短篇06


出来ればそばに居たかった




『はぁ・・・生徒と担任を人質に
担任の心を苦しめる為に目の前で
生徒一人戦わせるってわけ??』


「そうだよ、君の戦闘は大体把握しているからね」

『・・・そっか』

そううな垂れるように都佑はどこかを見る
そこには誰も人はいなくて、誰を見ているのだと
お茶子達は思った


轟「・・・岡本?」


『ねぇ、こんなことをして何が楽しいの?
人の気持ちを弄んで・・人の命までも
奪いつくそうとして・・私はまだいいとして
相澤先生や梅雨ちゃんをどうしたいの?』

「ただの復讐だよ、君だって分かるだろう?
現に君が問った答えは酷く鋭い刃となって
己に突き刺さったじゃないか」

『黙れ!!・・・黙ってよ、それ以上言わないで』


都佑は少し震えながらも相澤の隣から動かない
それに相澤はもういい、そういって都佑を
離れさせようとする


『・・貴方等々馬鹿になりました?
この状況で動ける人間は私しかいないんですよ』

相澤「だからと言ってもう見ていられん!
ここから嫌でも出てやる・・・」

「ふふ、無駄だよ?僕の個性は君を閉じ込める事は簡単だ
だけどそれだけでは無意味に等しい
君の大切な生徒であり娘であるこの子を殺すまでは・・・」

デク「娘?あれ?え?じゃあ、都佑さんは・・・」

『・・そうだよ、一応これでも養子として
相澤さんに拾われた人間だよ。』







それに全員が驚きの悲鳴を上げる
都佑は心底嫌そうな顔をしてヴィランを見る
目の奥には何かを決意した目の光が見えた


「・・良い眼をするようになったね」

『黙れ、今すぐ私を殺して全員の記憶から
私を消してくれるなら、
私は何もしないでこのまま殺られよう』

相澤「お前なにい」

「それは出来ない。イレイザー・ヘッドには
僕が味わった屈辱と全くいやそれ以上のものをと
想っているんだよ。君ならわかるだろう?
嫉妬して殺してしまいそうな君なら・・・さ?」



その時
都佑は勢いよく剣を取り出し喉元に突き立てた
目は血走っていて今すぐにでも人を殺しそうだった

だが、すぐに剣をしまって両腕で自分の腕を鷲塚む
それを見て梅雨はつぶやいた

梅雨「都佑ちゃん・・自分と戦っているんだわ」

デク「え?どういうこと?」

梅雨「私達が捕まっているのとお父さんである
相澤さんの命と引き換えに自分の命を
投げ捨てまで救い出したいのにそれを今したら
ヴィランの思う壺。同時にヴィランはそんな事
じゃ欲は満たせれない・・・」

『(かといってここで引こうにも後ろで
攻撃出来る人間は私一人・・・恐らく
生徒が一人でも手出ししてくれば
私か梅雨ちゃんのどちらかを殺しにかかる。)』


冷や汗が頬から流れて来る
さぁ、どうする?
そんな声が頭から離れない


どうするもこうするもない。
具現化の中でも私がまだ使っていない方法がある
それを躊躇している暇もないのは事実だ


だが、



『(アレを使えば一週間・・いや、二度と
此処から目が覚めるかどうか分からない。
恐らく代償は酷いものだ・・・・どうする
それ以外に何か良い方法はないのか?)』


そうためらっていると少年が気が付いたのか
何を隠しているの?と首を傾げて聞いてきた


すぐ目の前まで現れたのに都佑は驚き後ろに下がる


「何をためらっているの?具現化は十八番でしょ?
生徒と愛する養父を守る為に己の命が惜しいの?」

それとも


「それ以外に何か大きなものを隠しているとか?」

『ーーーーっ!!』

その眼には人を十分に殺せる目をしていて
私は心臓が飛び跳ねるように早くなり呼吸が止まったかと思った
嗚呼、喉が渇いた。水が飲みたい。

それに気が付いたのか少年はにっこりとほほ笑み
そうかそうかと笑い出した


「じゃあ等価交換だ。
君がその力を、個性を最大限に使って僕を倒したら
君のお父さんと友達は解放しよう。」

『・・・もしも、そうしなければ?』


君の命はないと思ったほうがいいよ



その言葉に私の喉に唾が飲み込む音が鳴る
梅雨ちゃんはケロ・・・と困った顔をする
下手な事をしても君の大事な友達も居なくなるよ
そういって目の前で腕をナイフにして
梅雨の首元に当てる
心なしか少々汗が浮き出て
震えているように見えなくもない


