「アメフト部!?」


セナからのまさかの言葉に、ナマエは朝から大きく声を上げた。


「いやー、栗田さんがいい人でさ!でも、ヒル魔さんが「最低の人でしょ?」

「だからあれほど関わらないほうがいいって言ったのに・・・大体セナにはアメフトなんてダメよ。危ないって・・・」


そう頭を抱えたナマエに、フォローするかのようにセナは言葉を続けた。


「でも選手じゃなくて、主務だから!大丈夫、危ないことなんてないよ
アメフト自体はやらなくって、運営の責任者なんだ」

「そうなの?あ、でもじゃあなんでこんな朝早くに登校・・?」

「これから運営の打ち合わせなんだ!!」


セナの輝くように嬉しそうな顔を見て、ナマエは喉まで出かかっていた反対する言葉を思わず飲み込んだ。
じゃあ頑張ってねと、正門あたりでセナと別れ、靴箱へ向かいながら、ナマエはふと呟いた。


「セナももう子供じゃないんだなあ。なーんか、寂しいな・・・」


実の姉ではないが、幼いころからセナの姉のように接してきて、パシられたときもほとんどかけつけてセナを守ってきたナマエには、1人で何かを始めようとしているセナに対して嬉しくもあり、ほんの少しの一抹の寂しさを覚えたのであった。


*  *  *

ピコン♪

『今日から大会!主務デビュー戦だ!!
天界グラウンドにて 13:00〜』


(セナからラインだ・・・)


休日、出かける準備をしているナマエのスマホに、セナからのライン通知が飛び込んできた。
素早く内容を確認し、スマホを片手にナマエは1人ごちた。


「もう大会!?・・・そっか、アメフトの大会って4月からか・・・」


なんだか嫌な予感が胸をよぎるが、友達との待ち合わせ時間も迫ってきている。
ナマエはスマホを鞄にしまい、準備にとりかかった。


*  *  *


「ごめーん!遅れちゃった!!」

「私が早く着いただけ、ナマエは時間通りだよ、ホラ」


そう言って、時刻を表示してスマホを差し出してくるのは、時田遙稀(ときだはるき)。
本人は読みだけ耳にすれば男の子ともとれる名前を嫌い、よう(遙)ちゃんと呼んでと言っている。
ようちゃんとは、中学からの親友で、高校は分かれてしまったがこうしてたまにランチだったり遊んだりしている仲である。ちなみにようちゃんが通っている高校は、王城高校だ。


「久しぶりだね!前会ったのは去年だから・・・4か月ぶり?」

「そうだね、なんか変わったことあった?そうだ!ナマエ、彼氏できた??」


女子高生が2人集まれば、大体は恋バナになるだろうが、この2人も同じだった。
特にようちゃんは恋愛のエキスパートと呼んでもいいくらいの経験豊富さで、今まで彼氏ができたことがないナマエが常に聞き役だった。


「できるわけないよー!というか、付き合いたいって思える人がまだまだ現れないかな。それより、ようちゃんは?前会ったときに言ってた、サッカー部の彼氏との話聞きたいな!」


そうようちゃんに水を向ける。
そうすれば、なんでもないようなことのように、ようちゃんはサラリと言い放った。


「あぁ、その彼氏ね、もう別れちゃったんだ」

「えっ!?なんでなんでなんで?ようちゃんとその彼氏ラブラブだったじゃん!」

「んー、なんだかね、合わないなあって思って・・・」

「そうだったんだ・・・」

「あ、でもね、私好きな人ができたの!」

「好きな人?だれだれ?同じ高校?」

「うん!アメフト部の進くんって人で・・・」



やっぱり恋愛のエキスパートのようちゃんは違うなあと思っていたら、出てきたアメフト部というワードに最近よく聞くなあとぼんやりと考える。


「アメフトの大会が今度あるから、見に行くつもりなの!ナマエも来る?」


そこまで聞いて、昼過ぎにきたセナからのラインを唐突に思い出した。
『天界グラウンドにて 13:00〜』

スマホで時間を確認する。13:40前。
確かアメフトの試合時間は60分。天界グラウンドまでなら、ここから1駅だ。
今から急いで行けば、試合終了までに間に合うだろう。


(なーんか、嫌な予感がするんだよね・・・)


「ごめん!その進くんって人の試合、今度一緒に見に行く!今日は急用ができたから、また今度!!クレープおごるから、ほんっとごめん!!」


急にスマホで時間を確認したかと思えば、身支度を整えてさっさと行ってしまった親友にぽかんとしつつも、今度会ったときは思いっきり進くんの話をしてやろうとのんびりとオーダーしたフラペチーノを飲む遙稀だった。


