続・ギャル男と恋

ギャル男と恋。
~攻めver~

 お前は知らない。
俺が、本気でお前に執着している事を。
本気で、ずっと前からお前を見守り続けたことを。
俺ばかり、お前に振り回されていることを。
俺の愛を、お前は知らない。

     *

 なんの変哲もない土曜日の午後。
世間一般的には休日であるはずの土曜日であるが、個人で仕事をやっている俺に決まった休日などあるはずがない。

今日も終わらない仕事を片づける為、睡眠時間を返上で、朝早くからパソコンと格闘していた。
そんな俺の都合などお構いなしに、そいつは突然嵐のように、俺の家を訪ねてきた。
お前んち、なんか居心地いいんだよね、あがらせて?なんて、悪気なんて一切、なさそうな笑顔を浮かべながら。


11月というのに、派手なポロシャツと、破れかけの半ズボンのジーンズというラフな服装でやってきたそいつは、締め切り間近でひーひー言っている俺をよそに、俺のベッドを占拠し、家の主をよそに好き勝手くつろいでいた。

ポロシャツはハワイアンを感じさせる原色にちかい目が覚めるような色をしているが…、多分また安物だろう。
生地は薄くて、よくて2000円、安くて300円ほどで買えそうなやすそうなシャツであった。
ジーンズもジーンズで、シャツに負け自劣らず古びている。
色は色あせているし、生地は伸びに伸びきっており、ここまでくれば捨てても損はないだろう、と思うくらいに使い古したズボンである。

しかしながら、モデルはどんな服でも着こなせるように、こいつもこいつで見事にボロ服を着こなしている。ギャル男のこいつにかかれば、そのボロ服がファッション、と片づけられてしまう。

今日は、女のように肩くらいまで伸ばした髪を、一つに纏めていて、白いうなじがちらりと覗くというおまけ付だ。
なんでギャル男のくせに、そんな髪型してんだよ。
…くそ、啼かせてぇ……。そのうなじに齧り付きてぇ…。
ベッドの上で足をパタつかせている、ただそれだけなのに、もう日吉の身体に触りたくて仕方ない。


 俺は必死に理性と格闘しながら、パソコンに向かっていた。
仲間ん中じゃ、“クール”とか“落ち着いている”と、よく言われる俺だが、こいつの前では、そんな落ち着きなんて皆無。まるで“獣”のように理性なんて崩れ去ってしまう。
頭ん中じゃ、どうやって犯そうか、啼かせようか…そればかり考えてしまっている。

我ながら、重症である。
今、俺の頭の中を覗くことができたなら、俺のベッドでわが物顔で牛耳っている自分勝手な猫は裸足で逃げ出すだろう。
どう自分が見られているかもしれないで、呑気なもんだ。

…俺は年がら年中、このギャル男に恋をしている。
はっきりいってしまえば、欲情しない日がないくらい、やつにまいっていて、ここまで自分が精力旺盛なタイプだったのか、と自分自身驚いてしまう。
仕事でパソコンを打つ手も、やつが同じ部屋にいると思うと、邪な願望が頭をよぎり、仕事にならない。
俺の頭ん中は、モザイク必死の18禁のオンパレードである。

鬼才ともてはやされた作家の俺が、こんなギャル男を前にエロい妄想しか浮かばないとは…。
もう締め切り間近なのに、完結まで先が長そうな原稿に頭を抱えたくなる。
締め切りまで、あと数時間。
確実に終わりそうにない。
また担当には泣いてもらうことになりそうだ。


「ナァ……ナニ書いてんのー?
あ、わかった、どうせえろいやつだろ?お前、エロいからなぁ」
「………」
「おいったら」

ただ待っているのも飽きたのか、俺へむっと唇を尖らせると、ベッドであぐらをかいた。
ちらりと覗く、膝。
そして、まるでキスでも待つように窄められた唇。

いきなり押し倒すのも悪いと俺が必死に理性と戦っているのに…こいつときたら、人の苦労も知らないようにへらへら笑いやがって。
俺に何度襲われて、その度にびびっていたのに…もう忘れてるとか、アホ以外の何物でもないだろう。

