その先に待つものがたとえ
「お手をどうぞ、マイ・マスター」
差し出された手に紅離は呆然とした。
眼の前にいる親愛なるサーヴァントは整えられた燕尾の仕立てのよいスーツを身にまとっており差し出された白いシルクの手袋に包まれてる手はまるで中世の騎士が姫君に差し出されるように揃えられている。紅離もまたいつもとは違う服装である。カルデアのマスターへ渡される基準服ではなく、紅いシルクでできたマーメイドドレスを背の高い肢体を包んでいる。大きなフリルが裾を翻す度に揺れる。黒い肘まで来る手袋に包まれたその手はどうしていいかわからず、空を彷徨った。
「どうした?」
「いや、その……慣れないものだな、と」
「そういうなよ。こういうのは楽しんだもん勝ちだぜ、マスター?」
手を掴まれた。
そうして、引っ張られパーティーの中心へ。
昔、紅離はパーティーは嫌いだった。欲望の満ちた魔術協会ひいては魔術社会が紅離は嫌いだった。誰かの欲望に晒され続けることが苦痛だったのだ――しかし。引かれた手は温かく、その先にはモードレッドの笑顔が見えた。更に向こう側には土方や書文の姿もあった。
(もしも、あなた達がいるなら)
紅離は笑った。
(この先が何であっても怖くないかもしれない)