぐ。
それを見た爆豪はニヤッと笑い、「気が変わった」と言いながら、未だに口を塞いでいるとろみを俵抱きにして歩き始めた。
「·····ちょっ、待って!どこ行く気よ!!」
「こんだけ素直なテメェは珍しいからな、テメェの望み通りにしてやらァ」
「ひぇっ」
とろみの悲鳴が聞こえたが、気にせず進む爆豪。
「ちょっと!下ろしてってば!!」
「うっせぇ黙れ」
·····そしてあれよあれよと言う間に、とろみは爆豪の部屋まで連れて来られたのである。
ドサッとベッドの上に放り投げられたとろみは、顔を真っ赤にしながらキッと睨む。
「·····いったぁ·····乱暴すぎ!女の子の扱い方知らないの!?」
「あ"ァ!?」
ギロッと爆豪に睨まれたとろみは、思わず口を手で覆った。
「·····なにしとンだお前」
「べ、別に·····」
その返答に笑った爆豪を見ると同時に、自分の身に起きている出来事を思い出したとろみは、顔面を蒼白にする。
「ああああもういい!!自分であの子探して個性の解き方聞くから!!!だから早く帰らせて!!」
「·····なんでだよ?」
「なんでって·····あ、あたしが勝己に抱いてる気持ち、絶対重いからアンタに知られたくないの!!アンタに嫌われたくないから·····っ!!(こんな個性かけられてんのに、勝己と一緒に居るなんて時間の無駄だし!)」
また出た本音に、とろみは顔を真っ赤にして「もうやだぁあ·····」と言いながらベッドの上にうつ伏せでうずくまってしまった。
そのままヤケクソになってしまったのか、顔をベッドに埋めたままでぐすぐすと鼻声になりながら話を続ける。
「ぐすっ·····あたし、アンタの事誰よりも1番好きだから·····他の女の子見て欲しくないとか、いつも一緒に居たいとか考えちゃってさ·····」
時折すん、と鼻を鳴らしながら話すとろみの話を爆豪は静かに聞いていた。
「·····タダでさえあたしは素直になれなくてアンタと喧嘩ばっかなのに、そんなことばっか考えてるの分かったら、勝己にウザがられそうで·····それは、死ぬほどヤだったから·····」
次第に感情が高ぶってきたのか、ぐすぐすと鼻をすするペースが早くなっていく。
「勝己だけなんだもん·····役立たずだって、出来損ないって言われてたあたしのこと·····好きって、愛してるって言ってくれたの·····っ!」
とろみは涙混じりの声で言うと、今度は勢いよく起き上がってスライム体でベッドを滑るように動き、爆豪の目の前に立った。
「·····この個性のせいで今更だけど!それでもやっぱりちゃんと言っておきたいの!ありがとう、大好きなの·····って!ちゃんと聞きなさいよね、この爆発魔!!ばーかばーか!!」
本音を言い終わると個性の効果が切れたのか、とろみの言葉はいつも通りに戻っていた。
「·····はぁ、やっと言えた·····」
と、ほっとした様子を見せるとろみを、爆豪が前からぎゅうっ、と強く抱きしめた。
「!?」
爆豪の行動にとろみは驚きすぎたのか、固まってしまう。
「かつ、き·····?」
「·····テメェ、アホだな」
「なっ!?」
「俺がどんだけ我慢してきたと思ってんだ?他の女に目もくれず、テメェだけを想ってきてやってんのが分からねぇとかバカなのか」
「え、それってどういう·····」
「·····テメェに惚れてるから、他の女のとこには行かねェつっとんだ」
爆豪の衝撃的な告白に、とろみは耳まで赤くなってフリーズする。
「おい、何とか言えよ」
「は、え·····む、無理無理·····恥ずかしすぎて死んじゃう····!」
「·····チッ、いつもの調子はどうしたんだよ」
爆豪に指摘され、顔を背けたとろみはぽつりと呟く。
「·····いつものあたしは、素直になれなくて憎まれ口言っちゃうだけだもん·····本当のあたしは、勝己のことが大好きで仕方がないのに·····」
「なら、今は素直な本音を言ってみろよ。本当のとこは、どっちなンだ?」
優しく尋ねる爆豪に、とろみは再び口を開いた。
「·····勝己、だいすき」
「おう」
「ずっと隣にいて欲しい」
「当たり前だろうが」
「他の女の子見ないで欲しい·····あたしだけを見てて欲しい」
「見とンだろ」
「あたしだけのものになってほしい」
「俺はとっくにテメェのモンだわ」
「·····ほんとう?」
「あ?」
「本当に勝己は、あたしのもの·····?」
不安そうな顔をしながら見つめてくるとろみを見て、爆豪は大きく溜息をつく。
そして彼女の腰を抱いて自分の膝の上に座らせた後、強く抱き締めながら言った。
「そうだっつってんだろォが。誰が離すかバーカ」
「っ!」
爆豪の言葉を聞いたとろみは安心したのか、ふにゃりと顔を綻ばせながらすり、と爆豪の胸に頬を擦り寄せる。
先程の心配事が消えたせいか、普段よりも甘えるような仕草をする彼女に、爆豪は「チッ·····かァわいいなァおい」と思いっきりニヤける表情を隠すようにしながら思ったことを口に出す。
それに気付いたとろみは慌てて「こ、個性解けたし自室に帰るね!!じゃあそういうことで!!」とスライム体を滑らせて逃げようとしたが、爆豪は「逃がすか」と素早くスライム体を掴んで引き寄せて、とろみを自身の腕の中に閉じ込めてしまった。
「わ、やっ、ちょっと!離してよー!!」
「やなこった」
「せっかくあの厄介な個性の効果が無くなったのに!なんでこうなるわけ!?」
じたばた暴れる彼女を押さえつけながら、爆豪は言う。
「クソモブの個性なんか無くても、たまに素直になればいいだろ」
「むりむり!恥ずかしいし!!」
「あァ?」
ギロッと睨まれたとろみは、大人しく抵抗を諦めて爆豪の腕の中で縮こまってしまう。
「うぅ·····でも、たまに、なら·····勝己だって、毎日だとウザいでしょ」
「·····アホ、2人きりの時くらい素直になれや」
「っ〜!!」
珍しく優しい声で、とろみを落ち着かせるように触れる爆豪に、彼女は更に赤面してしまう。
「(·····やっぱり敵わないなぁ)」
そう思いつつも、とろみは嬉しさでいっぱいになりながらも、そっと爆豪の背中に手を伸ばして抱きついたのであった。
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1度は個性事故ネタをやりたかった!!
20220707
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