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帰りたくない/月島


ヘッドホンから流れる音は、いつもと変わらない。不意に聞こえた"キィー"という音。

視界だけをズラして見えてきたのは、月明かりに照らされたブランコに座る一人の女。それが遊乃じゃなけりゃ、見なかったフリをして帰路に着くのに…。


「何してんの」

『…よぉ、つっきー』


僕を見るなり、ヘラっとした笑顔で緩く手を振る。…質問してんだけど聞いているのか、いないのか。


『そっちこそ、何してんの』

「部活帰りに決まってるデショ」

『あぁ…おつかれ。私はねー、なんとなく』

「ふーん」

『ちょっと、あんたから聞いたんでしょーが』


ガシガシと頭をかいて、隣のブランコに同じように座る。懐かしい感覚と共に自分が成長したということをブランコの小ささから実感する。


『…懐かしいよねぇ、ブランコ。小さい頃は馬鹿みたいにはしゃいでた』

「簡単に想像出来たんだけど」



その言葉に小さく笑った彼女は、ゆっくりとブランコをこぐ。小さかった揺れは徐々に大きくなり
、こちらにまで反動が伝わってくる。

思い切りブランコから飛んだ彼女は、綺麗に着地したかと思うと、そのまま座り込んだ。持ち主を失ったブランコは派手に揺れる。


『……ッ、いっつ〜〜!!調子乗りすぎた』

「分かってはいたけど、馬鹿だよね」

『うるっさいな』

「…ハァ、いい加減帰るよ。送る」


地面に置き去りにされていた遊乃のカバンを持ち、彼女の前を通り過ぎようと、した。


『……けい』


弱々しく囁かれた、僕の名前。弱々しく掴まれた、僕の制服。不覚にも心臓が音を立てる。


『…まだ、一緒に…居たい』



ほんっと、反則にも程があるデショッ!!

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