何も感じぬ肌に触れる

「·····なァあおぎ·····俺の肌、何も感じねぇんだ」

「お前の肌の感覚も、温もりも、触れているって感触さえも、この焼け焦げた肌では感じねェ」


荼毘はそう言うと、あおぎを抱き寄せて縋るように強く強く抱きしめた。

あおぎはその言葉と珍しく弱気な様子の彼に少しだけ眉を下げると、その背中に優しく腕を回す。
それに荼毘はさらにあおぎを強く抱き寄せて、目から涙の代わりに青い炎を揺らめかせた。


「あぁ、泣かないで·····私は、ここにいるでしょう?」


それを見たあおぎはゆっくりと荼毘の頬を撫でて顔を寄せ、目尻にふっと軽く息を吹きかけて涙の代わりの青い炎を消した。


「·····大丈夫よ、荼毘」


あおぎは荼毘を宥めるように一言だけそう言うと、今度は荼毘を正面から見つめる。
そして、彼の頭を抱え込むようにして抱きしめると、そのまま髪を動かしてするりとハイロングのポニーテールの先を荼毘の体に巻き付けて、まるで絶対に離れたりしない、と伝えるかのようにしっかりと絡め合わせる。
すると荼毘はすぐにその行動の意図に気付いたらしく、目を細めて微笑むと、そのポニーテールに指先を通して優しく掴む。


「お前はどこにも行かせねェし、誰にもやらねェよ·····なぁ、そうだろ?あおぎ」


あおぎはその言葉に、自分のポニーテールを掴んでいる荼毘の手に触れると、その手をそっと握り締めて応える。
そのまま小さく笑みを浮かべながら空いている方の手を伸ばすと、再び彼の頬に触れた。


「ふふっ·····当たり前じゃない、私は死ぬまで荼毘のそばにいて、死んだらあなたの個性で塵まで残らず焼かれるって決めてるの」

「·····ハハッ!そりゃいいな·····一生一緒、死んでも逃がしてやらねェ!!」


お互いに瞳の中に愛しい人の姿だけを映す2人はクスッと笑うと、どちらからともなく顔を近づけていき、お互いの後頭部に反対の腕を回して抱き寄せる。
額が重なり合うほど近くで視線を交えさせると、そのまま唇を重ね合わせた。今までで一番深い口づけを交わした後、唇を離すと荼毘は名残惜しげにあおぎを見つめる。


「·····あおぎ」

「んー·····どうしたの?」

「もう1回キスしろよ」

「えぇ·····また?今日は本当に甘えん坊なのね」

「頼むぜ、俺はお前のいない世界じゃ生きてけねぇんだからよォ····」


わざと甘えるように言う荼毘に対してあおぎは仕方ないといった様子でため息をつくと、彼の首の後ろに腕を回し、再度顔を寄せていく。
そして先程よりも短い時間ではあったが、それでも深く長い口付けを交わすと、荼毘に回していた腕を解くと、苦笑いしながら口を開いた。


「これで満足かしら、私の可愛いひと」

「·····あァ、最高だ」


荼毘の言葉を聞いたあおぎは幸せそうに微笑むと、彼の胸元に手を置くとその心臓部分辺りに顔を埋める。
そしてどこか安心したような表情で頬を緩ませると、目蓋を閉じた。

荼毘はそれに満足そうな笑みを浮かべると、あおぎの背中にあるコルセットピアスのリボンを器用に片手の指先でしゅる、と簡単に解く。


「きゃっ!やだ、ちょっと·····!」


それに気づいたあおぎの制止を無視して、さらにコルセットピアスを形作っているセグメントクリッカーのピアスを1つずつ背中のピアスホールから外していく。


「もう·····!これ1人じゃ出来ないのよ·····!せっかく今日の朝、ハヅネが綺麗にしてくれたのに·····!!」

「セックスする時には邪魔だろ、後で俺が直してやるから」

「そういう問題じゃ·····あぁもう·····んっ!」


背中のピアスホールからゆっくりピアスが抜かれる度に、あおぎの身体には甘い痺れのような感覚が走り抜け、思わず声が出てしまう。
その反応を見て楽しげにしている荼毘だったが、やがて全てのピアスを抜き終わると、あおぎの腰を抱き寄せて自分の膝の上に座らせた。
そしてすぐにあおぎの顎を掴むと、軽く上を向かせる。


