変えられない運命を呪う
「あんたは世界が嫌いなのか」
そういう坊やの言葉に少しばかり驚いて薬を調合する手を止めた。
難しい薬品でなくてよかった、と思い、すりこぎを置いて振り返ってみると我が物顔で居座る別の船の剣士に年長者として苦言を呈することにした。
「とりあえずは起き上がったらどうだ」
坊やは上半身裸だった。
左肩から胴を割るように入った傷を少しばかり確認させてもらった後ということもあるが、いつまでも上をまとわないのはいかがなものか。
「あんただって、部屋だったらそうだろう」
「あいにくとここは診療室でね。患者が来ることもある」
薬品の扱いも多いから、服は着なさいといえば、彼はようやく自らの服に手を伸ばした。
んで、と振り返りざまに冒頭の質問を再度されたわけだが。
「俺が世界を嫌っているように見えたのか?」
質問には質問をぶつけてみることにした。
十九の時分の彼であったなら、不機嫌を明確にしたことだろう。
しかし、あれから二年成長したらしい彼はそれも気にすることすら無く、平然としていた。
「世捨て人だろ、あんた」
「なるほど、最強の剣士を目指している君にそう言われるとはな……」
言うようになったな、と思いながら俺は足を組み替えた。
「世界は確かに嫌いだな」
坊やは意外な顔をした。
「だが、私以上に世界を愛している竜もいないだろう」
わけの分からないことを、という言葉が顔に張り付いている坊やにくつくつと笑う。
どういう意味だよ、と背中から声をかけてくる彼は無視して、手が止まっていた薬品の調合を始める。
私が世界を愛さない理由がないのだ。
私が世界を嫌うわけが確かにあるのだ。
(我ながらなんとめんどくさい)
世界は私に坊やと出会わせてくれた。
しかし、世界はいずれ、私から坊やを奪ってゆくのだろう。
変えられない。
種族の差は、永劫、私に世界を嫌わせる理由になるのだ。