This is 運命


桜の匂いが残っている春の事だった──

初めて代表に選ばれた私は、勝手がイマイチ分からないまま、周りにされるがままに日本に向かった。
何年ぶりの日本だろうか。
私は中学3年生までを北海道の札幌でくらし、高校に上がると同時に両親と共にイタリアへ移り住んだ。
イタリア語なんてものは話せなかったし、不安の方が大きかったけれど、両親に叩き込まれた何とかなる精神と、元々やってたバレーボールに助けられ、なんとか高校も卒業して、実家の日本料理店を手伝いながら今はセリエAのチームに所属して頑張っている所だ。

えっと、だからなんだ?
ああ、そうそう。
日本に帰るのは、今年の正月以来だ──。

「おーい!累〜、久しぶり!」
機内に持ち込めるギリギリの大きさをしたバックパックを背負い、到着口を出ると、人の多い空港でも目立つ長身の女が私に手を振った。
わざわざ目立たんでも、と思いながら手を振り返し、彼女に近付く。
「たったの3ヶ月じゃん。てかよく来れたね」
「ウン。珍しく休みだったの」
ふわりと微笑んだ彼女は、背が高いけれどそれでも私を見上げていた。

彼女、名前は飯田圭織。
あの飯田圭織。
そう、モー娘。の飯田圭織。
ジョンソンです。

そんな彼女は、イタリアに行くまでずっと一緒につるんでた幼なじみ。
忙しいだろうから、別にいいって言ったのに、迎えにいくと言って聞かなかった。
免許も持ってないくせに。

ベルトコンベアーに運ばれてきた私の大荷物に驚く彼女を見て、東京コワイから油断しちゃダメだよ、とイタリアから戻る前の電話で話していたのを思い出して少し笑った。

代表に合流するのは明日からだ。
チームや協会のエライ人なんかはホテルを取れとか言っていたけれど、迎えに来ようが来まいが、今日は圭織の部屋でお世話になると決めていた。
つもる話も、あるしね。

私の荷物に、大き過ぎるよぉ〜!と文句を垂れる圭織に、スミマセンねぇと姑っぽく返すと、思いっきり腰を叩かれた。
不本意なり。

「もぉ、これタクシー乗るかなぁ?」
真っ黒いそれを上から下まで眺めて、圭織がしかめっ面を浮かべる。
「行けるっしょ。いざとなったら圭織縮んでよ」
「えぇ、カオそんな性能ないよ」
「役立たずなロボだな」
空港を出ながらそんな軽口を叩く。
ガラガラと荷物を転がしてタクシーを捕まえると、運転手が驚いていたが、なんとかトランクに詰めてもらえた。
「優しい人でよかったね」
そう言って微笑んだ圭織。
私は、
「おう」
と短く返事をして、運転席の後ろの席に乗り込んだ。


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