その罪も過ちも
たとえ。
たとえ。
貴方が世界にとっての毒になるとするなら――私は。
「そうか、安心したよ」
紅茶の入ったカップを手に持ちながら私は彼女の決意を聞き届けた。
幼い頃から共にいてくれた最愛の人。
いつの間にか、私は宰相。彼女は英雄騎士。
守られるもの――守るもの。
子供の頃のようなじゃれ合いが許されなくなった立場に私はふと笑みをこぼした。
「アスナ」
名前を呼べば、彼女は給仕の手を止めて顔を上げた。
笑って見せれば、アスナは目をぱちぱちとさせた。
「君が私に剣を向けるその日が来ないことを願っているよ」
その願いは果たされない。
知っている。
君は騎士だ。正しい皇帝のための騎士。
世界のすべてを人質に取る私のやり方を君は決して認めないだろう。
(たったひとり)
私が初めて欲したのはたったひとりの女の子だったのに。
もう、私のこの手は君に届かないんだね。
「違うよ、違うの、シュナ」
私は世界なんていらない。
私は貴方だけいればよかった。
私は貴方に王になんてなってほしくなかった。
「私には貴方だけだったのに――」
その貴方が私から貴方を奪った。