あなたへ捧げた恋文



 ――親愛なる私の騎士にして、愛する人。アスナ・シュヘン・ガル・クラウン様へ。
 貴方の名前を口にする時私がどれだけ心が震えているか、きっと貴方は知らないのでしょう。貴方のいない日は雨の音に、朝の気配に、花の匂いに貴方を思い出して、泣きたくなるような夜を過ごすのです。
 私のこの思いは長い時間をかけて育てられ、培われ、募ってゆくばかりだ。ふと、空を見上げた時に貴方の声を思い出す。どうか、この思いが、貴方の心へと届きますように。
 貴方の白い薔薇 シュナイゼル・エル・ブリタニアより――


 その手紙が届いた時、多分誰から届いた恋の手紙よりもずっと、ずっと嬉しかったことを思い出す。差し出された封筒に押された封蝋の家紋に誰よりも心を踊らせて、誰よりも期待して、そして思い出すのです。私にはこの手紙を受取る資格が無いのだと。
 アスナは真っ白な封筒と真っ白な便箋を前にして窓の外を見た。離宮の外にはうららかな自然が広がっていく。窓を開け放てば風が入り込んで、萌える草木の匂いを運んできた。長らく二人で過ごしてきた時を見守ってきたその自然の香りの中にふと、嗅ぎ慣れた菫の――特別な香水の匂いを感じた。手紙からふと香るそれに、あの人を思い出して、アスナはぎゅうと其れを抱きしめた。
 もしも、もしも、この思いが許されるのなら。などと期待して、しかし、その思いは別の誓いに塗り替えられていく。ずうっと昔の誓い。まだ、お互いが幼かった頃、アスナがシュナイゼルに誓った幼い子供の言葉。シュナイゼルはきっと忘れてしまっているかもしれないけれど。アスナにはとても重たい言葉だったのだ。


 ――親愛なる私の白薔薇 シュナイゼル・エル・ブリタニア様へ――


 アスナ・シュヘン・ガル・クラウンは二十七歳になる女性騎士である。
 神聖ブリタニア帝国において騎士の職業は男性の職業ではなく、実力さえ認められれば女性でも騎士侯の立場につくことができる。平民、貴族問わず多くのものがブリタニア皇族を守る騎士の役職に憧れ、軍学校や騎士の養成校にて訓練を続けている毎日だ。
 アスナは本来なら騎士になる必要のない、守られる側の立場であるはずだった。
 クラウン家はブリタニア皇族との血縁を持つ由緒正しい大公爵の位を持つ貴族であった。その住まいはブリタニア皇宮の敷地内に専用に設えられたリブル(天秤宮)離宮と呼ばれる広大な城に住んでいるお姫様であったのだ。特にアスナはシャルル皇帝陛下の姪、すなわち次期の皇帝になるであろう皇子・皇女たちの従兄妹になる。
 彼女は幼い頃からこのブリタニア皇宮の中で生きてきた。
 華やかに見えるブリタニアの皇族たちは決して華やかなだけでは生きていけない。第一皇子オデュッセウスは皇帝陛下にはあまり似ず、平凡で凡庸な人物であったがその次の次、第三子として生を受けたシュナイゼルは幼い頃からその利発さを発揮させた。
 年が同じだったということもあってか、アスナはシュナイゼルの遊び相手として指名された。おそらくは、同い年で女であったコーネリアの元へ遊び相手として出向かされるかと思っていた三才の春。皇宮の庭にはたくさんのラナンキュラスの花が咲き乱れ、たくさんの香りに包まれ、その少年は佇んでいた。
「初めまして、シュナイゼル・エル・ブリタニアです」
 その日、アスナは恋に落ちたのだ。
 美しく柔らかなブロンズの髪は緩やかなウェーブがかかっていて、ほのかな風に揺られていた。ブリタニア皇族に出やすいアメジストの瞳はロイヤルパープルと呼ばれ、シュナイゼルも例に漏れず美しい宝石のような紫色の瞳をしていた。差し出された美しい白磁器のような手をつかむことができず、当時、大公爵であった父の足元に隠れてしまったのをアスナは忘れられずにいる。
 ――彼は美しかった。
 まるで絵画から出てきたような美しさに圧倒されたとも言える。まるでガゼボを囲む白薔薇のように美しいその人をアスナは血流の本能だったのか守りたい、強く思ったのだ。
 そう。
 彼女が現在の騎士の道を歩むことになったその全ては――第二皇子シュナイゼルである。


