世界は優しくないけれど


「誕生日おめでとう」
 獅子劫は手を止めて、にこやかに笑う紅葉を見た。にこにこ、いつもどおりに笑っている紅葉に言われ、壁にかけられているカレンダーへ視線を向けた。――四月十四日、土曜日の朝である。
「……あ、ああ。誕生日か」
「うん。夕ご飯は期待しててね」
 紅葉はそういいながら獅子劫に朝の珈琲を差し出した。
 普段から使っているマグカップにたっぷりと入っている珈琲を見つめながら、獅子劫は苦笑した。ケーキはどんなのがいい? と柔らかな微笑みを浮かべる紅葉に甘くないやつがいいと言えば、じゃあ、洋酒入りのチョコレートケーキにしようか、と隣で暖かなカフェオレを飲んでいる。
「買い物、行くなら付き合うぞ」
「なんで? 誕生日なのに」
「誕生日だからだよ」
 きょとん、と紅葉は目を見開いた。獅子劫は紅葉に隣に座るようにソファをぽんぽんと叩くと紅葉は素直に隣に座る。それを引き寄せるように腕を回すと僅かに紅葉が獅子劫を見上げて顔を赤くしている。

「誕生日くらい、一緒にいてもいいだろう」

 らしくねえな、と言えば、たまらなく嬉しそうに笑う紅葉がいる。なんだか、すごく照れくさい気持ちになって獅子劫が顔をそらすと、紅葉はカフェオレを置いて、獅子劫に抱きついてきた。
「ありがとう、界離。愛してるよ」
「……俺もだよ」

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