私はそこに来ても頭で迷ってしまう
相澤さんや梅雨ちゃんがピンチだというのに
自分の命が惜しいのか?
違う、彼らに悲しんでもらいたくないだけだ

その為に何回もいろんな人が死にに行くような
身を投げ出すシーンを見てきた


グルグルと回る中、何だか段々訳が分からなくなる
隣で相澤が「都佑」と呟く
都佑は聞くために振り向いた
相澤の目は都佑を見てこういった
「戦闘を許可する」と

それは己を守るためというものもあり且つ
相手を倒して生徒とそして先生と父である相澤も
救い出すという一つの命令でもあった


私はそう言われないと動けない自分に心底腹が立った
歯を食いしばって右手を握り締める
ふと思い出したかのように右手を開いてみる
今も昔もあるほくろが目に留まった

『(違う、私は・・・私がしたいのは・・)』


目を開きながら前を向いて私は言った
「了解」そういって私は服を脱いだ
途端に全員がな!?と驚きある人はガン見し
またある人はそっぽを向いてみないようにする

相澤も驚き目に手を置いてみないようにする
それに都佑は別にみても大丈夫ですよ、と笑う


そうして皆が見た先には


お茶子「都佑ちゃん・・その中って・・・」

『へへ、途中でトイレ行くのはこれを着るのが
恥ずかしくてさ、露出多いから見世物じゃないし
でもやらないといけないって言われたら・・・ね?』

そうくねくねしながら嗚呼でもそんな露出狂とかじゃないよ!?
と慌てて手を横に振って否定した


『私の個性でも特に具現化は身体の部分をどれだけ使って
再現するか・・・例えば刀。刀でも小刀位なら顔や首、
腕や足の出ている部分が露出していれさえすれば長さは
充分にあるし、具現化出来る。』

デク「そうか!岡本さんの個性で具現化というのは
八百万さんみたいに手や身体から物が出てくるんじゃなくて
ただ単に皮膚面積が大きければ多い程それと同じ長さの
物質をその場で具現化出来るというものなんだ!!」

その解説に私はご名答と言って笑って返してやった
それにヴィランはへーと言ってそれがどうしたの?と言う

「流石に脱いだからって出来る範囲が広がっただけだろう?
元々そのままでいたらよかったのに」

『あのねぇ、一応私も乙女でしてね・・
男子があんだけ居て且つ担任が男ってなったら
私だって露出をさけて攻撃手段を考えます!!

昔と違って人目を気にしちゃう方に向いちゃったから
色々とやり方に困っているんだから!!』


全員「(昔は人目を気にせずに外に出ていたのか・・??)」


そう全員が思ったことは都佑は知らない

真っ黒な上下七分丈の服を脱いだ都佑は
上はひし形のようなアクセントが胸にある
ビギニみたいな姿で立っていて

下は短パンでも少し幅が
ふんわりしているもので
よく見たら横から短パンの
ベルト部分に半円を描くように
白い布がふわりと
浮いている形の衣装だった



『全く、これだけは私もやった事無いから
やるのにかなり躊躇したんだよ?この私が
躊躇するだなんて滅多にないんだからね??』


上鳴「そこまでやりたくない事ってなんだよ?」

八百万「まさか、大きなものを作り出す事・・??」


ちっちっち、と都佑は言って腰に手を当て
後ろを振り向いてにやりと笑いながら梅雨達を見ながら話す


『人は目の前の敵を倒すのに多くの武器を作り出してきた。
少なくとも人が殺せるようなものも沢山ね?・・でも、
私が本当に作り出して恐ろしいものがある。・・・それは
私を手籠めにしたいと欲を出す愚かな人々が思い浮かぶ程の
強力なもので、出来れば見せる事無くこの生を終わらしたかった』


一体何を言い出すのか、いつもの明るい少女は
一体どこへ行ったのだと言う位、都佑は淡々と話を進める
その表情は段々と光を帯びてきたような、そう
まるでもう迷いはしないと言ったような、そんな瞳をして



『こんなことが出来れば世界は崩壊する
こんな事が出来れば人は確実に何かが壊れる。
私はそう思って出来る自分を苦しめて、一度
自身を本当に殺してしまおうかとまで思い詰めた』

胸に手を当て、ひし形の真ん中で
ぎゅっとこぶしを作るように握る
その姿は切なそうに懇願する姫にも見えた


都佑は本気だったのだ
本気で目の前にいるヴィランを
倒す事だけを考えていたのだ


それを知った飯田はやめろと言った
他に手段を考えろと
その言葉に都佑はダメだよと今にも
泣きそうな顔で首を横に振って否定した


『そんな事をすれば君らが・・一番危ないのは梅雨ちゃんだ。』

梅雨「ケロ?」

『梅雨ちゃんにはずっと生きていてほしいし
その願いだって叶ってもらいたい。
私も娘ならその願いが永遠に・・・続いてほしいって』


言いたくもない言葉を出しているのが分かる
胸が酷く苦しくなり段々呼吸をしているのかも分からなくなる
それを見て相澤はもう喋るな、と言った


『梅雨ちゃん、相澤さんを、頼んだよ・・・』

梅雨「ケロ、都佑ちゃん!!」



私は深呼吸をしてすぐにその場所から走って行く
それに逃がすか!と言って走ってくる
すぐに追いつかれるも私は距離をとり相澤さん達の姿を目にとらえた
その眼は見えないが、確かに困惑しているようだった

