仕草にきゅん 

後ろの席の名前は大人っぽい。
と言うものの、喋るとそうでもない。
逆にガキっぽいというか、口を開けば本当にただの中学生。

立ち振る舞いが大人っぽいというか、落ち着いてるっていうのかな。
とにかく、要はこいつの仕草。
仕草が綺麗で、ちょっと色っぽくて、女の子らしくて、可愛い。

名前を視界に入れたら最後、気付けば釘付けになってる。
そんでもって、今も名前の仕草に釘付け状態。

派手すぎず地味すぎずな可愛いポーチから、リップスティックを取り出した名前。
鏡も見ず、なんなら窓の外を眺めながら唇にリップクリームを塗っている。

その仕草がひどく可愛くて、鳥肌が立つくらいに胸が高鳴って辛い。

さて、今の俺の顔はマヌケそのもの
バカだよな、真後ろの席の名前の事真っ正面から見つめるとか。

そんな俺の熱烈な視線に気付いても、名前はなんともなさそうに涙袋をぷくりとさせながら笑ってくる、その反応にも心臓がやられてしまう。


「唇ね、すぐ乾燥しちゃうんだ。冬なんか特にひどくってね〜ちょっと笑っただけで唇スパーンて切れちゃうの!フフッ程度でだよ?まったく血だらけで笑ってたらホラーだってのに!」


口を開くと本当にガキというか、中学生というか、うるさい。
でも名前の仕草ひとつひとつに俺は瞬殺されてしまう。

授業中も、退屈でノートとる気も起きなくて、なんとなく後ろに目をやったら、案の定名前から目が離せなくなった。

ノートに目を落とし、黒板の文字を写している途中、耳にかけていた横髪がするりとほどけて名前の目にかかった。

それを邪魔くさそうにして髪をかけあげながら顔を上げるも、前の席の俺がこっちを振り返っていたことにより、黒板ではなく俺と目が合った名前。

それから約3秒後。
名前は驚いた様子もまばたきもせず、黒目だけを黒板に向けると、再びノートに視線を落とした。
このなんともないような名前の仕草と反応が、いちいち俺の心臓を射抜いてきやがるな。



席替えをした。
真ん中、後ろから二番目の席、俺の後ろは仁王。
名前はというと、窓際の前から三番目の席。

あの仕草を真っ正面から見れなくなると思うと、ちょっとショックというより、かなりショックだ。
だって名前の奴、俺がどんだけ見てても気にしてなかったから見放題だったんだよ。
デリカシーなかったとは思うけど。

後ろの席の仁王、今は空席だ。
席替えしてたさっきの時間は居たけど、どうせまた、サボりでどっか行ったんだろうな。
不良だ、本当によ。

休み時間、特に喋る相手もいねーし、前の席がよかったな〜と今朝から噛んでいたガムを膨らませつつ、友達と話す名前の後ろ姿を見ていた。
名前も友達と席が近くなったみたいで、嬉しそうだ。

授業が始まる直前まで名前を見ていると、教科書やノートを用意していた名前が不意にこちらを振り返った。

ビビった、マジで焦った。
そんななんかやってる最中に、なんの予告もなくこっち見られたら、心臓に悪い。

俺が非常に驚いていると、名前が涙袋をぷくりと膨らませながら、口パクでこう言った。


「やっぱり見てた!」


名前はちょっとだけ恥ずかしそうに笑いながら俯いて、前を向いた。

仕草にきゅん
end.

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わらびもち

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