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私がご案内致します、この夜行列車ゆうねまどいは、お亡くなりになられた御客様を、次の駅。
つまりは新しい世界へお連れする役目を持った列車で御座います。
席の数には限りが御座いますので、全員をお連れする事はできません。
ですが、もし強く望むのであれば、私達は精一杯のおもてなしをさせて頂きます。
あら、新しい御客様がいらっしゃいましたね、私の出番です。
「いらっしゃいませ、御客様」
黒いセーラー服に身を包み、地面に付くほど長い黒髪をなびかせた少女は、元の世界を蹴って列車に飛び乗った。
「いらないの、こんな世界。 早く次に連れていって」
怒っている様な、睨み付ける様な、泣いている様な。
とても複雑な顔の御客様は、私に目もくれず続ける。
「嫌い嫌い嫌いっ! あんな世界っ!
ボクを産み落とした世界が憎い!
ボクを裏切ったアイツ等が憎い!
ボクを認めない社会が憎い!
ボクを蔑んだあの目が憎い!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
ボクを愛してくれない全てが憎いっ! 」
今まで溜め込んでいたのであろう思いを吐き出す御客様。ここではそう珍しくはありません。
何に怒ろうと、嫌おうと、憎もうと、私には関係ありませんし、関わる事もできません。
「でも」
そう一言呟くと一転、御客様は恍惚の笑みを浮かべて、私を見た。
「彼は違う。
彼はボクを裏切らない。
彼はボクを認めてくれる。
彼はボクを蔑まない。
彼だけはボクを愛してくれるんだっ。
だから彼と行く事にしたんだ、
一緒にいられる世界に! 」
私は理解しました。
「ではお連れしましょう、次の駅へ。
御客様が望むのなら、何度でも」
私は、理解したのです。
彼など、存在しないのだと。
そしてその願いを、ゆうねまどいは叶える事を。
「彼」はもうゆうねまどいに乗っているのだろうか。
妄想と想像と願望と逃避によって造られた少年は。
ゆうねまどいが望むのであれば、私は罪を繰り返す事を咎めはしません。
ただ、純粋に幸せを願う少女と少年が、無謀とも言える駅巡りをするであろう事に。
ほんの少し、心を痛めるだけです。
嗚呼もうすぐ、次の駅への扉が開きます。
ふたりの御客様がその駅で会えるかは私にはわかりません。
開いた扉をくぐる御客様に向かい、
「御客様、どうかお気をつけて」
私には、そう言う事しかできません。
だから私は見守る事にしたのです。私の過去の罪を見つめる様に、ふたりがいつか幸せになれる様に。
ふたりの物語を綴りましょう。