休日の過ごし方のすすめ






「あかり?」


どこのユニットとの予定が入っていない、久しぶりの本当の休み。ひとりでレンタルビデオ店に来ていたら、突然声を掛けられた。振り返ると、誰よりも眩しくて明るい、大好きな笑顔がそこにあった。


「守沢先輩!こんにちは!」

「おっす!奇遇だな!」


まさか休日のレンタルビデオ店内で遭遇するなんて。しかも守沢先輩から気付いて声を掛けてくれるなんて。これはもう今年一番の休日確定。


「先輩、おひとりですか?」

「ああ。あかりは?」

「わたしもです。こういうとこに家族と来ると、少なからず気を遣ってしまうから」

「確かにな。長時間の物色は、ひとりの方が気楽だよな」


わたしの意見に同調して笑顔を弾けさせる守沢先輩。その手の籠の中身は、最近よく聞くタイトルと同じものがずらり。その話題になるといつも以上に熱が入るから、多分相当ハマってるのだと思う。自分の好きなものを語ってくれる、先輩のそんな姿が好き。


「新作、出たんですね」

「うむ!待ち望んでいたものが漸く出てな!次の休みには絶対見たいと思っていたんだ」


オンエアはリアルタイムで見て、そのうえレンタルはほぼ最速で借りている。普段から特撮がお好きなのは知っていたがここまで徹底しているとは。逆に感心しちゃう。


「あかりは、なにを借りるんだ?」

「……あまり女の子らしくなくて恐縮ですが…」

「どれどれ…」


わたしが持っている籠の中身は全部アニメ。しかも派手で躍動感のある戦闘シーンが見所というバリバリのバトルもの。先輩が抱いているであろう女の子のイメージとかけ離れているだろうけど、見られてしまったものは仕方ない。


「あまり可愛くない趣味ですみません」

「全然。そんなことないだろう。最近は女の子にも支持される少年漫画も多いと聞く。それに好きなものがあるのは良いことだ」

「そ、そうかな…」


守沢先輩がおおらかなのは知ってたけど…ここまで誰かの変わった趣味を平然と受け入れてくれる方だとは思わなかった。嬉しい。否定されなかったことが、こんなにも嬉しいなんて。


「これ、面白いのか?」

「はい。この前再放送してて、たまたま見たら面白かったんです。途中から見て興味そそられるアニメに出逢えたのは久しぶりだから、話をよく知りたくて」

「成程な。それはまさに物事を極める姿勢だ。素晴らしい」


俺とおんなじだな!と笑ってくれる先輩。わたしの趣味がイマドキ女子高生が見るであろう恋愛映画とかじゃなくても決して馬鹿にしないでいてくれる。ほんと、見られたのが守沢先輩でよかった。


「な、あかり」

「はい」

「それ、一緒に観てもいいか?」

「…え!?」

「だめ、か?」

「えっと、そういうわけでは、全くないのですが…」


寧ろこのお誘いは凄く嬉しい。休日にプライベートで守沢先輩と過ごせるなんてこの先こんなことはまずないだろう。本当なら二つ返事で快諾したい。


「是非って言いたいのですが…守沢先輩、もしかしたら苦手なジャンルかもしれません。戦闘ものなので殴り合いは普通にありますし、特撮ものより乱暴ですし、血もよく出ますし、人も死にますし……」

「う、ううむ……まあ、そうするなりの事情があるのだろう。そいつなりの正義もあるかもしれない。そこらへんも含めて、教えてくれないか」

「わたしも実はそんなに詳しくなくて…教えられるだけの知識がまだないんです。それでもいいですか?」

「勿論だ!お前が興味を持っているものを、俺にも教えてほしい」


ううっ…そう来たか……!何故このひとはこんな、その気にさせるようなことをさらっと言ってしまえるのか。天然とは恐ろしい。…ならば。ちょっと小狡いことを言っても、受け入れてもらえるだろうか。


「一巻と二巻が、家にあります。折角ですし、そこからご覧になりますか?」

「ああ、是非観たい!…となると、あかりのお宅にお邪魔してもいいのか?だめなら、うちでもいいぞ」

「……うち、来ますか?」

「親御さんの迷惑にならないなら」

「それは間違いなく大丈夫です。…あの、守沢先輩」

「なんだ?」

「その代わりと言ってはなんですが、わたしにも、先輩が今お好きな特撮のこと、教えてください」


わたしも、守沢先輩と同じものが見たい。守沢先輩が好きなものを好きになりたい。守沢先輩と、気持ちを、時間を共有したい。


「そうか!興味をもってくれて嬉しいぞ。じゃあ今日はふたりで観賞会耐久レースだな!お前を特撮の虜にしてやろう!」


…特撮というより先輩の虜ですよ。そう言えたらどんなに楽なんだろう。しかし玉砕がわかってて気持ちを伝えられるほどわたしは勇者じゃない。変に先輩に気を遣わせて、関係が拗れてしまうのも不本意。そうなったらもう二度と、この純粋な笑顔を見せてもらえなくなるだろう。

だったらせめて、仲がいい先輩と後輩としてでもいいから、この巡り合わせを思いっきり楽しもうと思う。いつもみんなのヒーローで、みんなのアイドルの守沢先輩だって、きっと休日は普通の男子高校生。その時間を少しばかり独占したってバチは当たらないよね。



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