申し訳ないと思いながらも
私は構えていた体制を崩して
棒立ちになる


それに何を考えているのかと言わんばかりに
ヴィランである少年は首を傾げて都佑を見た


『(ごめんね、ごめんなさい。どうか許して)』

私はそう胸に抱きながら呪文を唱えだす
片手は胸に置き、片手は地面を指すように指を下した



『・・世界の崩壊を望し愚かなる人々よ
その血にたゆたいし光を束ねる偉大なる我らの神よ!
時を光を追い越す刹那なる意思に我の力をゆだねよう
神々の、魂すらも飲み干すその、愚かなる力を!!今!!』


呪文のように言い放った都佑の地面はかすかに光っていた
それに何が行われるのかと驚く

そこからポンと音を出して出てきたのは


轟「・・ヘッドフォン???」

爆豪「てめー!!ガリガリ!!
何が恐ろしいものだ!!ふざけてんのかー!!」

『誰がふざけるかー!!本当に怖いのは、
君らが驚くのは此処からなんだからね!!』


そうぷんぷんと頬を軽く膨らませながらも
都佑は出てきた白地に水色の線が幾つか通っている
ヘッドフォンを手に取り耳に当てる
パチっと音を立てて電源を入れて
同時に出てきたスマホを手に取り
首を傾げながら足をくの字にして片足で立った都佑は
いささかそわそわとしているようにも見える


『さてさてさーて?どうしましょう
どうしましょう??何からする?
何からしたい?女の子?男の子?
元気なもの?戦闘もの?
それとも嘆いたりしたい??
さぁ悲劇は喜劇と呼べるものか否か・・・』


「何を言っているんだい?
流石にそろそろ待つのは飽きたよ」

そう言われてあわあわと都佑は待てと言う
それに待たないと言って突撃してきたヴィラン
キーンと音を立てて刃物と刃物が打ち合う音がした


それに皆が驚いた
都佑がヴィランとナイフとナイフで
互角に戦っているわけではなかったのだ

そう、そこに居たのは



切島「え!?お、俺!?」



都佑の目の前に立って庇っていたのは
硬化の個性を使って腕で庇っていた
ヒーロー服の切島だったのだ


それににやりとした都佑は髪を一度
ふわりとうっとおしそうにかきあげて下した

『レッドライオット、そのまま
ヴィランに対して平行線で前に押せ』

その指示に従って切島、否レッドライオットは
その状態のままじりじりと都佑を遠ざけるように
前に押してヴィランを遠ざける


その間にちょっと怯んでいた都佑は
すっと前に一歩でる


『私が一番恐れていた力、
それがこの人物の具現化』

デク「そんなことが・・・」

八百万「素晴らしい・・・」


梅雨「だけど、かなり危険ね」

梅雨の一言に上鳴が驚く
それと同時に相澤がつぶやいた

相澤「具現化とは、その名の通りその場所にあるものを指す
具現化した等、あくまでも表現の言い方であり、物にする
事は一切できない、いわば空想上のモノそのもの。」

『私の出来る範囲はあくまでも
他人との必要以上のコミュニケーション

そしてその人がどんな人間の人格者か
どれが好みでどんな人を好むのか、

ありとあらゆる角度から人と言うものを
取り込んで目の前に具現化してみる・・それが
私が一番恐れてやまない個性

今すぐにでも私が捨てたい個性』



そういいながら数歩歩いて終わったのか
その場で立ち尽くした
レッドライオットはその場からすぐに
後ろに飛んで都佑を守るかのように立っていた




『それが人間を具現化して動かせる
私の最大級の奥の手だよ。
知られた以上此処に居る人間は
出来れば殺して処分したいんだけど、
如何せんお友達や親は殺せないので
君ひとりに悪夢を見返してやろうと』

そう言いながら都佑は口の端を上げて
顎を引き目を光らせた
右手をすっと前に出して両手をあわして
パンパンと二回音を鳴らせばすぐに
別の人間が具現化された


『さぁ、どうする?ヴィランよ』

都佑は笑いながら具現化した人間
まだ固形もなっていない脆い姿に手を置いてこういった


悪夢は始まったばかりだと


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