 紅い髪は美しい光沢を放つ金の細工飾りで飾られ、高い位置で結い上げられていた。彼女が歩く度に揺れてまるで燃えている炎を思わせる――そんな紅である。強い意思の込められた青と碧の瞳は廊下の先を見つめており、皇宮の中の大理石の廊下を戦うダークブラウンのブーツが勢い良くカツカツと音を立てる。その剣幕といったら美しい整った顔立ちを台無しにしているのではないか、と廊下ですれ違う騎士や貴族たちが一様に思い、彼女へ道を譲った。さながらモーセが海を割って歩いたときのように二つに割れる人々には目もくれず、アスナ大公爵は一つの部屋を目指して歩いていた。そんな彼女の黒い手袋に包まれた手には新聞が強く握り込まれている。ちなみに今朝の朝刊であるが、グシャリと握り込まれているそれから内容を読み取るのは少しばかり難しい。
 彼女は明確に苛立っていた。
 その苛立ちの原因が何であるか、すれ違う貴族たちは分かっているかのように肩を竦め、一様に彼女へ視線を向けてはすぐにそらした。このブリタニア皇宮では少しばかり見慣れた、あまりにも非日常な日常。それがアスナ大公爵の――第二皇子シュナイゼルへの上奏である。

「シュナイゼル殿下!!」

 ノックもなく、アスナはこの国の宰相であるシュナイゼルの書斎のドアを開け放った。本来なら不敬罪どころでは済まない大騒ぎだが――シュナイゼルが抱える文官たちはアスナを留める真似もせず、怒ることもせず(といっても彼女の立場は皇族に准する立場であるため、文官如きには意見すること其れこそ不敬罪で処罰されても仕方のないことだったが)見守った。ああ、今日もいらっしゃったのだな――と互いに隣へ視線やりあって、困った顔で笑った。
 部屋の主であるシュナイゼルは来ることがわかっていたのにも関わらず、いつものような柔和な笑みを浮かべ、何事かな、と鷹揚にアスナを迎え入れた。その鷹揚さが逆にアスナの気に障ったらしい。アスナはシュナイゼルの言葉には答えることなくヒールを鳴らしてシュナイゼルが使う豪奢な執務机の前まで歩み寄るとその机を容赦なく叩きつけた。
「殿下、近頃は中華連邦ともEUとも摩擦が少なく落ち着いているからお暇なのでしょう。ええ、わかりますとも。私も、ラウンズもここ最近は陛下から出撃の命令もなく、テロも大きな動きがありませんから毎日シュミレーターでばかり、仮想敵と戦ってばかりで退屈ですとも。ええ、ええ、わかりますとも」
 アスナはまくし立てるように大げさに話を続けた。
「だからといって、このようなお遊びに私を付き合わせるのはいい加減おやめくださいませ」
 新聞と封が切られた手紙を机に叩きつけるように置いた。おや、と目を見開いた彼は楽しそうに笑って手紙を持ち上げ、そして、新聞へと視線を向けた。新聞の一面記事にはシュナイゼルの写真とアスナの写真が並んで飾られており、見出しには――シュナイゼル殿下よりアスナ大公爵へ愛の言葉の文字。いや、いい仕事をしてくれるじゃないかと感心したように新聞を持ち上げて記事の内容を見ていれば、アスナから少しばかり殺気のこもった視線が向けられてシュナイゼルは咳払いをした。
「お遊びではなかったのだけどね」
「いーえ、これはお遊び以外の何物でもありません。コレ以外にもテレビ、ラジオ、はたまた皇族の専用チャンネルにまでリークをして貴方は何をなさりたいのですか」