「あぁ····やっぱりお前の肌は白くてキメ細かいなァ·····俺とは大違いだ」


荼毘はそう言いながら、あおぎの頬を撫でる。
あおぎはその手の動きに心地良さげに目を細めると、継ぎ接ぎの荼毘の手に自身の手を添えた。


「ふふ、ありがとう·····でも、私は荼毘に触れられるのも、抱きしめられるのも大好きよ」

「········」


荼毘は無言のままあおぎの顔をじっと見つめると、その唇に優しく口付ける。
すると、あおぎは嬉しそうに微笑んで、荼毘の首に腕を回すと自分からも口付けた。


「んっ········荼毘、好きよ·····愛してるわ」

「········あおぎ」


あおぎは荼毘に抱きつくと、またその胸に耳を当てて彼の鼓動を聞く。
その音を聞いているだけであおぎの心は満たされていき、自然と頬は緩んだ。


「········」

「········」


しばらく無言の時間が流れる。
·····しかし、それは気まずい沈黙ではなく、お互いの存在を感じ合っているかのような静寂だった。
そして、その時間は荼毘によって終わりを迎える。


「········なぁ、あおぎ」

「········なぁに?」


あおぎは荼毘の声色が変わった事に気づくと、ゆっくりと彼の方を見る。
荼毘は少しだけ眉を下げながら、それでも真剣な眼差しであおぎを見据えていた。

そして、あおぎの瞳を覗き込むように顔を近づけると、そっと口を開く。


「こんな事言うのは俺らしくねぇが·····俺はあおぎがいなくなったら、生きていけねェよ。あおぎがいなきゃ、呼吸もできねぇ」

「······」

「なぁ、あおぎ。俺を置いていかないでくれ·····頼むから、死ぬ時は一緒だ。俺が死ぬ時に、一緒に燃え尽きて消えてくれ」

「ふふっ······えぇ、約束する」


その返答に荼毘は口角を上げ、そのままあおぎの身体をベッドに押し倒すと、あおぎの両手首を掴んでシーツに縫いつける。
あおぎは抵抗することなく、にこっと緩く微笑んで荼毘を見つめた。


「あおぎ·····」

「ふふっ·····そんなに焦らないで、私は死ぬまであなたのそばに居るって言ったでしょう?」

「·····あァ、そうだな。悪い」

「いいのよ、私だってあなたと同じ気持ちだもの」


荼毘はその言葉に一瞬目を丸くした後、同じように笑みを返すとあおぎの唇に口付けを落とした。


「んっ·····ふふっ、荼毘ったら今日は本当に甘えん坊ね。こんな姿、ハヅネやトガちゃんには見せられないわ」

「ハハハッ!確かにな!あいつらに見られたら、一生ネタにされるぜ」


荼毘はあおぎの言葉に楽しげに笑うと、あおぎの手首を掴んでいた手を離す。
そして、あおぎをぎゅっと強く抱き締めると、そのままあおぎの肩口に顔を埋めて口を開いた。


「やっぱり、触れても感じねぇ部分の方が多いな·····」

「あら·····少しでも触れられていることが分かる部分があれば、それでいいじゃない。感じることが出来なくても、こうして私たちが触れ合っているのは、本当の事だもの」

「·····こんな男に惚れられて、お前も可哀想な女だな」

「あら、私は幸せよ?でなければ本当の名前を捨ててまで、あなたのそばにいるなんてしない」

「········」

「それに、私はあなたのそばに居たかったから、今はとても幸せなの。だから、後悔はしていないわ」


あおぎはそう言うと、荼毘の頭をそっと撫でる。


「大好きな妹と、愛している人がそばに居てくれるんだもの。これ以上望んだら強欲すぎると思わない?」

「······そうだな」


荼毘はあおぎの言葉に小さく笑うと、あおぎの唇に口付けを落とす。

「んっ·····」

「愛してるぜ、あおぎ。俺はお前がいれば、他には何も要らねェよ」

「ふふ、嬉しい」


あおぎの言葉に荼毘はもう一度あおぎの額にキスを落としてから、あおぎのドレスに手をかける。
あおぎはそれに特に抵抗する事なく、むしろ期待するように荼毘の頬を優しく撫でた。

そしてそのまま荼毘とあおぎは、誰にも邪魔することの出来ない2人きりの世界を堪能するのであった。



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とりあえずこの二人には幸せになってほしいと願ってやまない。

20220728

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