レモネード・ドロップ


 静かだな、と思ってみれば、ソファで部屋の主――アスナが眠っていた。
 ソファの上に丸まるようにして眠っている彼女は制服のままで、どうやら仕事をしていてちょっと休憩と思ってソファに横になったところで熟睡してしまったのだろう、と俺は予測をたてて、ブランケットを探した。
 丁度近くにあったそれをアスナの上にかけると、少しばかり身じろぎした。
「……ん」
「もう少し、寝ていてもいいぞ」
 そういって頭を撫でると、むにゃ、と寝言をたてて再びアスナが動かなくなった。
 疲れているのだろう。
 月から戻ってきてからは仕事に明け暮れていたし――と思って、俺は久しぶりにアスナに触れたことを思い出した。
 まるで避けられていたようだ。
 自分も仕事をしていて忘れていたが――そういえば、ここ数日アスナにまともに触れていない。
「……負い目があるのか」
 何も言わずにいなくなったことに。
 レンには言い残していたが、恋人である自分には何も言ってくれなかったことに思うところがないかと言われればたしかに嘘になるが。
「それよりも、俺はお前が戻ってきてくれて嬉しいんだが」
 あのまま、ずっと戻ってこないのかと思った。
 二度と、お前に会えないのではないかと不安になった。
 少し癖のある赤い髪をなでて、その額にキスをする。
「……起きたら、たっぷりとかまってやろう」
 それまでは少しだけ散らかっているこの部屋を片付けようか、と腰を上げたところで、ふと気づいた。

「……起きてるな?」

 耳が真っ赤な狸寝入りのアスナがいた。
 まったく、困ったやつだと溜息をつくと、おずおずと目を開けてブランケットで少しだけ顔を隠すようにしながら見上げてくる。
「…………えっと」
 少し困ったような声。
「予告通りに、かまってやる。何がしたい?」
「え、えっと、え?」
 突然のことに追いついていないのだろう、アスナは混乱しているようだ。
 そんなアスナの手を引いて、起き上がらせるととりあえず、着替えてこいと言った。
「……?」
「制服のままじゃデートも行けないぞ」
「あ……」
 アスナは思い至ったのか、笑顔になって、慌てて部屋に向かっていった。
「待っててね!」
「もちろん」
 アスナが眠っていたソファに腰掛けて、手を振る。
 ぱたぱたと走っていくアスナの足音を聞きながら、ふと笑った。
 さて、どうやって楽しませようか、と考えるのは少しばかり胸がはずんだ。

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