 アスナがため息とともに言葉を吐き出すと、こんこんと部屋が行儀正しくノックされ、シュナイゼルは入りたまえと告げドアが開いた。ピンクブラウンの髪の文官の出で立ちの男――というには少しばかり女性のような柔らかな表情をする人だった――は二人分の紅茶とハイティースタンドには色とりどりのお菓子を乗せたカートを押してやってきた。
「あら、ちょうどいいところに。座りなさいな、アスナ」
 彼はカノン・マルディーニ伯爵だ。シュナイゼルとアスナの共通の学友であり、今はシュナイゼルの側近としてこのブリタニア皇宮の宰相府の文官として働いている。彼はアスナに応接用のソファを勧めたがアスナは首を横に振ってそれを固辞した。
「どうかしたの――って……ああ、それね、素敵な恋文だったわ。殿下のお気持ちがそのまま文字になったよう」
 カノンがシュナイゼルから手渡された新聞をみてうっとりと言った。今日の朝刊は切り抜きを作ってノートに貼り付けてしまったわ、と楽しげにいうカノンをアスナは恨めしげに睨みつけた。切り抜きどころの話ではないのだが、こちらはと言わんばかりの表情にカノンはこほんと咳払いをしてシュナイゼルのデスクに紅茶とケーキを置いた。
「何の茶番をさせたいのです、貴方は」
「茶番ではないよ――そろそろ私も傷つくのだが」
「どこにその要素がありましたか? 長年共にある私ですら殿下のお心が傷ついているようには見えず、むしろ私の反応を楽しんでいるようにみえるのですが?」
 苛立ちをアスナはそのまま言葉にした。でも、あながち外れてもいない言葉だったのでシュナイゼルは楽しそうに笑う。
「いや、うん、君の反応は楽しいよ。それは間違っていない」
 素直にそういえばアスナの視線がより一層鋭いものへと変わり、その年甲斐もなくむすくれたようにアスナが頬を膨らませたのがわかった。ああ、愛らしい。とシュナイゼルが目を細めて、アスナの髪へそっと手を添える。
「とはいえ、私は本気だよ。まあ、恋文を公開したのは君から逃げ道をなくすためだ」
「…………貴方という人は」
 宰相だと分かっているんですか、という言葉は言うのですら億劫になってしまってアスナは言えなかった。はぁ、と脱力したアスナはくるりと踵を返した。ここで討論するのすら億劫になったのだろうか、とカノンはアスナを窺い見るが、本当にそうらしいアスナの表情は疲れ切っていた。
「おや、帰るのかな」
「……今日はナイトオブスリーとシュミレーションの約束があるのでインバル宮へ出向かなくてはならないのです」
 インバル宮はブリタニア皇宮の敷地内にあるナイトオブラウンズのための待機所のようなものである。帝国最強の十二騎士を意味するナイトオブラウンズがそれぞれの部屋を持ち、開発チームを持ち、それぞれの仕事を抱えているためインバル宮に全員が揃っていることはめったにないが。以前から約束していたため本日はナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ卿は帰ってきているはずだった。
「そうか、ヴァインベルグ卿によろしくと伝えておいてくれ」
「……かしこまりました」
 アスナがドアを開けようとしたところで、シュナイゼルに呼び止められた。
「もちろん、君の返事も同じように公開させてもらうから、そのつもりでね」

 ああ、もうなんてことだ。
 苛立ちのままドアを力強く閉めるとアスナは早歩きで宰相府から逃げていった。――というと本人はひどく遺憾なのだろうが実際その場にいた多くの者達が逃げていくように見えたのだ。顔を真赤にして、たまらなく泣きそうな顔をした彼女を呼び止めるものは幸いにも誰もいなかった。