*  *  *


「すごい・・・」

(あんなセナと同じくらいちっちゃくてもすごい選手もいるんだ・・・セナだって・・・)

「ってこんなこと考えている場合じゃない!」


天界グラウンドに到着し、どうやら逆転タッチダウンを決めたらしい背番号21番の選手に視線を奪われたナマエは、こうしちゃいられないと泥門側ベンチにいた石丸に話しかけた。


「石丸君!セナいる?」


石丸だけでなく、ほかの選手も顔を見合わせて口々に教えてくれた。


「主務でミスったとか・・・」

「裏でヒル魔に殺されてる・・・」

「なんてこと・・・!?裏ね、分かったありがとう!ちょっと探してくるね」


そう言ってナマエは駆け出す。


「セナー!セナー!!」

(どこにいるんだろう・・・)

「セナ!」


ナマエがセナを見つけた時には、泥や草にまみれ、制服もぐちゃぐちゃになっており、一目で無惨に扱われたのが分かる状態だった。


(セナ・・・)


ごめんねと呟いてセナを抱きしめ、ナマエはキッとヒル魔の方へ向かった。


「ヒル魔!くん!!」


「#familyname#が怒ってんの、初めて見たかも・・・」

「ヒル魔に突っかかってるよ・・・」

「巻き込まれたくない・・・」


正に怒り心頭!なナマエの様子を見て、石丸を始め助っ人メンバーが口々に漏らす。


「ナマエ姉ちゃん・・・違うってかその・・・」


この状況を真に理解しているセナだけが、どうにかナマエに真相を話そうとするが、怒っているナマエにとってはセナがヒル魔に脅されて言わされているようにしか見えないため、全く聞いていない。


「どうしてセナにこんなことするの!今まで好き勝手しているなって思っていたけど、今日ばかりは許さない!!」

「ほ〜〜〜?許さないと、どうなる?」

「許さないと・・・・・・・!」

「部活停止処分の申請でもするか?」


そう茶化すようなヒル魔の態度に、ぐっと我慢してナマエは答える。


「そんなことしたら、失格になっちゃうじゃない。今、大会中でしょ・・・」

「とにかく!セナをいじめるのだけはやめて、もうセナに関わらないで!」


そうしてもう話は終わったとばかりにナマエはセナの手をとり、グラウンドから立ち去ろうとする。


「私がもっといい部活探したげる!ほら行こセナ!」


そのまま手を引こうとすると、セナはナマエの手をそっとふりほどいた。


「セナ・・・?」

「いいんだ、ごめん。ナマエ姉ちゃん。わざわざ来てくれたけど、僕、残るよ」

「えっ、セナでも!」

「アメフト部、続けたいんだ!」


吹っ切れたようなセナの表情と言葉に、ナマエは返す言葉もなく、戸惑った。


「でも、このままだとまたいじめられるかもしれないよ?」


あせあせとセナを心配する様子のナマエを見て、ヒル魔がピーンと何か思いついたとばかりにセナに駆け寄る。


「いやーセナ君に仕事を押し付けすぎた!そりゃ主務とマネージャー両方の仕事をしていたらミスもするな!」

「マネージャーさえいてくれれば、セナ君は主務の仕事さえしておけば済むし、助かるんだけどな〜」


チラチラとナマエを伺いながら三文芝居を打つような口調でセナに話しかけるヒル魔に、セナは(何か絶対また企んでる・・・!)と怯えているが、心配するあまりにナマエは全く気が付かない。


「マネージャー?それって誰でもできる?女子でも?」


そう尋ねるナマエに、栗田は恐る恐るこっくりとその大きな顔をうなづかせる。


「じゃあ、私がアメフト部のマネージャーになるわ!」

「「えーーーーーーーっ!!!」」

「労働力ゲーット」

「そんな、僕は大丈夫だよナマエ姉ちゃん」

「これから何かあったら私に言うんだよ!」


泣いて喜ぶ栗田に、ナマエも巻き込んでしまったと焦るセナ、労働力が増えたとケケケと喜ぶヒル魔。
ヒル魔にダメ押しで念を押すナマエに、次の瞬間聞き覚えのある名前が飛び込んでくるのであった。


「とにかく、セナに無茶言わないでね!次の試合相手どこ?」

「王城ホワイトナイツ」

「「「えーーーーーーーー!!!!!」」」


(ようちゃんとこの進くんだ!!)




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