アップルパイ


 紅葉は上機嫌に林檎の皮を剥いていた。近所の人からたくさんもらったんだよ、と笑う紅葉に獅子劫はそうか、と適当に返しながら煙草を吹かせる。きっと、今日の三時のおやつはアップルパイか、と獅子劫界離は静かに思った。
「好き?」
「――お前の作ったやつは好きだな」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ、ジャムも作っちゃお」
「明日の朝ごはんだな」
「ふふ」
 他愛のない会話だ。紅葉が林檎を剥いていくのを眺めながら、獅子劫は穏やかな昼下がりを歓迎した。皮はアップルティーにするのよ、と楽しげにいう紅葉にそうか、といいつつ口を開けると、一切れだけだからね、とアップルパイ用の林檎が口に放り込まれた。しゃく、と噛み砕いて、思い切り顔をしかめた。
「すっぱっ!?」
「いや、だって、それ用の林檎だもん。酸っぱいよ」
 紅葉は笑った。
 火を通して甘くなるようにするための林檎なのだから、酸っぱくていいのに、と紅葉も一口ぱくり、と食べた。んー、酸っぱい、と顔をしかめる。

 三時になり、たっぷりと林檎の入った大きなアップルパイが獅子劫界離の前に差し出されると穏やかな午後のティータイムが始まった。

ALICE+