 インバル宮へアスナは自由に出入りできるのは本来十二人しかいないはずのラウンズのなかで十三番目――ブリテンのアーサー王伝説の円卓の騎士になぞらえ、不吉の数字、呪われた椅子に腰掛けることが許された騎士であるからだ。この数字は血縁にのみ付与されてきた立場であり、クラウン家とそれに追随する幾つかの家の誰かがこの呪われた騎士の座を受け継いできた。
 自動で開くドアをくぐると、ラウンズの中でも比較的年少の部類に入るだろうモニカ・クルシェフスキーがアスナを見つけると目を輝かせて駆け寄ってきた。
「クラウン卿、本日の朝刊拝見しましたわ。なんて、素敵なお話なのでしょう……!」
「……クルシェフスキー卿」
 いや、新聞やら何やらで公表されていた時点で知り合いの目に入っていることは確かなことだったのだ。カノンですら朝刊はスクラップにしたと言っていたのだから、周りで他にも目にしたものは多かっただろうし、だれも廊下で敢えて言ってこなかっただけで他にも目にしていたものはいたはずだった。気付かないふりを続けていたかったがそうもいかないらしい。
「お返事はいつごろ出されるのですか?」
「……卿まで殿下のくだらないお遊びに付き合いたいのか」
 ならばぜひ変わってくれたまえ、というとアスナは他のメンバーがソファに座っているのを視線をやった。ノネットやドロテアは何か言うわけでもなく察したように片手のみを上げて挨拶をしたに留まったが、ルキアーノ・ブラッドリーはニヤニヤと笑いながらアスナへ視線を向けた。
「しかし、殿下のお気持ちは本物では? ――でなければ、あんな情熱的な恋文は送れないでしょう」
 アスナの探し人は爽やかな笑みを浮かべたままそう言った。
「同じ男として、殿下のお気持ちはひしひしと伝わってきますね」
「何を言うか。アレは自動手記人形が書いたものだろう」
 情熱も気持ちも何もあったものじゃない、とアスナはきっぱりとその言葉を両断してノネットに勧められるままソファに腰を落ち着けて、目の前に座る唯一のナンバーズである枢木スザクからの視線に目を向けた。
「あの、失礼ですが……自動手記人形とは」
「ああ。日本ではあまり馴染みがなかったか?」
 ――日本、という言葉に枢木の顔が些かこわばったがアスナは敢えて気にしない。ブリタニアでは植民エリアを数字で呼び表すようにと言われているがあまりアスナはこだわりがない。重要な会議の場や皇族たちの前ではその立場上数字で区別することも致し方無しとしているが強いこだわりは持っていないのだ。東洋の文化では自動手記人形――手紙の代筆業など珍しくて当然だと言わんばかりに並べられているクッキーを一枚取ってかじった。
「自動手記人形――オート・メモリーズ・ドール。元々は肉声を文字へと変えてくれるとある研究者の発明だ。タイプライターを使用して声から文字を書き起こしてくれるので、盲目の人や、文字が書けない人間に重宝された人形のことだが、この場合は代筆業をこなす妙齢の女性を示す言葉だな。ああ、失礼、最近では女性ばかりではなくなったか」
 わかりやすく説明する。
 そう自動手記人形サービスとは代筆業をこなす人達の総称である。今はメールや電話、テレビなど電子機器の発達に伴い、そして教育機関の発達により文字が書けない人間は極端に減ったが――未だに彼女たちが使う美しい言葉を求めてその需要は高い。特に貴族は恋文一つに本人の人格が問われるからと有名な自動手記人形を雇うものも決して少なくはないし、シュナイゼルのように公文章を取り扱うことも多い人間は専属の自動手記人形を据えている。――アスナ自身、シュナイゼルの専属自動手記人形には何度も会ったことがある。おそらくはあの文面は彼女のものだと分かる。
「まあ、言い回しは限りなく殿下に近かったがな、――本人のものではないよ」
 アスナは少し遠くを見るようにしてそう言った。本人ではない言葉になぜ返さなくてはならないのかと言わんばかりの表情にノネットが耐えかねたように笑った。
「何だ、流石にシュナイゼルの坊やの事はよくわかってるじゃないか」
「……やめてください、エニアグラム卿」
 いたたまれない。これからしばらくはこの手の話でからかわれることは仕方ないと割り切るしかなさそうだが――そういえば、問題はラウンズばかりではなさそうだ。この話にいい笑顔で食いついてきそうな柔らかな皇女殿下が一人いたなと思いながらはぁと深くため息をつく。
 するとインバル宮の年若い従士が一人入ってきてシュミレーションの支度が整いましたと告げてきたためアスナは重い腰を上げて立ち上がり、張り切って自身の前を歩いて行くジノについて行く。果たして、どうしたものか、と考えるアスナの気持ちとは裏腹にシュミレーションの中に広がる外の光景は晴天であった。