シャツから覗くピンクの乳首…触りたくてたまんねぇ。
俺以外にこんなことやっていないだろうな?こいつ…。
無自覚で男を誘うやつだから…、非常に不安である。


 こいつの名前は、橘日吉。
ギャル男で、また軟派男でもある。
そして、現在、この男は俺の犬でもあった。
アホで馬鹿で淫乱な、俺だけのアホ犬。
そんな俺はペットの犬にデレデレな飼い主に成り下がっている。
こんなペットに溺愛な俺の姿など、友人が知れば驚き目を見張ってしまうだろう。


俺と日吉が出会った日。
それは、日吉が小悪な彼女にふられ、深夜の公園でふらついていた日である。
公園で酔っ払って泣いていた日吉を拉致し…、

まぁ、色々あって日吉を飼いならし、そのまま付き合うことになった。

ノンケで女好きな日吉であったが、快楽には正直で、最初は嫌々俺に抱かれていたものの、次第に要領が掴めてきたのか、今では愛撫すればすぐに身体は溶けてしまう。
男は胃袋で掴めともいうが、毎日せっせと日吉が好きな料理を作り、餌付けたり、日吉が好きそうな漫画やゲームを購入したりと、物で釣れば単純な日吉は俺に性的対象で見られているということも忘れ、ニコニコと懐に入り込んでくる。

…速攻で嫌なことや辛いことを忘れるアホな日吉を可愛いと思う反面、正直、危機感というものが足りないのではないか…と、成人男性なのに、子供を持つ母親のように心配になってしまう。


日吉自身は気付いていないようだが、日吉には男のくせに妙な誘うような色気がある。
無自覚な色気っていうのか…?
男でも、ついふらふら〜と誤った道に進んでしまってもイイ、破滅の道を進んでしまっても、日吉と一緒ならばいいかもしれない、と思ってしまうような、不思議な魅力があるのだ。


先週も、こいつと歩いていたら男数人から熱の篭った視線を感じた。
(もちろん、隣にいた俺はそんな奴らに牽制も忘れなかったが)


鈍感なこいつは丸っきり自分にあたる視線なんて、気が付きゃしなかったけど。

よく、今までその身体が狙われなかったもんだ…と感心してしまう。


 それからこいつは無自覚フェロモンにくわえ、無自覚のど天然のアホでもある。
むかつく事に、こいつは俺が迎えに行くまでミカとかいう女に騙され貢いでいた。ミカ以外にも男に多額の借金を背負わされたり、友人に裏切られたり…と散々人に騙されて生きてきたらしい。
なのに捻くれず、純粋な心のままここまで生きてこられたのは奇跡といえよう。
俺が日吉の人生を歩んでいたら、絶対、捻くれてしまい人が信じられなくなって、道を外していたと思う。


そんなどこまでも純粋な日吉だから、こんな俺はいつだって救われ、癒されている。
もう、誰かのモノでいる日吉を見ていたくないと思うくらいには、独占欲だってある。願わくば、自由が好きなギャル男を、自由を奪い俺だけが待つ部屋に監禁したいと思うほどに、日吉にいかれている。


 たまたま身体の具合が良かったので、そのままセフレにしたんだろ、なんて日吉は俺がどれだけ好きだと告げても、俺の愛を信じようとしないけれど。

 本当は酔った日吉を連れて帰ってきたのが、俺たちの関係の始まりではない。
俺はずっと前から日吉を知っていて、日吉に恋をしていた。
日吉が俺を知るずっと前から、日吉のことを見守っていて、会う機会を伺っていた。


ずっと、遠くから見ていたんだ。
胸が切なさで痛くなるほどに、あいつを思っていた。
日吉は知らないが、絶対、俺との本当の初めての出会いなんて覚えていないだろうけど



日吉が知らないところで、俺は日吉を調べあげていた。
日吉の行動を知るためにわざわざ、探偵会社なんかもやとったりして、軽く、ストーカー入っていたかもしれない。


日吉にはまだばれていないが、俺は日吉よりもだいぶ年が下である。
だから本当は、もっとしっかりとした人間になってから日吉を迎えに行こうと思っていた。
花束なんか、持って。


『ずっと、お前が好きだった』

なんて、告白をして。



しかし、“あの日”
一瞬にして、俺の密かな野望は消え去った……。


“あの日”

