祝福のカウントダウン
「ちづると、なにをはなしていたんですか」
高峯の誕生日を明日に控え、高峯を除いた四人でサプライズパーティーの準備をしている最中。一緒に作業していた奏汰から、唐突に質問を食らった。
「ん?なんのことだ?」
「いちばんさいしょにちづるをみつけたの、ちあきだったでしょう」
「いちばん最初?……ああ、流星祭のことか」
そういえばそうだった。俺が運良く最初にちづるさんと合流できて、みんなに連絡したんだ。ぼんやり数日前のことを思い出していると、こちらのことなどお構い無しに「…で、なにをはなしてたんですか?」と追及してくる奏汰。距離が近い。今回はなんでこんなに食い気味なんだ。魚絡んでないぞ?
「なに、と言っても…大したことは話してないぞ?」
「いえないことですか」
「なんでそうなる」
「なら、おしえられますよね」
「別に構わんが、ちづるさんに訊けばいいだろ」
「…ぼくは、ちあきにきいてます」
おお…引き下がらないな。しかもかなりの圧を感じる。ここまで頑固な奏汰は珍しい。まあ、別にやましいことは全くないし、俺が言うことには問題ないつもりだからいいんだが。
「特別なことを話したつもりはないぞ。ほとんど奏汰のことだ」
「ぼくですか?」
「ああ。奏汰がどれだけちづるさんのことを大切にしているか。俺が知る限りで話しただけだ」
「…たとえば?」
「具体的に言うなら、そうだな……あの日、ステージ上から奏汰がちづるさんを見つけて嬉しそうにしてたことと、必死になって捜してたこと。あとは普段の生活でもちづるさんの話ばかりだと…あだっ!!」
結構本気で殴られた。お弁当のおかず一口くれと冗談を言ったときと同じくらいの痛さ。お前の手刀は最早凶器なんだから、むやみやたらに振り回すな。そして南雲に「ちゃんとやってくださいよ〜、言い出しっぺ隊長」と怒られた。やり取りは聞こえてなく、俺の呻き声だけ聞こえてたら不真面目に思われても仕方ないかもしれない。残り少ない夏休みの時間を割いてもらっている手前、咄嗟に「すまん」と謝ったが、よくよく考えれば理不尽。
「ちあき。ちょーっと、おくちをすべらせすぎましたね」
「いてて……しかし、事実だろう?」
お前がちづるさんのことを大切に想っていることは本当だろう。他に誰が気付いているかは知らんが、少なくとも俺はそう解釈している。…じゃなければ、あんな嬉しそうな顔して毎日お弁当見せびらかさないだろ。あんな人だらけのお祭りのなか、必死に捜し回らないだろ。
「まあ、そこは『ひてい』しませんよ」
「だったらなんで殴った」
「…ぼくがちづるをどうおもっているとか、そういうことは、あまりいってほしくなかったです」
「む、そうか?」
「そうです。…まんがいち『ごかい』されたら、いやなので」
誤解、か。なにを、どう誤解するかはわからんが、奏汰が嫌がることを結果的にしてしまったのは、まずかったな。たとえ俺にそういうつもりがなかったとしても。奏汰が実際に思っていることと違う意味で伝わってしまったら、確かに困るよな。
「確かに、余計な世話だったかもしれんな。すまん」
「ぼくは、いいですけど。ちづるの『めいわく』にさえ、なっていなければ」
「それはないと思うが。ちづるさんに限って」
「なんでそうおもうんですか」
「そう問われると勘としか言えんが……お前こそ、どうしてそこまで気にする?」
「きまってます。ちづるの『おもに』に、なりたくないんです。……きらわれたく、ないんです。ちづるには」
奏汰は今までどちらかというと周りを巻き込むタイプだった。のほほんとしながら、自分のペースに相手を巻き込んでいることが多かった。もともと思いやりにはあふれているが、良くも悪くも他人のことを気にしなかった。その奏汰が、ここまで気を遣っている。それどころか、はっきりと「嫌われたくない」とまで言った。こんなに短期間で、こんなに変わるとは思わなかった。本人も絶対に気付いていないだろう。
この変化が良いものか悪いものなのかは、まだわからないけど。俺としては、良いものだと思っている。願わくは、奏汰にとっても、そしてちづるさんにとっても、そうであってほしい。
「…これは、あくまで俺個人の感想だが」
「はい」
「奏汰の不安は、取り越し苦労だと思うがな」
「…と、いいますと?」
「お前とちづるさんは、とてもなかよしに見えるぞ」
だから元気出せ。そんなに心配するな。そういう意味で言ったつもりだったのだが「あまりちづるをじろじろみないでください」と本日二度目の手刀を食らった。理不尽。
とにもかくにも、奏汰だって明後日になればわかるだろう。自分がどれだけちづるさんに大切にされているか。恐らく、奏汰が想像する以上のことが、待っているはずだ。
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