不幸中の幸いの幸い 

いつもの朝の身支度。
ハミガキをして顔を洗った後、私は食卓へはつかず、ミニドレッサーの前へ座った。

今日も、化粧、をするためだ。

スキンケアをして、日焼け止め対策して下地を作って、いつも通りの作業を続ける。
毎日同じことを繰り返していると自然と手が動くものだから、特に何も考えなくていい。

でも今日はちょっと化粧のノリが悪いかな…

アイブロウして、アイシャドウを塗った後、アイライナーをひこうとしたら、線が引けない事に気が付いた。


「やべっ、そういえばアイライナー切れちゃってたんだ!」


昨日の朝にアイライナーを使い果たしてしまっていた。

学校の帰りに買おうと思ってたけど、つい忘れて。


「……まずいな、どうしよう」


彼はどんな些細なことでも許さない、許してくれない。
いつもと違う顔で学校に行ったりなんてしたら、きっと昨日みたいに。

それを思い出しただけで、彼に強く握られた左手首が痛んだ気がした。


「コンビニで買おう!」


この間、コンビニでアイライナーを売っているのを見かけていた。
今の時間じゃ薬局も化粧品屋さんも開いてないし、本当にコンビニは優秀だ。

アイライナーをひくのは今は後回しにして、マスカラ、リップでとりあえず顔を仕上げて制服に着替えた。
本当は学校休みたいくらいだけど、そういう訳にはいかない。

階段をおりてリビングに居たお母さんとお父さんに挨拶をして、食卓に置いてあったお弁当を持って家を出ようとすると、朝ごはんについて呼び止められた。


「ごめん、おかあ!今朝は急ぎの用ができちゃって!」

「あら…じゃあおにぎりだけでも持ってって!」

「あんがとー!教室で食べるー!」


お母さんは素早くラップとアルミホイルで包んだおにぎりを、私に手渡してくれた。


「いってらっしゃい。」

「いってきまーす!」


お母さんの作ってくれたほかほかおにぎりをカバンに入れ、家を出た。
アイライナーなんか切らしてなかったらお母さんの朝ごはん、食べれたんだけどな〜

朝ごはんを惜しみながら、真っすぐコンビニに向かおうと小走りになった。


「やあ、名前ちゃん」

-2-

しおり もくじ
ページを飛ばす(2/14)



わらびもち

わらびもち