日吉が酔っ払っていた日。
あの日、俺は機嫌が特に悪かった。
日吉が変な女に騙され、今にも死にそうだ…と日吉の情報で頼っていた情報屋から、連絡がきたからだ。

情報屋に見せられた写真の日吉は凄くやつれていたし、俺が惚れた日吉の外見とはかけ離れた容姿になっていた。

俺が好きだった黒髪は、脱色し、痛んだ金髪になっていたし、耳には沢山のピアスをつけていた。

俺じゃない、人間に変えられていく日吉。
それも、やせほそろえ、悪いほうへ使われている≠セけ。

俺の好きな日吉を、なんとも思っていない人間が利用し日吉を道具とする。
俺の、日吉なのに。
俺の、もの、なのに…。

そう考えたら、今まで我慢していたものがプツン、ときれた。

あの日、公園で会ったのはたまたまじゃない。
本当は日吉の家に行き、そのまま拉致ろうとしていたから。
とにかく、あの日俺は日吉を自分のモノにしようと躍起になっていた。

他のやつに不幸にされるくらいなら…俺があいつの人生を変えてやる。
俺の手で愛してやる。

年下だけど、男同士だけど…俺が一番日吉を愛している。

『ふぎゃ!』

日吉の家の途中にある公園。足早に走っていた俺になにか≠ェぶつかってきた。
ぶつかった何かに苛立ち視線を寄越すと…そこには俺がずっと待ち望んでいた日吉≠ェいた。

写真で見るよりも、随分日吉は痩せていた。

どうして、こんなやつれた?
それに…。
どうしてそんな酔っ払っている?
なんで泣いたみたいに、目元が赤い…?

「……すいません、」

日吉が俺に謝る。
だが、俺の怒りは止まらなかった。
日吉をこんな風にした人物に

俺の日吉を傷つけた人間に。

「許さねぇ…」

それからはもう、衝動的だった。
日吉の鳩尾辺りを殴って、気絶させて家に連れ帰って…。


そして、ようやく、俺という存在を日吉に認識させた。





日吉は、知らない。
俺が本当に、日吉を愛していること。
お前のことを、お前が思う以上に想っていることを。


 俺が、早くこいつを奪わなかったばっかりにこいつは沢山の人に騙され、傷つけられた。
馬鹿をした…と、再会した今でも、時折後悔の念に苛まれる。
欲しいものはやはり早く手に入れるべきなのだ。
我慢などせず、とっとと自分のものにする。
そして、手にしたが最後、誰にも傷つけられないよう、真綿のように優しく包んで宝物ように大事に大事にしまっておく。

もう二度とその心が傷つかぬように。


  日吉は、俺がストーカー紛いの事をしていた事を知らない。
今も、俺を生活能力皆無のギャル男の面倒を無償で見てくれるボランティア精神あふれる、ただの世話好きと勝手に思っている。

下心ありありで付き合っているというのに、このど天然のアホには通じないらしい。
お前ってほんと、大人だよな〜とか、クールだよなぁ…、と日吉は俺をほめるが、それは日吉の前では、最大限の理性を総動員しているからである


日吉が酔った日に襲った以外は、いきなり襲うという真似もしていないし、やりたいなぁ…と思っても、怖がらせないよう、お伺いもたてている。
そんな俺の努力など一切知ることもなく、日吉はいっちょまえに俺を誘惑するのだが。

「な〜。無視かよ…くそ…」
ずっと無視し続けたのが勘に触ったのか…
日吉は近くにあった枕を俺に向かって投げた。

可愛らしい、反抗。

しかし、すぐには反応してやることはなく、堪えられない笑みを浮かべながら、パソコンを打ち続けた。

「…あ…っん…ん」
「っ!」
「はん…ぞう…」

日吉が、甘い声で俺の名を、呼ぶ。
ゆっくりとベットに振り返ると…
日吉はズボンに手を入れ、自分の欲望を慰めていた。

荒い息、真っ赤に染まる頬。
潤む、瞳。誘うように開く、唇。

「したく、ないか?」
「アホ…」

ギャル男の癖にこんな真似覚えやがって…。こんな痴態みせやがって…!
つい、最近まで肌に触れるだけで恥ずかしがっていた癖に…。
俺以外にやってたら、ただじゃおかねぇからな。

こんな姿見せられてパソコンを打てるほど、俺はまだ枯れていなかった。

痴態を繰り広げる、日吉を後ろから抱き込むように抱きしめる。
右手は自分を慰める日吉の手に重ねて。

首筋をきつく吸う。
真っ赤なキスマークが肌に散る。
俺の、俺だけの所有の証。

俺はそれに満足しながら、日吉の足に自分の足を絡めた。


百万回の愛してるを君に