素顔のを知って


 あー、疲れたぁ、と投げ出したハイヒールのパンプスがカタンと、リチウムの床に転がっていく。ソファに身を投げて、沈み込むと天井を眺めた。黒いマーメードドレスのままでアスナはゆっくりと目を瞑った。すると、部屋のドアが開いた。部屋は暗くしたままだったせいか、外から入り込む光だけに照らされて、アスナは目を開けた。誰?と聞けば、俺だ、とテツの声が聞こえてきた。
「ご苦労だったな」
「……ほんとね、疲れた」
 足をぶらぶらとさせながら、アスナは笑った。テツの顔を見ると、少しばかり疲れが抜けたような気分に陥って、アスナは腕を伸ばした。もっと、もっと。強請るように微笑めば、テツは困った顔をしながら、アスナを抱き上げた。お姫様抱っこされ、アスナは嬉しそうに笑いながら、首へ腕を回す。すり寄って首筋に顔をうずめると、ベッドでいいのか?と聞かれた。うん、と頷けば慣れた様子でフロアから寝室へと向かってくれる。体もすべて預けて大丈夫だと思えるから、アスナは目を閉じた。
 寝室に入ると、テツは器用に簡易照明を付けた。暗いだけだった部屋に、オレンジ色の明かりがともった。ベッドには、清潔な白いシーツがしわなく敷かれている。そこへアスナを座らせると、ぐいと引っ張られてそのまま、二人ともベッドへなだれ込んだ。腕を立てて、何とか沈み込まないようにし、テツはアスナをにらみつけた。
「アスナ……」
「ベッドまで来た、ってことはそういうことでしょ?」
「俺は城崎から、アスナ様が疲れてるみたいだから、といわれただけだったんだが?」
「そう、疲れたの」
 抱きしめると、アスナはテツのぬくもりを堪能するように目を閉じた。

