なかがすいた


 アスナの執務室は今日も書類がいっぱいだった。
「大変そうさ」
 ラビが執務室のドアに寄り掛かりながら、困ったように笑って見せるとアスナが済まないな、とソファにすら詰みあがっていた書類を指を軽くついとあげて持ち上げると綺麗に整理した。ラビの指定席であるソファの一角が空くとラビは本を持ったままそこへ腰を掛けた。
「食事はとったのか?」
「うん。今食べてきたさ。アレンの奴、やっぱり大量に肉食ってたさ」
「……あいつらしいな」
 アスナが苦笑し、羽ペンをペン立てに立てた時だった。ぐるる、とアスナの胃が空腹を訴えているのをラビの耳がとらえた。ばっ、とおなかを抑えて少しばかり赤面するアスナが可愛らしいと思ってしまったのは仕方のないことだ。
 普段は皇帝として強く、凛々しく、年齢以上の風格を見せるアスナだが時折、ふと、18歳の少女らしい姿を見せられるとそれがたまらなくかわいく見えてしまうのは世の常であるとラビは思う。
「……おなかすいたんさ?」
 当たり障りなく聞くと、アスナが小さく頷いた。その頬はまだ赤いままだ。
「ご飯、いるさ?」
 団服のボタンをはずして上着を脱げば、アスナの視線がラビに向いた。おいで、と手招きしながら腕を広げると、アスナは椅子から立ち上がってゆっくりとラビに近づいてきた。どうやら、本当に腹が減っているらしい、とラビは思った。
「夜じゃないけど、いいさ?」
「……今日はな」
 食事は、こっちがいい。
 まだ少しばかり書類の散らばっているソファに押し倒すようにアスナはラビの上に乗った。タンクトップ一枚のラビの首元に注がれる熱視線。それを促すようにラビはアスナの腰をそっと撫でた。
 ゆっくりと開かれた口から覗く牙。ラビの皮膚を突き破り、その血を飲むための牙がそっとラビの首筋に添えられた。添えられるだけで、すぐには突き立てられず、ざらりとした、舌の感触がラビの皮膚をなぞった。ちゅう、と唇で吸い付き、ここに噛み付くという合図を残すアスナの腰を撫でまわしながら、ラビはアスナのベルトを外す。
「んっ、早いな……まだ、噛んでないぞ?」
「んー?こうなったら、することは一つさ」

 あ、鍵、かけてないや。

 とアスナが淡く笑ったのを最後に、アスナがラビの首筋に噛み付いた。
 皮膚を突き破られる痛みは、やはりなれないものだ。筋を裂き、血管に辿り着く牙が血を吸いだすころにはその痛みが、アスナからあふれ出るフェロモンによって緩和され、性欲が刺激されていく。
 ごくん、と耳元でなるアスナののどが鳴る音にラビはより気分が高揚していくのを感じていた。ラビはアスナの髪をそっと撫でた。優しく、愛おしく。これほどまで、彼女の存在が大きくなるなんて、思ってもみなかった。
「ん、んくっ」
 こく、こく、とまるでしゃぶりつくようにラビの血を吸っているアスナの表情も徐々に恍惚に近づいていく。
 牙が離れると、ぷは、と呼吸すら忘れていたらしいアスナの声が聞こえてきた。アスナの頬に手を添えると、甘い香りがするような気がした。頬から、親指を唇に沿えると、酷くうれしそうな表情をして、指をくわえた。
「ん…っ、んぅ」
 ちゅ、ちゅば、と指にたまらなく吸い付いてくるアスナに耐えていくのはフェロモンによってそもそも無理だった。アスナのスカートの中に手を差し入れようとするが、アスナの唇が持ち上がった。そうだった、とラビが思い出すころにはアスナの服は一切なくなっていた。
 イノセンスによって形成されるアスナの服は出し入れ自由だ。
「……アスナ、着衣の萌えって知ってるさ?」
「悪いな、俺は元々服を着るという概念が薄くてな」
「……知ってたさ」
 脱がす楽しみがないのは仕方ないか、と思いつつすでに猛りつつある自分のことを思いやればこの展開は実にありがたい。アスナを引き寄せて、深いキスを交わしている意識の奥で、かちん、とドアの鍵がかかる音が聞こえた。


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