その日、僕らはまだ他人だった


「あのさ、あのさ! なんで姉ちゃんがここに来てんだってばよ!!!」

 ナルトの声が響いてアスナは苦笑しながら、彼の身長に合わせて体をかがませてしーと唇に指を当てた。あんまり、大きな声は駄目よ、と一言弟をたしなめたアスナはニコリと笑ってみせた。
「姉ちゃんも今年下忍になることになって」
「ええ〜〜!? 姉ちゃん、忍者のこと知ってんのかよ!」
「えっと……それなりに?」
 言葉を濁すとナルトは納得がいかなかったらしく、思いっきり顔をしかめてぶーぶーと文句を言い続けている。そんな弟に苦笑しながらも自分の髪飾りとして使われることになった額当てにそっと触れた。
 自分だって、忍者になるなんて想像もしていなかった。
 アスナはそんなことを考えながらぐるりと周囲を見回してみる。ナルトが思い切り騒いだのでどうしても視線を集めてしまっていたし、自分のような大人がここにいるなんて些かおかしいから少しだけ悪目立ちしてしまったようだ。――その中でも少しだけ気になる視線が二人。

 一人はきっと年の頃が変わらない青年だった。
 目が合うと、にこりと彼は笑ってひらりとアスナに向かって手を振った。珍しい法衣を着ており、袈裟を着込んでいるからか修道僧と言われても全く気付かないだろうな、とアスナは思った。まるで空気のように周囲と馴染んでおり、気がつくと見失いそうになる男だった。
 アスナはそんな彼に一つだけ会釈した。多分、彼が一緒のチームになる気がしたからだ。

 もうひとりはナルトたちと年の変わらない青年であった。
 彼はどことなく冷たい眼差しをしていて、アスナを見る目もどことなく冷ややかなものを感じてしまった。だからといってそれが恐怖であるとかそういうものではなく、なんとなく値踏みをされているような――そんな目だった。周囲と彼はどことなく馴染んでいないような感覚があり、アスナは彼が、ナルトの言っていた季節外れの転校生なのだろうと気付いた。
 アスナは目が合った彼に笑いかけてひらりと手を振った。彼からは何も返事はなく、ただ静かに視線を逸らされた。



* * *



 忍は一小隊四人一組で行うのが原則である。そのうち一人が小隊長となり、メンバーを率いていくのだが、下忍になりたての忍は技術的にも、忍としての心得としても不足していて隊を率いている実力はない。だから、経験豊富な上忍の下について簡単な任務から少しずつランクを上げて行くことになるのだ。
 アスナもそれは同様だ。
 ナルトの中に眠る九尾がもしも暴走したときにアスナの中にいる迦楼羅という仏の力を持って抑え込むことが役割であるとはいえ、三人一組となる一番最初の下忍のチーム組みに抗えるわけではない。ナルトは第七班。うちはサスケ、春野サクラと共に任務に当たることになる。

 ――そして、アスナは第十一班。

 担当の上忍が迎えに来たのは第七班よりも二班も前の事だった。ナルトに散々羨ましがられながらも、アスナはごめんねと彼に手を振って教室から外へ出た。共に行くことになったのは――やはり視線が気になった二人だった。よろしくね、と行きがてら声を掛けると一人は柔和に笑い、もうひとりは静かに会釈するだけだった。
 なんだか、癖の強そうなメンバーだなぁ、と考えながら日当たりの良い屋上の一角へ出るとアスナは大きく息を吸い込んで吐き出した。すると、その先に見えたのは白銀の髪の男だった。――はたけカカシである。
「あれ、カカシくん?」
 アスナが名前を呼ぶとカカシはよ、と手を上げてこちらに合図してきた。
 たた、と走ってカカシのもとに近づくと、カカシはにこにこと笑っており、ちらりと視線を他のメンバーへと向けた。
「ほら、ちゃんと担当の先生の言うこと聞きなさい」
「うっ……カカシくんに言われるとは……」
 アスナは一瞬顔を顰めて、振り返ると担当の上忍となった――緋向焔に指示されて階段の部分に腰掛けた。カカシは焔の隣に立った。

「さて、まずは自己紹介からしましょう。私は緋向焔。あなた達第十一班の班長となりました。緋向焔といいます。この班は少し例外揃いと言うか……見ての通り、今年の卒業生ではないメンバーも入っています。

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