* * *



 馬車がリブル宮の前に止まるとドアが従者によって開かれ、一人のうら若い女性がやってきた。アッシュブラウンの髪は束ねられ、ダークグリーンのリボンで結ばれている。シルクのプリーツのスカートに書けられるジャケットはリボンと同じダークグリーンであり全体的に引き締まった印象を受ける。若い、という印象そのものに少しばかり童顔なのだろう、年齢としては子供のように見えるが彼女は成人したれっきとした女性である。従者に手を引かれ、馬車の階段をゆっくりと降りた彼女は目の前に広がる大きな城にほう、と感嘆のため息を付いた。
 リブル離宮は湖の上に建設された湖畔の城である。リブル――天秤の名にふわさしく左右は均一に作られており、湖面に映る月とその城の双塔が芸術的なまでに美しいと自動手記人形サービス、マリアは思った。この城の主人はある意味有名人であり、今、このブリタニアで尤も騒がれている女性であった。

 城の大きなドアを開けるとそこで待っていたのは主人本人であったことにマリアは驚きながら、すぐにいつものようにスカートの端を持ち上げて優麗な礼をしてみせた。
「こんばんは、私は自動手記人形サービス、マリア・エーデルワイスでございます」
「ああ、よろしく頼む。……話は私の部屋でかまわないか」
「はい、旦那様」
 マリアはアスナの後ろをついて城の中を歩く。ブリタニアの城は比較的明るさを含んだ作りになってることが多いが、この双塔の城はそうではなく夜ということもあるのだろうが明かりは最小限に留められており見るものにわずかに不気味さを感じさせるような作りとなっていた。城は他には誰もいないと言わんばかりに静まり返り、二人の足音を反響させていた。使用人たちの息遣いさえ聞こえてこないのは徹底して教育されているからなのだろうか、とマリアが感心したところで、とある部屋のドアが開かれる。どうやら、ここがアスナの部屋であるようだ。
「どうぞ、レディ」
 さすがはブリタニアの騎士だ、と感心する手管であっという間にマリアをエスコートしてソファに腰掛けさせる。アスナはコールを繋いでお茶を持ってくるように使用人に言いつけるとマリアの前に座った。
「まあ、依頼のおおよその概要はわかるだろう」
 椅子に腰掛けたその人の服装が見慣れ親しんだ黒い騎士服ではなくナイトドレスだったからだろうその威厳ある口調が些か不釣り合いであるようにマリアには感じた。
「シュナイゼル殿下と公開恋文をすることになってな……」
「存じ上げております。本日の朝刊一面に飾られましたね、シュナイゼル殿下の旦那様への情熱が伝わってくるような文章でした」
「……まあ、あれは自動手記人形が素晴らしかったのだと思うが」
 アスナは改めて釘を差すように言うと居佇まいを直した。
「私の依頼は要約するとその手紙を書いてほしい。――断る手紙をな」
「え……?」
 マリアはつい聞き返してしまった。シュナイゼル殿下とアスナ大公爵の

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