睡みの中で


 夜、突然目が開くことがある。眠いはずなのに、目が開いてしまって、眠れなくなることがある。FF本部にある、レンとの専用共用フロアの、寝室でアスナは目を開けた。まだ、真夜中だった。月が高く上がっているのが、全面張りの窓から見える。ネオンの明かりが、下から上がってきているのが見える。ぼんやりとベッド周りを照らす、オレンジ色の簡易照明がベッド付近を照らし出し、同じベッドで寝ているレンの寝顔を見られるようにしていた。すやすやと眠っているレンを眺めて、笑いかける。優しく頭を撫でると、ん、と身動ぎした。だが、目を開けることなく、眠り続けているのを見て、そっとベッドから抜け出した。ひたひた、と裸足で冷たいリチウムの床を進んでいく。あまりよくないと知っているが、そのままエレベーターへ乗り込むと下の階を目指した。ぽん、と鳴って目的の階につくと、アスナは再び裸足のままペタペタと歩き出す。冷たい。何で、眠れないのだろう。先ほどまで、しっかりと寝ていたはずの意識が突然浮上して、眠れなくなる。いつからだったか、わからない。ただ、こうして眠れなくなって。目的の部屋に入ると、IDカードを照らす。ぴっ、と音が鳴って部屋のドアが開く。薄暗い部屋の中を歩いていけば、ベッドに辿り着いた。すでに部屋の主は眠っていて、といえば、当然だ。もう、真夜中なのだから。勝手に入ったら、怒られるかな、呆れられるかな、とかベッドの近くで考えていると、腕を引かれた。ベッドの中に引きずりこまれて、アスナは目を見開いた。
「て、テツ…?」
「……眠れないのか?」
 目を開けてはいない。ただ、抱きすくめられた。抱き枕代わりにされてないか、という思いもあるが、今はこうしてくれていることがうれしかった。少し震えた手が見えた。ああ、こんな弱い自分ではだめだと知っているのに。ぼんやりとテツを見つめていると、頭を撫でられた。
「寝ろ、明日も早いのだろう」
「……ん、そうだね」
「アスナ」
「ん?」
「心配するな」
 全て見透かされていて、一気に涙腺が緩まったような気がする。テツの瞳が、暗がりの中にも関わらず、自分をしっかりと見つめてくれていて、安心する。胸に顔をうずめると、テツの唇が額に触れた。はらはら、と涙が零れていく。テツは何も言わずに、アスナを抱きしめ続けた。眠るまで。寝息が聞こえてきた頃には涙の痕がくっきりと残っていた。たまにこうして、一人置いて行かれた子供のように、不安そうに自分のところへ来ることがある。レンの傍では満たされない何かがある。アスナの求める安息を自分の手で渡すことができる、という安心をアスナは知らないのだろう。柔らかなアスナの紅い髪を撫でて、テツも目を瞑る。

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