アナタは夢
白い光と黒い闇の相反する性質を持ったこの神殿で彼女は目を瞑っていた。
ザビーダが数百年ぶりに足を運んでみれば、彼女は最後に見たあの日と変わることなく静かに眠るようにその聖座に腰掛けていた。二柱神の片割れ、光と朝を司る聖主。
「アスナ」
声をかければ、彼女は漸く目を開けた。
紅玉と黄金の瞳がザビーダを見つけると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
おいでおいで、と手招きされ、ザビーダはアスナへと近づいた。
――まるで、夢のように、彼女の姿は消えた。
「どこに行ったんだよ……」
彼女がここから消えるなど有り得ないと思っていた。これからも、彼女はここから祈っていると思っていたのに彼女の姿は消えた。ここの加護は消えていないのに、彼女の姿だけが消えて、力の痕跡すら消えてしまっているではないか。
世界に大きく異変がある。
まさか、まさか、と悪い予感ばかりがザビーダの心をよぎってならない。
空の聖座に――彼女の幻想が見えた気がした。