知らないNo.48まで


 眼の前の男は本をめくっていた。俺は書類仕事もそこそこにじとその男を見つめてみた。
 すると男は視線に気づいたのか、困ったように笑っておろしている赤い髪を少しだけかきあげた。照れくさそうな様子はなく、見られていることに嫌な気分を示しているわけでもない。ただ、見られていることが不思議だと言わんばかりである。
「熱視線に照れちゃうさ〜」
「そうか」
 ――ラビはいいながら本を閉じた。
 ラビの右目と視線がかちあった。互いに見つめ合う視線が途切れることなく、不可侵でありながら確かにお互いを犯していく。最初に視線を途切れさせたのはラビの方だった。何かいたたまれなくなったのか、それとも、何かやましいことでもあったのか。
「……アスナは今、誰を見てたんさ?」
 ――オレ?
 ――それとも。
「さぁな」
 俺は深く腰掛けた。高い背もたれに体の体重すべてを預ける。ぎしり、とわずかにきしんだ音が聞こえた。

「今、俺の目の前にいるのは"49番目"のラビだろう」

 俺は知らないのだ。
 49番目までのラビと48番目までのブックマンJrを。
「……それでも、それらをひっくるめてお前は一人の人間か」
 なら、愛せねばなるまい。
 俺は立ち上がると、ラビの腰掛けるソファまで近づく。座っているラビをそっと抱きしめてその腕の中で柔らかな赤い髪を撫でる。

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