「おう、朔夜」

聞きなれた声がして、声の方に振り返る。
に、っと、人好きするような笑顔で笑いかける、人。
同じ制服を身に着けて、俺を見つけ、ゆったりとした足取りで近づいてくる、その人。
新しい制服が、まだ見慣れなくて、どこかいつも見ている人間なのに違う人間に見えてしまう。


「孝介」

声の主は同じ中学出身の幼馴染で親友の、桜井孝介(さくらいこうすけ)だった。
孝介は、相変わらずの爽やかで男前な顔をしながら、周りを魅了している。
孝介のその容姿は、男から見ても、羨ましいと思える顔立ちだった。

少し鋭い目をした、男っぽさを兼ね備えた男。
ワイルド系、っていう感じだろうか。

現に、孝介と話している俺に対する視線の数が凄い…

俺もそれなりの容姿らしいので、ほどほどに視線を集めるが、孝介ほどではない。
孝介は、ちょっと釣り目で、鼻筋が通っていて、鋭い輪郭で、高身長である。危険な悪っぽい印象を受けるその容姿は、そりゃあもう、女にモテる。
しかも、中学の時はサッカーをやっていて、国体にも出た実力者だ。


男前でスポーツ少年。ちょっと俺様で強引で、子供っぽくて、駆け引き上手で甘え上手。
はっきりいって、中学の時の孝介は目があった人間ほぼ惚れさせたんじゃないだろうか。
そう思うくらい、孝介はモテた。
中学の時は、教師ですら、孝介と一日話すと惚れてしまうという嘘か誠か定かではない伝説を残したほどだ。
中学卒業の時、泣いて見送った後輩も多数いる。

女だけでなく、男持っていうのが孝介らしい武勇伝だけど。


頭がよくスポーツ万能。更に、親は偉い代議士。
球技をやらせれば、ほぼ、孝介の独壇場になる。


将来は、サッカー選手か?なんてよく噂されていた。
孝介自身も、サッカーが好きで、将来はサッカー選手になるって息巻いていた。
俺もそんな夢を熱く語る親友がほほえましくて、誇らしかった。

夢を語る孝介は、何もない俺には、凄く眩しく見えた。
羨ましかったんだ、孝介が。
なんでもはっきりと言葉に出来る孝介が、俺は羨ましかった。
俺は、孝介のようにそこまで熱くなれるものもなければ、楽しいと思ったこともなかったから。


「おいおい、ちょこちょこ歩くなって。探した…」
「ごめん…つい、歩き回りたくなって」
「朔夜はいつもそうだよな…」

呆れた顔を向ける孝介。
校門前で待ち合わせ、と昨日メールで待ち合わせをしていたにも関わらず。
俺は新しい学校が楽しみ過ぎて、先に校舎に入ってしまった。
仕方ないだろ、俺って意外に突っ走る性格だから、さ。

そんな俺の性格をしっている孝介はわざわざ俺を探してくれたらしい。
優しいやつ。
流石、俺の親友である。
孝介と歩幅を合わせ、広く校内を歩いた。


「…あれ?穂積は?」

いつも孝介の傍にいる同じく小さい頃からの幼馴染の姿が見えず、孝介に尋ねる。
孝介は、ああ、といい、

「あいつなら、軟派されてた」
「はぁ?」
「ほら、あいつあの容姿だからさ…」

あの容姿、ときいて、ああ、と納得してしまう。

俺たちのもう一人の親友で幼馴染の穂積は、とても端正な顔をしていて、中性的な顔をしている。ガラスのように繊細な美少年、といったところだろうか。

色が白く、どこか冷たく感じるほどの美貌を持つ穂積は、昔から男にモテていた。
男なのに、そこらへんにいつ女性より穂積が美人だったからまぁ、仕方ない。
とにかく穂積は美人だった。

昔は誘拐されかけたり、告白されまくったり大変だったらしい。
穂積も一時期は人との接触に人嫌いにまでなったほどだ。

しかし…。


「彼氏だったら、軟派されてたら阻止するだろ…」
「ふふふ、軟派されて困った穂積ちゃんの助けを求める顔を見るのも乙じゃないか。
穂積が俺を頼り、目を潤ませる姿…そりゃあ、もうあそこにくる可愛さよ?」
「はいはい、悪趣味悪趣味」

孝介と穂積は、恋人同志だったりする。
穂積も男だから、彼氏彼氏の関係、なんだけれど。
中学の頃、穂積が孝介に告白したらしい。

あの控えめな穂積が…自分から、とは。
よほど、孝介が好きだったのだろう。

穂積が誘拐されそうになったところを助けたのも、穂積が人嫌いを克服したのも、全て孝介のお陰だった。普段クールな美人の穂積の方が、孝介にメロメロなのだ


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百万回の愛してるを君に