緩やかに消えていく昼下がり
「ずっとこんな平和が続けばいいのに」
ふと顔を上げると紅葉が柔らかく微笑んでそういった。俺が認識するよりもずっと早く、紅葉は何かを察したように淡く微笑むと明るいほうが好きだと取り付けたリビングの窓から差し込む光に向かって洗濯を終えた真っ白なタオルを少しだけかざした。
――そうか、平和か。
俺が小さく呟くと、紅葉はなお一層柔らかな声で、そう、平和よ、といった。
「今日の晩御飯は何がいいかな」
「……そうだな、和食が食べてぇな」
「ああ、いいね。魚の煮つけなんていいかもしれないわ。あとで買いに行きましょう?」
二人でか?
そう、二人でよ。
「……怖がられそうだけどね、あなた」
私は好きよ。こういう、何にもない日。
そういった紅葉の柔らかな緑色の瞳を――俺は、忘れられない気がした。