「だから、一緒にいて?」


* * *



 背中のジッパーを下すと、アスナの白い背中が少し冷えた寝室の空気に触れて少しばかり揺れた。その様子を眺めながら、テツはそっとマーメードドレスへ手を掛ける。胸元をはだけるように脱がせると、それまで少し余裕そうな表情を浮かべていたアスナが目元を少し赤らめて、テツを見上げていた。片手を双丘に沿えて、テツはアスナとキスをする。最初は唇を食む様に何度も合わせていると、次第にアスナが唇を開く。それに合わせて舌を入れると、びく、とアスナの肩が震える。胸もゆるゆると揉み、舌で口内をなぞる様に愛撫する。んっ、と声が漏れて、二人は唇を離した。伝う銀糸がぷつりと切れるまで、じっと見つめ合っていた。少し酸欠で、ぼんやりとしているとテツの舌がアスナの耳をなぞった。
「んぁっ、や、テツ、耳はっ」
「耳が、何だ?」
 耳元で低い声で話されると、一気に背中を快楽が駆け回ったような気がしてアスナは目を固く閉じた。耳たぶを甘噛みされて、アスナはテツを抱きしめる腕に力を入れた。ゆるゆるとされる愛撫は、徐々に下へと降りていく。首筋から、胸をなぞり、腹をなぞると、ぞくぞくとした感覚が通り抜けていって、早く、もっとと急かす気分になってしまう。
 アスナの快楽を知り尽くしているかのようについては離れ、時折強く吸い付いては白い肌に、痕を遺していく。赤く色づいたそこに舌を這わせると、アスナがテツの首筋にキスをした。
「……珍しいな」
「あっ、だめ…?」
「いや、むしろ」
 ――興奮する、という言葉と共に、アスナの中に指が押し込まれた。んぁ、と一際甲高い声が響いて、首を仰け反らせた。スカートは捲られているだけで、汚してしまうかも、とアスナの頭に一瞬よぎったのをテツは感じ取ったのか、マーメードドレスを引き下ろすと、ベッドの下に投げ捨てた。
「大事に、んっ、扱ってよ……」
「少しぐらい強引な方が好きだろう?」
 ぐり、と中をえぐると、アスナが顔を顰めた。抉られる様な感覚に、膣壁が指を強く締め付ける。奥から溢れてくる愛液によって、徐々に滑りがよくなっていく中の様子に、テツは表情を緩めながら、指を抜き差しする。動きを激しくすれば、静寂に近い部屋に水音が響きだしアスナは羞恥に顔を赤らめた。
「あっ、んって、つっ!あ、ああっ、」
 徐々につやを増していくアスナの声に、テツは自身のそれが主張を始めていることを感じていた。そろそろ、苦しいと思っているがそれを慰めつつ、アスナの愛撫を続ける。胸の頂にかじりつけば、膣は締まりを増し、アスナから甲高い声が響く。舌で転がしつつ、アスナの様子をうかがうと、すでに余裕をなくして、とろとろになった表情でテツを見つめ返してきた。膣から指を引き抜くと、わざとらしくアスナの前で指を舐めると、アスナがさらに顔を赤らめた。
「て、テツ…っ」
「どうした?」
 意地悪く笑うテツに、膣の奥がうずくような感覚がして、アスナは足を擦り合わせた。早く、もっと、と思っている気持ちを悟らせたのか、まだだ、と窘められる。両足を持ち上げられてその足の間にテツの顔がうずまった。指で軽く膣口を開かれると、てらてらと愛液に濡れたそこがテツの目の前に広がる。指で入り口をなぞる様にすると、もどかしいのか、少しアスナの腰が揺れる。トロトロと愛液が滴り落ちていく。それを舐めとるように舌を這わせる。肝心なところへは触れないようにしていると、アスナがテツの頭を抑えつける。
「んっ、やっ、そ、こじゃ、な……っ」
 じゅ、と吸い付くと、アスナは腰を浮かせた。それを手で押さえ付けるようにしてそれを続けるとアスナの足がもがくように、快楽を求めるように少し暴れた。どん、と少し力強く肩にアスナの踵が入って、テツは漸く、入り口少し上の芽に吸い付いた。
「ひゃ、あああっ!」
 愛液が一気に溢れてきて、テツは口を離す。どうやら、軽く達したらしいアスナは緩くシーツを掴んでいる。普段の彼女からは想像もつかないようなだらしない表情でテツを見つめるアスナにテツは額にキスする。
「テツ、あ、早く……」
「随分とせっかちだな、今日は」
「……だって、」
 テツはそこでようやく上に来ていた服に手を掛けた。上半身裸になると、アスナが愛おしそうにそこに手を添えてくる。主張してやまないそれをテツは取り出して、寝ているアスナの口元に当てた。ちゅ、と軽くキスするとびく、と震えるそれにアスナは手を添えて、そっと抜いた。少し口を開けて、先端を口に含むと、く、とテツから吐息が漏れる。くぼみに舌を這わせ、吸い上げると、テツの手がアスナの後頭部へ回る。そのまま、引き寄せられて無理やりな形で奥まで咥えさせられる。むぐ、と苦しそうな吐息が零れる。テツが優しくアスナの頭を撫でると、アスナは何とかこらえながら舌を這わせた。一度口から引き抜いて、根元から上へ向かって舐めると口元から離された。
 アスナが首を傾げていると、テツがベッドサイドのテーブルに手を伸ばした。そこにある箱を取り出すと、コンドームを取り出す。手慣れた動作でそれを自身に装着すると、アスナの入り口に宛がった。
「抜いとかなくて、いい?」
「抜かない方が楽しめるぞ」
 テツはそういって、アスナの腰を持ち上げる。くちゅ、とそれで入り口を行ったり来たりさせ、そこからゆっくりと中へ押し込んだ。
「あ、ああっ……」
 せつない声を上げて、アスナはテツを受け入れた。散々慣らされたそこはあっさりとテツを根元まで受け入れ、律動を待った。動くぞ、と一言付け加えるテツに、柔らかく微笑んで頷いた。最初は緩やかに律動し、アスナの快楽のポイントをゆっくりとそれでついていく。ゆっくりとした抉られる感覚に、アスナの膣がびくびくと反応し、ひくついた。
「あっ、テツ、やっ、もっとっ」
「積極的だな」
 体を寄せて、アスナが腕を回してきたのを確認すると、テツは動きを激しくしていく。ぱん、と皮膚がぶつかる音が徐々に大きくなっていくのと、比例するようにアスナの嬌声が大きくなっていく。首筋に唇で、触れるとアスナが喘ぐ。
「ひゃ、あっっ奥、奥、きも、ちイイっ」
 テツの耳に直接入ってくるアスナの声が、余計に高ぶらせていく。より奥へ、より激しく、高ぶりを持っていく熱が冷めていたはずの部屋の温度も高くしたように感じて。互いに滴る汗と、熱が快楽へ落ちていく感覚。アスナはこの感覚が好きだった。テツとだけ味わえるこの感覚が。ぎゅう、とテツの頭を抱え込む様に抱きしめるとテツは目を見開いた。
「あっ、んっ、ひぐっ」
「アスナっ、そろそろ……」
「あ、きて、きてぇ…っ」
 一番奥を突きあげるように腰を動かすと、アスナが首を仰け反らせた。それと同時に、手の力が少し緩まる。離れていかないように、とテツが強く抱きしめる。より奥へ挿入されていき、互いが高ぶる。子宮口にあたるような感覚。一度入り口近くまで引き抜くと、深く深く挿入した。
「あ、ああっああああああああんっ」
「…っ」
 ほぼ同時に達した二人。テツはアスナの中で果てた。
 果てた後の脱力感に逆らわず、しかしアスナに負担に掛けないようにテツはベッドになだれ込むと、アスナの赤い髪を撫でた。まだ、髪留めを外していなかったせいで、変な乱れ方になってしまった髪を指ですくと、アスナが嬉しそうに目を細めた。食む様に唇を合わせ、強く抱きしめると、テツは律動を始めた。
「あっ」
「もう少し付き合ってもらう」
「……んっ」


* * *



 そもそも、アスナが帰ってきたのが深夜だったのだから、二人が眠りにつこうとするときが空が白み始めたころだとしてもおかしくはない。シャワーにすら入ろうという気力が起きなかったのはすでに疲れていて眠たさが頂点に増したアスナなら仕方のないことだった。起きてからでいいか、とテツも先に意識を落としたアスナの頭を撫でながら、ふと思った。ひどく、大人げなかった気分になったが、アスナから他の男の香水がしたからか。パーティーに行ってきたのだから、それが仕事だったのだから、と自制を聞かせようと思ったが、自分を強請るアスナに堪えが効かなかった。
(……もう少し、余裕を持たねばならんな)
 穏やかに眠るアスナに苦笑しながら、テツも眠たさに負けて瞼を閉じた。

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