その声は
きっと、私はその声に引き寄せられるように振り返ったんだ。
学生の頃から、よく聞く声だった。
食堂で、廊下で、賑やかしの声を放つ彼はいつも誰かに囲まれていて、一人で居ることはなかった。
(ああ、私とは真逆の人)
名前を聞いたら「ひざし」というらしい。
まるで、ひだまりのような、そんな彼。
ヒーロー科の彼。
普通科の――ヴィラン――の私。
もしも真正面を見て出会うとするなら、それは敵なのでしょう。
でも、少しだけ思ってしまった。
「貴方に捕まるのなら悪くはないって」
握ったマグカップの中には真っ黒なブラックコーヒー。寝る前に飲むもんじゃないぜ、とミルクを用意している成長した彼の背中に向けてそう言い放つ。
ゆっくりと振り返って、悲しそうに笑ったひざしが思った通りの暖かさで私を包み込む。
「Honey」
私を呼ぶ声が心地よくて。
あなたは、きっと、名前の通りのひざしの人。
光から遠ざかって歩いた私の光。
もしも、私に人並みに幸せを望むことができるのなら――
この人の傍で眠りにつきたいと思うの。